刀剣という名の存在

少年は五虎退と言うらしい。半妖ではなく刀剣といった存在なんだそうだ。何でも刀が人の子の姿になるらしい。五虎退は刀なんだな、と言えば五虎退は帯刀していた刀を見せてくれた。これはなかなか美しいな…時折刃こぼれはしているが、これくらいならまだ形容範囲、かな。詳しく聞いていれば、刀剣は自分達では治療が出来ないらしい。審神者と言う存在に手入れをして貰わなきゃいけないようなんだが…その審神者に問題があるそうだ。話すのも嫌そうだし、子供から聞くのはあまり好きではない。これは大人から聞くべきだろうな。


「…しかし、弱ったな」
「え?」
「五虎退の姿は痛々しい。見ていて耐え難くなる」
「ふぇ、あ、す、すみません…ぼ、僕弱いから…」
「ああ、別に君を責めてるんじゃないんだ。言い方が悪かったな、すまない。…傷を癒してやりたいと思ってな」
「…神様は、優しいんですね」
「神の使いだ。それに、私には薺と言う名前がある。…ダメで元々、効いたら幸運、かな」
「…?」
「五虎退、私の刀の能力を受けてみてはくれないか?」
「え?」

「私の愛刀ーー蒼葉は敵を斬る為に作られた刀だが、人を癒やす効果も持ち合わせている。どうだろう、私を信じて身を預けてはくれないか?」


無論、死者を生き返らせることは不可能だがな。そればかりは私には出来ない。殺生丸を呼ぶしかないな。私の言葉に、五虎退は少し考える素振りを見せる。まあ、当然だろうな。流石に出会ってすぐの人を信じれる筈がない。直る保証もないし、危ない目には合いたくはないだろう。可能なら直してやりたいんだが…本丸、という場所に向かえば何とかなるんだよな。直らなかったら本丸に向かうとしよう。どちらにせよ、目的地は本丸だしな。
そんなことを考えていれば、小さく声を掛けられる。どうやら答えが決まったらしいな。


「あの、薺様」
「うん、何だい?」
「お願い、します。治療、してみて下さい」
「…良いのか?痛いかも知れないし、直る保証もないんだぞ」
「僕は、神様をーーいいえ、薺様を信じます。それでは、いけませんか?」
「…いいや、有り難いよ。直せなかったらすぐに本丸に向かう。道案内を頼めるか?」
「はい、勿論です…!」

「よし、良い子だ。ーー行くよ、五虎退」


森羅万象ーーそう呟けば、蒼葉の刀身が淡い光を放つ。それを五虎退に向ければ、光は五虎退を包み込む。不安からか泣きそうな顔をしている五虎退に大きく頷いて見せてから、五虎退の身体に視線を向ける。頼む、出来れば直ってくれ。完璧じゃなくても良い。少しでも良いんだ。そんなことを願っていれば、光は一際大きく光ってから消えた。この瞬間は慣れないな、と思いながら再び視線を向ければーー傷も、服も綺麗になっていた。どうやら成功したらしい。


「わぁ…痛くない……服も、元に戻ってます…!」
「…良かったー…」
「薺様っ、有り難うございます!!」
「おっと。うん、効いて良かった。もう大丈夫か?」
「はい、大丈夫です!」
「よしよし、良かった。それじゃあ五虎退、本丸に向かいたいから案内を頼むぞ」
「はい、お任せ下さい!…あの、降ろして下さい…」

「うん?君から抱き付いて来たんだろう?私が飽きるまでは離さんよ。ささ、案内をしてくれ」


さっきまでりんと居たからだろうな。何だか寂しいんだ。抱き付いて来たのを良いことに、そっと五虎退を抱き上げれば、五虎退から小さく悲鳴が上がる。高い所が苦手だったのかと不安になったが、目をキラキラと輝かせているから違うらしい。そう言えば兄が居ると言っていたな。それを思い出しているのかも知れん。微笑ましく思いつつも案内を促せば、五虎退は的確に案内をしてくれる。小さいのにしっかりしているな。私はそう思いながら歩み始めた。


