激辛は苦手なようだ

どうやら私が意識を失っている時に話が着いていたらしく、“二振り”を除いた全振りが私の所に来ると決まったらしい。ふむ、まあ、想定通り、と言った所か。私があまり動揺していないことに気付いた長谷部は不思議そうにしていたが、すぐに理解したのか驚いたように目を丸くしていた。江雪と宗三にも貴女は聡いにも程があります、と褒められてるような引かれられてるような発言を貰った。小夜みたいに凄い凄いと褒めてくれれば良いだろうに。…決して褒められたい、と考えてる訳ではないが。
そろそろ宴の為に移動しようか、となった際に、長谷部が私と折り入った話があるから先に行ってくれと、左文字を先に行かせる。最後まで彼等は不満気だったが、長谷部が真剣な顔をしていたからな、渋々と言った表情をしながら彼等は部屋を出て行った。


「…さて、あまり待たせるのも気が進まないからな。…それで?私に話とはなんだ?謝罪ならもうお腹いっぱいだぞ」
「…本音を言わせて頂けば、まだまだ謝罪し足りない、のですが……それではないのです」
「…ほう?」
「主ーー…俺を、手入れして下さい」
「!…怪我、はしてないよな?目、か?」
「はい、目を直して頂きたいのです。別に以前の主を忘れた訳ではありません。ただーー…貴女を失いたくないのに、目が見え難いのは些か問題がありますから。今日のようなことがまたないとは限りませんし」
「…洞窟の中、見難かったんじゃないか?少しばかり、動きに戸惑いがあった」
「…流石主ですね。仰る通りです。亀甲貞宗が白い服を纏っていたから良いもののーー…燭台切のような姿なら見えなかったでしょうね。…だからこそ、目が見えないことに恐怖を感じました」
「…成程、な。分かった、明日の朝にでも手入れしよう。すまない、身体がまだ本調子でないのでな…今すぐの手入れは難しい」
「無茶をして頂きたい訳ではありませんので、いつでも大丈夫です。…主」
「うん?」
「…その、触れても、良いですか…?」
「ああ、構わないよ」
「では、その、失礼します……ああ…本当にご無事で、良かった…っ!」

「ーー…すまない、心配掛けたな」


私の頬を心底大切そうに撫でる長谷部に、胸が締め付けられる。これはやはり…置いては逝けないな。…夢幻の白夜が言っていた、私の運命の相手は長谷部なんだろうか。…恋人でも主である以上、今とそんなに差がない気がするな。すり、と長谷部の手袋越しに擦り寄れば、長谷部は驚いたように目を丸くした後、嬉しそうに破顔する。…うん、可愛い。名残惜しいですが、そろそろ行きましょうか、と手を差し伸べて来た長谷部の手を握りながらそうだな、と了承すれば長谷部は嬉しそうに笑ってから広間に向かってゆっくりと歩いて行った。


「ーー…あ、主さん!!お帰りー!体調とかどう?寝てなくて平気?」
「浦島?ああ、大丈夫だよ。大広間に居るんじゃなかったのか?」
「亀吉が居なくなっちゃって…ちょっと探してたんだー。あ、長谷部さん!博多だっけ?博多くんが長谷部さんと話したいーって騒いでたよ!」
「何、博多が?伝言有り難う、浦島。用が済んだのなら一緒に大広間に行くか?」
「え、本当に良いの?俺、邪魔じゃない?」
「邪魔な訳ないだろう。亀吉は見付かったのだろう?なら一緒行こうではないか、蜂須賀達も心配してる筈だしな」
「ええ、主の言う通りですね。ほら、分かったらさっさと行くぞ、浦島。蜂須賀と長曽袮にはお前が居ないと大変だからな」
「蜂須賀兄ちゃんも長曽袮兄ちゃんももう少しだけで良いから仲良くしてくれれば良いのになー…えへへ、主さんと長谷部さんの間に入っても良い?手を繋ぎたいんだけどだめ?」

