偉大なる存在

唐突だが、大男の土下座は迫力があるとは思わんか?…そうか、やっぱり迫力があるか。あれから大人しくなった岩融と共に五虎退の部屋に向かい、今剣とこんのすけを寝かせた後、五虎退との出会いを掻い摘みながら話せば、誤解していた岩融は土下座で謝って来た。まあ、私が岩融の立場なら似たようなことをするとは思うが、あれだけ敵意を剥き出しに向けられたのは久しいからな。話を聞いて貰えないのは困る。そう伝えれば、岩融は更に深く頭を押し付ける。…別にそんな意味合いで言った訳ではないんだがな。


「岩融、もう頭を上げろ」
「…俺は、五虎退と今剣とこんのすけの傷を癒やしてくれた人を斬り捨てようとしたんだ、恩人に刃を向けるなんてやったらいけないだろう」
「状況が状況なんだろう。警戒するのは分かるし悪いことではない。だが、これからはもう少し周りを見ることだな。敵意が、あるかないかくらい判断しろ」
「……善処する」
「あの、薺様…怒ってますか…?」
「ん?五虎退は気にしなくて良い。…ほら、五虎退が気にするから早く顔を上げろ。岩融、お前は何回言わせたら気が済むんだ?」
「…すまないな。感謝する、薺」
「分かれば良いんだ、分かれば」

「ーー…いわ、とおし……?」


やっと顔を上げた岩融に満足していれば、小さく聞こえた声に、目覚めたのかと視線を向けようとすれば、さっきまで土下座していた筈の岩融が瞬間移動していた。…見えなかった。よほど心配していたんだろうな。同時にこんのすけも目覚めたようだが、こんのすけは五虎退が何とかしてくれるだろう。急に見知らぬ人物が現れるのは目覚めに悪いからな、岩融と五虎退が話を通してくれるのを期待しておこう。
暫く待っていれば、岩融と五虎退に名前を呼ばれる。ゆっくりと近付けば、私と同じの赤い瞳と目があった。ふむ…美しいな。


「今剣、このお方がお前とこんのすけを直してくれた人だ。礼を言え」
「だいじょうぶ、わかっていますよ岩融。はじめまして、ぼくは今剣。なおしてくれてありがとうございます」
「キチンと礼を言えるのだな、偉いぞ。私は薺。宜しくな、今剣」
「ーーはいっ!」
「…五虎退、こんのすけはどうしたんだ?」
「あう……分からない、です。薺様の名前を出した瞬間、石のように固まってしまって…」
「あー……成程。よく分かった。…此方にも名を知られているとは思わんかった」
「「え?」」
「…薺は有名な方なのか?何処かで聞いていたことがある名だとは思っていたが」

「ーー有名所ではありません!!その方は四獣と呼ばれる伝説の白虎様ですぞ!!ああ、いつかお目にかかりたいと思ってはおりましたが、まさか本当に出会えるなんて!!」


四獣。懐かしい名を聞いたなぁ、と現実逃避したくなるほどの饒舌ぶりに、ひくりと頬が引き攣る。…こいつも崇拝者か。動物関係には崇拝されて困るな。七宝や雲母も似たような感じだったな。触れさせてくれない。絶対に柔らかいと思うんだがなぁ……こんのすけの言葉に、五虎退はキラキラと目を輝かせる。多分、五虎退も白虎の存在は知っていたんだろうな。…岩融が知っているのは驚きだが。


「薺様、白虎様だったんですね…!!今度、僕の虎さん達に会っては貰えませんか…?」
「ああ、勿論。…触ったりは出来るか?」
「はい、皆大人しくて良い子ですから」
「そうか、楽しみにしている。岩融、誰から聞いたのか思い出せそうか?」
「…多分だが、小狐丸な気がするな」
「小狐丸はおおきいんですよー。もふもふなんです。薺さまももふもふですか?」
「うん?今剣、私の髪を触ってみろ」
「?ーーわあ、もふもふです!!」
「そうかそうか、五虎退。おいで」
「え、あ、し、失礼します…!!わぁ…もふもふだぁ…」
「どれ……おお!これは確かにもふもふだな!!」
「ああああ…天下の白虎様に触れるなんてそんな恐れの多い……私には出来ませぬ…!!」

「ほう?なら、私が触れるのは構わんだろう?」


五虎退。名を呼べば、五虎退は何で私が呼んだのか理解したらしく、笑顔で頷いて離れていたこんのすけを抱き抱え、此方に近寄って来る。こんのすけは大層暴れていたが、私の前に来ると大人しくなる。そっと手を伸ばせば、こんのすけはカッチンコッチンに固まる。くすりと笑みを零し、撫でてみる。…ああ、やっぱり毛並みは素晴らしいな…たまらん…
暫くするとこんのすけも慣れてくれたのか、会話をしてくれるようになった。まあ、相変わらず崇拝はされているようだが。どうやら付喪神に真名を知られると、神隠しに合うらしい。…もう少し早く知りたかったな。


