嬉しい再会
物吉貞宗と亀甲貞宗の道案内に導かれ、どんどん洞窟を歩いていく。此処は不思議な洞窟のようだな。不思議と身体が楽になる。石切丸が居ない今、無理も出来ないだろうし、身体が楽になるのは有り難い。や、無理をするつもりはないからそんな目で私を見ないでくれないか?小夜、お前にそんな目を向けられるのは非常に困るんだが。不動、お前も目を光らせなくて良いからな。青江、もてもてだねぇ、とか言ってないで助けてくれないか。無理か、そうか、なら仕方ないな。長谷部は気にしなくて良いからな、物吉と亀甲を見張っておいてくれ。
(…少々、過保護過ぎないか?)
長谷部は世話係だし、小夜はまあ、分かる。青江はからかっては来るが、さっきから警戒を怠っていないし、コウモリにすら私に近付かせようとしない。まあ、有り難いに越したことはないが。不動は私の懐刀として連れて来ているし、警戒して貰わなければ困るのだが…何というか、人不信の犬猫のような感じだ。ピリピリしているし、些細な物音でも聞こえれば、そちらを怪訝そうな顔で見つめ、何が原因か分かるまで警戒を怠らない。そんなに気張ることはないとは思うんだがな、悪意は感じられんし。まあ、今は何も言わないでおこう。
暫く歩いていると、明かりが見え、開けた場所に出る。上を見上げれば雲一つない快晴だ。洞窟独特の息苦しさが消え、思わずふう、と息を付けば、前方に人影が見えーー長谷部達はいつでも抜刀出来るように本体に手を掛ける。…喧嘩っぱや過ぎないか?
「薺さんを連れて来ました!」
「…余計な連中も居るようだな。はっ、自分から行きたいと言ったから譲ってやったのに何たる体たらく!俺が行く方が良かったんじゃないか?」
「弟を責めないでくれないかな、大包平。それに、君だとすぐに手を出してしまうから向かないと言われていただろう?」
「ふん、多少の手荒な真似なら許可を…「ぷぎゃああ!!小さい子!小さい子が居ますよ、大包平さん!!」五月蝿いぞ、毛利!!」
「こうなった毛利は止められないからねー…あのお姉さんが大将か。懐に入れてくれるかな?」
「お前はそればっかだな…」
「あのお姉さん、人妻かな?」
「長谷部!長谷部じゃなかと!小夜も久し振りたいね!」
「ーーやはり、お前も居たのか。博多」
「…姉様、彼は博多藤四郎。前に一緒の主の所に居たことがあるんだ」
「…うーん、これはこれは。会いたかったけど、この再会は嬉しくはないかなあ…」
「私は貴方に会えて嬉しいですよ、青江」
長谷部に向かって金髪が飛びついて来たと思えば、小夜とも知り合いだったらしい。以前の主、というのは付喪神になる前と解釈した方が良いだろうな。それについてはまだまだ勉強不足なのは否めない。もう少し勉強せねばならないな。歌仙辺りにご教授願おうか。嬉しくない、と言いながらも口元が緩んでる青江に素直じゃないな、と苦笑していれば、煌びやかな印象を受ける優しそうな男が穏やかに笑う。細目、なんだろうか。そんな風に思っていれば、不意に亀甲と目が合う。亀甲は心底嬉しそうに破顔した後、クイっと顎である方向を示し、釣られるようにそちらに視線を向けーー…ヒュッ、と息が止まりかける。…ああ、私が見間違える筈がない。あの姿は、
「っ、…随分と久しいじゃないか。ーー神楽」
声が、震える。もう2度と、会えないと思っていた友人が、かつてのように笑っている。最期すら看取れなかった私を、まるで気にしていないと言いたげに笑っている。これは、夢なんだろうか。覚めたくはないな…隣で不動が不安そうに見て来るのが分かるが、すまない。今はちょっと反応出来そうにない。私の反応に対し、神楽は困ったような顔をしながら口を開いた。
「随分と会わない内に涙脆くなったみたいだな、薺」
「っ、お前のせいだろう。…生きて、居たのか?」
「いいや、確かにあたしは死んだ。今のあたしは魂だけだ。どうやらコイツ等に引き止められたみたいでな」
「知り合い、だったのか?」
「あー…説明が難しいな。奈落がそっちの奴等の審神者を操ってたのは知ってるだろ?完璧に操られてなかったことも。あの人間は精神力が強かったみたいでね、奈落に打ち勝つこともたまにあった。そんな時、自分に何かがあって本丸、だったか。そっちの刀剣男士達に危害が加わるようなことがあったら困るって訳で、物吉達が顕現されたんだよ」
「…それは真実なの?」
「信じるの信じないもそっちの判断だな。あたしは無理強いはしない。あたしは奈落に言われて最初からあの人間の見張り役だったが…まあ、彼奴に従うつもりはなかったからな。あの人間の精神力に賭けて利用することにしたんだ。奈落を弱らせてくれればあたしは助かるし、あの人間は刀剣男士達を奈落の手先にしたくなかった。利害は一致してるだろ?謂わば見張り兼協力者みたいなもんだ。だから、あたしの命令にも従うって訳」