「…浦島はあざといなあ…ふふ、構わないよ。ほら、おいで」


長谷部と目を合わせれば、彼は深く頷いてから私の手を名残惜しそうにしながらも離し、1振り入れるようなすぺーすを開ける。おいで、と言いながら手を差し伸べれば、浦島はパッと表情を明るくし、私と長谷部の間に入り、それぞれの手を握る。心底嬉しそうに笑う浦島に、私と長谷部は顔を見合わせ、くすりと微笑み合った。…浦島は愛されるたいぷの弟、って感じだな…小夜が一番可愛い弟だけども。
大広間に向かえば、何やら騒がしい。…耳が聞こえれば良かったものの。警戒心を抱いた長谷部が先に襖を開くと同時にーー…目隠しされた。この手の感じはー…


「…鶯丸?」
「おや、すぐに気付いてくれるとはな。流石俺の主だ」
「あれ、鶯丸さん?主さんの目なんて隠してどうし…「浦島!!お前も見てはいけない!!」うわ、蜂須賀兄ちゃん!?」
「?一体何がどうなって…長谷部、報告してくれ」
「…酔っ払いが沢山居るようです。全く、主が来るまで待っていれば良かったものの…」
「酔っ払い?それくらいなら私は気にしないが」
「それだけじゃない。…全裸の奴が沢山居てな、薺の目に毒だ。正気に戻すまでは目隠しさせて貰うからな」
「全裸!?え、それなら俺だって大丈夫だよー?主さんは女の子だけど、俺は男だもん!蜂須賀兄ちゃん、目隠し取ってよ!」
「いいや、ダメだ。浦島が穢れてしまう。ーー…贋作、いつまで全裸で筋肉自慢をしてるつもりだ?さっさと服を着なければ削ぎ落とすぞ」
「それはいい考えだね、蜂須賀くん。ーー…聞こえたかな?今すぐ服を着なければ…打撃73の実力をお見舞いするけど良いのかな?」
「私を忘れてしまっては困るよ、燭台切。ーー…打撃トップの実力を持って、祈祷(物理)でもして差し上げようか」

「「「すみませんでした」」」


蜂須賀、光忠、石切丸の地を這うような声に、即座に謝罪の声が飛ぶ。多分、1番の決定打は石切丸、かな。物凄い笑顔で言ってる気がする。…気のせいであってくれれば良いんだが。暫く時間が経ってから、目隠しを止めるぞ、と声を掛けてられてからそっと手を外される。一度目を瞑ってから目を開けば、私は目を見開くことになる。


「これはーー…素晴らしいな」
「気合い入れて頑張りましたから!主さんの目覚めは勿論、新しい仲間も沢山増えましたからね!赤飯もカレーも是非食べて下さいね!」
「無理そうでしたら片方だけでも大丈夫ですよ。体調は大丈夫そうですか?」
「ん、体調なら大丈夫。これは…目移りしそうだなあ、食べたことないのがいっぱいだ。キラキラしてるな」
「お、やっぱ食ったことなかったのか?カレーは主が初心者だと見込んで甘口にしたからなー、辛いのが好きなら言ってくれ」
「酒もあるぜー?何呑む?俺に酌さしてくれよ」
「甘口?辛さに段階があるのか…分かった、何かあればお願いしよう。そうだな…大吟醸を貰おうか、日本号は全裸になったのか?」
「大吟醸だな、ちょっと待っててくれ。あー…俺はなってねぇよ、準備中だったしな。ほら、座ってくれ。酌するからな」

「ああ、有り難う」


上座に座れば、長谷部と石切丸が両隣を固める。ちらっと見れば、神楽の隣には巴形が、神無の隣には篭手切が座っており、難しい顔をしている神楽(神無は相変わらず無表情だが)達とは別に、巴形も篭手切も心底嬉しそうな表情を浮かべていて、思わず笑みが零れる。友人と最期まで共に居たいと想いを馳せる彼等をどうして邪魔することが出来るというのか。さっさと諦めるのが良いぞ、と目だけで訴えれば、神楽も神無も困ったような表情をしていた。…難儀なものだな。
日本号に大吟醸をお猪口に注いで貰い、堀川に目を向ければ、彼はにっこり笑いながら手を合わせ、頂きます!と告げる。それに習うように皆で頂きます、と言ってからそれぞれ隣に居る者と乾杯してからお猪口に口付ける。うん、美味い。