「神隠し、なぁ……五虎退、今剣、岩融。やめてくれよ…?」
「は、はい。勿論です!」
「えへへー。ぼくはすこしやりたいです。そうしたら薺さまはいなくならないんですよね?」
「今剣。…しかし、そうなると何と呼べば良いのだ?分からんなぁ」
「神様、ではダメですか…?」
「薺さまはじょせいですからめがみさまでいいんじゃないですか?」
「…主様。は今は都合が良くないですからね。女神様で良いかと思われます」

「女神……はは、なかなか照れくさいものだな。見た目は相応しいとは思うがな」


くすりと笑いながら言えば、五虎退と今剣とこんのすけはブンブン首を縦に振る。岩融もそうだな、と肯定してくれた。…なかなか新鮮な反応だな。私は自分が美しいのは分かっているが、自分で言うなとよく叱られていた。自分で自分を褒めて何が悪いのかさっぱり分からんがな。まあ、五虎退達の反応は嬉しいからな、悪い気はしないな。
さて、これからどうするかと聞いてみれば、こんのすけは今は広間に行かない方が良いと言われた。詳しく聞いてみれば、一期一振と言う刀と鶴丸国永と言う刀が揉めているらしい。こんのすけと今剣は止めようとして巻き込まれ、門の方まで吹っ飛ばされたんだそうだ。不意に五虎退の方に視線を逸らせば、悲しそうな顔をしていた。…一期一振、か。


「岩融、頼みがあるんだが」
「ん?俺は別に構わんが…俺で良いのか?」
「五虎退、お前は今剣とこんのすけを見ていてくれ。まだ無理はさせられないからな」
「?はい…女神様は何処に行くのですか…?」
「広間に向かう」
「え!?」
「め、女神様…!?私の話を聞いていましたか!?」
「聞いていたよ。だが、私は五虎退の声に導かれたんだ。なら、五虎退の気持ちに応えるのが普通だと思わないか?」
「…薺様…?」
「お前の兄なんだろう、一期一振とやらは。案ずるな、正気に戻して行方不明の兄弟とやらも見付けて来る。岩融、実力は高いんだろう?」
「はっはっは!!誰に物を言っている?薙刀をナメて貰っては困るぞ!!」

「心強いな。行って来るよ、五虎退。今剣、こんのすけ。案ずるな、私達は強いからな。信じろ」


私は不安そうな顔をしている今剣とこんのすけの頭を撫で、不安そうにしながらもキリッとした顔で見送ってくれている五虎退に笑い掛ける。ちらりと岩融を見れば、分かっていたのか既に立ち上がっていたので、くすりと笑みを零す。察しが良いのは嫌いじゃない。私と岩融は顔を見合わせ頷き合い、こんのすけの引き止めて来る声を聞きながら、五虎退の部屋を後にした。
暫く歩いていれば、漂って来た邪気に思わず顔が引き攣る。…淀みすぎだな、祓いたいくらいだ。今すぐにも。


「女神よ、どうした?腹でも空いたか」
「いや、とてつもなく嫌な邪気を感じてな……どうして腹が空いたのかと思ったんだ?」
「簡単なことだ!俺が空いているからな!!」
「偉そうに言うな、大きな声を出すな。奇襲を仕掛けに行くんだぞ?」
「はっはっは!悪い悪い!!漸く一期を正気に戻せると思うと気分が昂ぶってな!!」
「何だ、そんなに違っていたのか?」
「ああ。…まあ、弟を人質に取られ、嫌々命を聞いていたのに、鶴丸が我慢出来なくて鶯丸と共に審神者を斬ってしまってなぁ…」
「成程、場所が分からんのか」
「石切丸という刀も手中に収めていたからな、何かしら手を貸しているんだろう」
「ーー成程な。時に岩融。この本丸に飯が美味い人は居るか?」
「唐突だな。まあ、居るが」
「よし。なら、話を通しといてくれ。全部終わったら皆で飯を食おう。私も食べても構わないだろう?」

「ーーお安い御用だ、女神よ。俺は、貴女に感謝をする」


これくらいのこと、当然なんだがな。私は五虎退に導かれたんだ。だからこそ、五虎退の願いを叶えたい。彼奴の声に真っ先に気付いたりんの為にも、な。まあ、岩融に完璧に信頼されたようだし、良しとするか。…ああ、飯が楽しみだな。皆で食べるんだ、さぞかし楽しいだろう。浮かない顔をしていた五虎退も今剣もこんのすけも笑ってくれるだろうか。笑ってくれるのならば、私は頑張りたい。
暫く歩き、目の前に大きな襖がある部屋の前に来た。…うん、邪気もこの部屋から感じる。囚われの人質が居る部屋で喧嘩してるのか。まあ、分からないように厳重にされているからな、仕方がないか。私は小さく溜息を付き、岩融とアイコンタクトを取り、タイミングを合わせて、襖の戸を勢いよく開く。さて、人質救出作戦の始まりだな。まあ、行き当たりばったりだが。まあ、何とかなるだろう。
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