「成程。…私のことを考えていたのは最初からか?」
「主?何のことだよ…?」
「私なら奈落の野望に気付き、此処の審神者を救うことが出来るかもしれないと踏んでいたのだろう?私の浄化なら奈落の洗脳を解ける、と。まあ、奈落には通用しなかったみたいだがな」
「はあ、相変わらず薺は勘が鋭いから説明の手間が省けて助かる。その通り、あたしはあの人間が奈落に対抗出来る時点で薺に頼れば何とか出来るって思って接触しようとしたが…奈落が警戒しない筈がないんだよな。あの人間が此処や本丸から出られないように細工をしたり、あたしが薺に接触しないように神無と常に行動させたり。…あの野郎の用意周到さには手も足も出なかった」
「だろうな…奈落は私と神楽が出会うのを恐れていた。ご丁寧に呼び出しては他愛のない話をしては拘束していた。毒まで盛ってな」
「毒…!?そんな、今は大丈夫なんですか…?」
「私を殺すつもりはなかったみたいだから安心してくれ、長谷部。…神楽、お前の最期を聞いても良いか」
「アイツから聞いてるんじゃないのかい?」
「本人から聞きたい」
「…あたしの心臓は奈落が握ってるのは知ってるだろ?あたしが犬夜叉達に肩入れしてることに気付いた奈落はあたしを解放してやると言って毒を盛って心臓を返した。その毒に堪えれなかった。…それだけさ」
「…そうか」
それだけしか、言えなかった。私が浄化の力に長けていることは奈落は知っているし、だからこそ奈落は私を神楽から遠ざけようとしていた。最初から神楽は捨て駒だったのだろうな。私が神楽に心を許すのも見越して、だろう。本当に、腹立たしいくらいに奈落には敵わんな。彼奴の頭の良さは理解出来ん。味方であったら、大層心強かったであろうな。もし、私が奈落の誘いに乗りさえしなければ、神楽を死なせずに済んだのだ。天生牙を持つ殺生丸が居たのだから。私が毒に侵された心臓を浄化し、殺生丸があの世の使いを斬り捨てる。そうすれば、神楽は助かった筈なのだ。…私が奈落と茶会をしていたその時、神楽は、命を落としたんだ。私が、奈落の誘いを断わってさえいれば…
「薺、考えるな。あたしは良かったんだよ」
「…自由に、なれたか?」
「どうだろうな…確かに奈落からは解放された。でも、コイツ等によって引き止められたからな…自由、とは言えないかも知れない」
「楽しかったのだろう?」
「…そう、だな。楽しかったよ。こんな思い、出来るとは思わなかった。馬鹿やってるのが、…楽しかったんだ」
「…神楽」
「あたしはもう死んでる。それはもう揺るぎないようの事実なんだ。もう魂も限界みたいだしな…薺」
「…何だ」
「あたしの、とは言えないが…コイツ等を宜しく頼む。精々可愛いがってやってくれ」
「ーー…ああ、心得た」
神楽が面倒見た刀剣男士なんだ、引き取るに決まっている。長谷部達は反対するかも知れんが、私にとっては神楽の形見のようなもの。他の誰かに譲ってなどやらない。刀解なんて以ての外だ。もし、彼等が私を主と認めないとしても、私は見捨てたりなんかはしない。後で皆に説得しなければな…
「…もう、消えるのか?」
「いいや、迎えが来るからまだ消えないよ。…それに、普段の薺を見てから逝きたい」
「…だったら朔の日以外にすれば良かったんじゃないか?」
「…返す言葉もないな。巴、茶を淹れてくれないか。少しばかり話をしよう、薺」
「ああ、任せてくれ。美味い茶を淹れよう」
「私は嬉しいが…長谷部達は構わないか?」
「主、俺達のことは気にしないで下さい。博多達と話してますから」
「でも、不動さんを同席させるのは許してね。えっと、神楽さん」
「構やしないよ。あたしは1人で構わないし」
「け、…主に何かしたら許さねえからな、ダメ刀だってナメんなよ!」
「こら、不動。すまないな、神楽」
「…無事に馴染めてるようで安心したよ。薺、幸せになりなよ」
「大丈夫だよ、神楽さん。主を大好きな刀はいっぱい居るからね。これでもかってくらいとろとろにさせるからね、…幸せにするってことだよ?」
「青江、貴様はよほど圧し切られたいようだなァ?…ご安心を、この方には幸せになって貰う以外考えてませんから」
「…そいつは安心だな。薺を頼むぞ」
「「「「勿論」」」」
「…こいつはまた、…はは、嬉しいな」
神楽の言葉に、長谷部達は即答で返す。ああ、なんと嬉しいことだろう。思わず頬が緩みそうだ。小夜と長谷部の重い一撃が青江に襲い掛かったのを見届けてから、私は神楽に目線を向ける。神楽は口元を緩めながら私を手招きし、奥へと向かっていく。私は不動と目線を合わし、神楽の後を追いかけるべく歩き出す。もっと、…このゆったりとした時間が、ずっと続いたら良いのだがな…
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