「…この大吟醸は日本号が選んだのか?良い目利きだな」
「気に入ってくれたようで何よりってな。…ほら、長谷部も呑めよ。酒、嫌いじゃないだろ?」
「五月蝿い、黙れ。主、何か食べたい物はありますか?よそいますよ」
「ん?今は大丈夫だ。長谷部もちゃんと呑んだり食べたりしてくれ」
「…主命とあらば」
「薺、この福神漬けとらっきょうをカレーと一緒に食べると美味しいよ。食べてみると良い」
「有り難う、石切丸。…ほう、これがかれーか…うん、美味しい。福神漬けもらっきょうも美味だな。石切丸が掛けてるのは何だ?真っ赤だが」
「これかい?これは七味だよ。私は辛口が好きだからね。基本的にこの本丸のカレーは甘口なんだ。短刀達は甘口が好きだし、甘口も辛口も作るのは厨当番が大変だからね」
「へえ…そういうのもあるのか。カレーは大変なんだな。七味、掛けるとやっぱり違うのか?」
「食べてみるかい?ほら、あーん」
「あーん……からい…」
「主、大丈夫ですか!?水です!石切丸!お前は相当の辛党だっていい加減自覚してくれ!愛染や秋田に火を吹かれたの覚えてないのか!!」
「…石切丸さんって幼い顔立ちしてるのに、辛いの大好きなんですよね。前の主さんの影響かな?」
「あー…確かに好きだったよなあ…激辛料理。俺はあまり好きじゃなかったけど」
「私も好きではないな…主、赤飯も是非ご賞味下さい。甘いですよ」
「…せきはん、おいしい…」
「こりゃ舌が重症だな。長谷部、水に氷入れてやれよ」
「言われなくても分かっている!さ、どうぞ」

「…氷、冷たいけど美味しい…」


氷を1つ口の中に入れて転がしてみる。程よく冷えて気持ちが良い。麻婆豆腐は平気だったのになあ、と若干悔しく思いつつ、もう1つ氷を口の中に入れる。冷んやりしてて良いな…石切丸は美味しいんだけどなあ、と首を傾げながら言い、一口、また一口と食べ進めていく。私は辛いのは嫌いではないが、激辛は苦手なようだ。1つ、勉強になったな。と思いながらカレーを食べる。甘くて美味しい…思わずほっこりしていれば、長谷部が食べている赤い食べ物が目に入り、長谷部も激辛好きなの?と聞けば、長谷部はきょとりとした後、楽しそうに笑いながら違いますよ。と告げる。


「これはキムチと言います。多少辛いですが、激辛とまではいきませんよ」
「…本当に?」
「はい。食べてみたいのなら小さく切ますが、如何致しますか?」
「…食べる」
「はい、拝命しました。さ、どうぞ」
「!!これは白菜か?…美味い」
「漬物関係は歌仙さんの力作揃いですからね!歌仙さんの漬物はみーんな美味しいですよ!」
「おや、堀川に褒められるとは嬉しいね。主の口にも合ったようで何よりだよ」
「…僕も之定が作った漬物、好きですよ。成長、しましたね」
「!!お、お小夜…!!」
「漬物を作らせたら歌仙の右に出るものはいませんよねえ、僕も好きですよ」
「ええ…とても、美味しいですね。この福神漬けもらっきょうも歌仙が作ったんですよ」
「え、そうなのか?」
「ふふ、色々とこだわってみたくなる性格なんでね」
「ほー…うん、美味い。私も歌仙の漬物、好きだな。これだけでご飯が食べれる」
「それはそれは…恐悦至極」

「…皆に食わせてやりたいなあ」


このぽりぽりとした食感が堪らない。楓が好みそうな味付けだ。教えて欲しい、と頼んだら歌仙なら教えてくれるだろうか。りんもかごめも喜んでくれそうではあるが…鼻が効く犬夜叉や殺生丸は好きじゃないだろうな。まあ、食べさせてみない限りには分からんが。


(…本当、この本丸は暖かい)


美味しいご飯もある。布団もある。皆が優しい。…うん、良いこと尽くしではないか。こんなに恵まれた環境で、何故奈落に従ってしまったのか…前任者に想いを馳せながら、カレーや赤飯、漬物類を交互に食べる。私がキムチを気に入ったことに気付いた歌仙がそれはもう嬉しそうにはにかんでくれたのが印象に残ってる。ああ、美味いなあ…
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