***


暫く歩いていれば、一際大きな建物が見えてくる。あれか?と聞いてみれば、五虎退は肯定してくれたので、私は五虎退を一度抱き抱える。まあ、所詮はお姫様抱っこという奴だな、うん。キョトンとしている五虎退に、近道だと伝えてから地面を蹴れば、目の前には大きな門が。建物が大きければ門も大きいんだな。ーーそれに、邪気も感じる。空気が淀んでいるな。綺麗な場所なのに勿体無い。


「ふえ…本丸…?」
「跳躍力には自信があるんだ」
「薺様凄いです…!」
「有り難う。ーーして、五虎退。少し聞きたいんだが良いかな?」
「?はい」
「彼処に倒れているのは君の知り合いかい?」

「ーーっ!!今剣にこんのすけ!!」


私の言葉に、五虎退は勢いよく身を翻し、門の奥へと走って行く。やはり仲間のようだな。私はそう思いながら五虎退の後を追う為に門を潜る。バチッと結界に阻まれたが、この程度で私を弾こうなんて考えないことだ。思いきり破壊をし、新たに私自身の結界を張り、改めて五虎退の方に向かう。近付いて見れば、五虎退はこれまた小さい子を抱き起こしていた。目を閉じている彼の腕には面を被った狐が抱かれている。…これも凄い傷だな。私は蒼葉を鞘から抜き、森羅万象を発動する。…よし、今回も成功だ。どうやらちゃんと使えるみたいだな。


「…今剣にこんのすけ…大丈夫でしょうか…」
「治療は大丈夫だ。後は目が醒めるのを待つだけだがーー布団に寝かせてやりたいな」
「はい…僕のお部屋に運びます!手伝って貰えますか?」
「ああ、無論だ。私が運ぶか?」
「こんのすけは僕に任せて下さい!」

「ーーふ、ああ、任せた」


狐を抱え、キリッとした顔で力強く頷く五虎退には何とも言えない愛らしさがあるな…私はそう思いながら今剣と言われていた少年を抱き抱える。本当はおんぶした方が色々都合が良いんだが、私と彼は会ったことがないからな…首を掻かれない保証がない。五虎退には言わないが。可能なら誰にも見付からずに五虎退の部屋へと行ければ良いが、なんて思った。…叶うわけ、ないか。
暫く歩いていれば、草を踏む音と共にビュンッ!と空気を切る音が聞こえ、私は今剣を抱き上げ、案内してくれていた五虎退を俵抱きし、その場から飛び退く。バリッと言う音と共に廊下に穴が空き、更にブンッ!と言う音が聞こえたので、私は五虎退と今剣に結界を張ってから一度放り投げ、刃物を蒼葉で受け流してから、落ちて来る五虎退と今剣の抱き止める。


「こ、怖かった…!!」
「すまない、手荒な真似をした。今剣はーーまだ起きてないか。五虎退、あれは誰だ?」
「あれはーー岩融。今剣と同じ三条の薙刀です……」
「今剣と五虎退を離して貰おうか!!これ以上、人間に触らせたくないのでな!!」
「ふむ……まずは話を聞いてはくれないか?私は彼等に危害を加えるつもりは皆無なのでな」
「そんなもの、信用出来るか!!現に今剣は気を失っているではないか!」
「これには深い事情があってだな…」
「待っていろ、五虎退!!今から俺が助けてやるからな!!」
「…二度、言わせるな」
「…薺様…?」

「ーー話を聞いて貰おうか、岩融とやら」


話にならん。そう理解した私は少々大人気ないが、妖気を纏う。こんなに邪気に占領されている此処でなら多少大きく垂れ流しても気付かれ難いだろう。まあ、気付かれたら気付かれたで対処するまでだが。
ーー普通の人の子だと思って油断していただろう。岩融はひくりと頬を引き攣らせ、力なくその場に座り込む。まあ、刀剣は付喪神らしいからな。同じ神に携わる者としては穏便に済ませたがったが、まずは話を聞いて貰わんとな。…はて、脅しなんかしていないぞ?
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