目標を定める

審神者会議の存在を昼餉の時に発表し、連れて行くのは長谷部と薬研だ。と口にすれば、すぐにぶーいんぐの嵐が巻き起こる。特に左文字が酷い、分かっていたが。江雪は無言のまま猛吹雪が吹き荒れているような冷たいオーラを周りに放ち、宗三はそれはもう素晴らしい笑顔で長谷部と薬研を罵る。小夜は悲しそうな表情を浮かべていて、少しばかり良心が痛むが、左文字を連れて行くことはないと告げる。あからさまに絶望してる彼等に長谷部と薬研は何かを言いたげにするが、それを無視して私は左文字には私が疲れて帰って来た時の癒し担当だから絶対に連れて行かない、と断言する。…江雪達にお帰り、って言って貰いたいからな。他の刀剣達は機会があれば誘うからそのつもりで。まあ、今回ばかりだけだと思いたいがな。その会話をしながらお茶を啜って顔を上げれば、辺りは桜の花で満開になっていた。…ちょろすぎじゃないか、左文字。お帰りって言いますから五体満足で帰って来て下さいね。なんて宗三に頬擦りされながら言われたが、私は戦場にでも行くのか?大袈裟……じゃないのか、そんなに危ないのか、審神者会議は。…行きたくないな、そんなことを思いながらも、本音を口にすることなく味噌汁を飲み干す。…覚悟を決めなければ、な。


(ーー…少しは、こんのすけの負担も減れば良いのだがな)


私を匿うつもりだったであろうこんのすけは、ここ最近睡眠をまともに摂っていないとみた。きっと政府からの圧力を受けていたのだろう。…あんな、小さな身体で。1人で抱えて苦しんでいたのだろう。政府のことはまだ会ったことも見たこともないから憶測にしかならないが、私は私のこんのすけを追い込むような輩に負けるつもりはない。血反吐を吐いてでも立ち向かってやろう。だから、覚悟しておけ。


(ーー貴様等が喧嘩を売った存在がどんな奴かを、な)


私は私のモノに手を出されて黙ってなどいないぞ…?最初は大人しくしているが、こんのすけや刀剣男士達に失礼な物言いをした瞬間ーー…首が胴体とおさらばすることを覚悟して貰わないとな。怒っていないとでも思ったか?侮るなよ。引き継ぎとはいえ、私は彼等を愛し受け入れている。大切な家族を蔑ろにされて怒らない筈がないだろう。こんのすけを窶れさせたことと、助けられた筈の元審神者と、大切な主に手を掛けたくなかった筈なのに手を掛けさせてしまった刀剣男士達にーー…全身全霊で謝って貰わんとな。


「主。…何を、考えていらっしゃるのですか?」
「ん?私は変な顔をしているか?」
「いいえ、主の顔はいつ見ても美しく素敵です!…そうではなく。何だか…燃えているように見えるのですが…」
「たぁーいしょ。俺っち達も混ぜてくれよ。政府に一矢報いるのか?」
「…いやあ、大したことではないさ。こんのすけをもふった時に気付いたのだが、前に会った時よりか窶れていてな。それについてお話しようと思っていたんだ」
「ややっ、それは頂けませんね!!式神であるこんのすけはある程度寝なくても機能はしますが、休息は摂るべきです!」
「ええ、お供の言う通りです。…しかし、ぬしさまはそれだけが目的ではない様子。この小狐にお聞かせは下さいませんか?」
「…お前は聡いな。少しは隠せているつもりだったんだが。いやあ、何。政府はお前達の状況に気付けた筈だろう?寧ろ、…そうだな。歌仙か蜂須賀、一期辺りは政府に連絡しようとしない筈がないだろ?」
「ーー…これは驚いた。僕達の主は本当に聡明だね」
「ああ…まさか一緒に行動していたのが見破られるとは…」
「…主殿、実は過去を見ることが出来るのですか?」

「まさか。流石にそこまでは出来んさ。責任感が強く、周りをよく見ている歌仙達なら黙って従うなんてする筈ないからな。ーーああ、左文字を最初から外しているのは余裕がないだろうって意味合いだからな」


…その頃から、始まってたんだろう?なにを、とは言わずに目線だけで聞いてみれば、宗三はぴくりと肩を震わし、江雪と小夜がそっと寄り添う。…ああ、私が最初から彼等の審神者だったらーー…宗三達を、左文字にこんな深い傷を負わせることなんて絶対しないのに。宗三達の反応を見たからか、多分被害を受けていたであろう刀剣達は顔を顰める。ああ、嗚呼…大好きな彼等に、そんな顔をさせる存在が憎い。


「…君は、政府に殴り込みをしたいのかな?」
「…殴り込み、まではするつもりはないがーー…まあ、相手の対応次第だな。こんのすけをこれ以上窶れさせるのも、君達に関わらせるのも論外だ。まず、どうして助けを求める声を無視したのか、奈落の存在を感知出来なかったのかーー…貴様等は相手が神様だと、ちゃんと自覚してるのかと問いたいな。私は間違っているか、髭切」
「いいや?僕も同じ立場なら同じことを思うし、すると思うよ。…君は神楽に聞いていた通り、聡明で優しいヒトだねえ」
「兄者、主は人間ではなく妖怪だそうだぞ」
「ありゃま、そうだったねぇ〜…僕も着いて行けたら良かったのに…僕達もね、神楽や神無を捨て駒のように見捨てた奈落も政府も許せないからねえ…切り刻みたいよねぇ」
「…あの審神者もまた可哀想な人の子よな。しかし、自分の愛する刀剣に最期を看取られたのであれば…それも幸せ、か」
「可哀想な訳がないだろう、小烏丸!!あの男は許してはおけん!!まだ鶯丸への謝罪がまだではないか!!鶯丸!お前もお前だぞ!!身長が低いからなんだ、お前は最高傑作だ!!何故鶴丸と共に手を掛けた!!」
「…何故、か。何故だろうなあ…」
「おいおい…分からなかったのに俺に賛同したのか?」
「ふむ……どうでも、良かったのかもなぁ…誰が折れても、誰が必要とされても、興味がなかったのかも知れんな。…俺は、あの人の目には入ることはなかったからな」
「…鶯丸様…」
「…正直、左文字が羨ましいと思った時もある。お前達の場所が欲しかった。俺を呼んでくれたあの人の、…役に、立ちたかったのかも知れんなあ…あの人とは顕現した時以来会話していないからな」
「…くそ…!やはり土下座させるべきだったか…!!」
「今は幸せだから大丈夫だ、大包平。薺はどんな俺でも必要としてくれるからなあ。それに、誰でもないお前が居る。これほど幸せなこと等、早々ないだろうなあ」
「っ…!!…ああ、もうこの俺が鶯丸と共に居よう。お前の悪口を言うような残念な目や口は即刻斬り捨ててやろう。…構わないだろう?」

「ああ、好きにしてくれ。私も好きにするさ。なあに、そんな顔をしないでくれ、小夜。居なくなったりは絶対しないさ」


ただ、私も一度は四獣の白虎と崇め、讃えられていた時期があるからな…小夜達みたいに神様ではないが、多少力はある。それを惜しむことなく発揮するつもりではあるがな。うん?無理はしないぞ。まだお前達と一緒に遊んだり話したりしたいからな。


「ーーこの本丸に、余計なモノは何1つ要らないだろう?だから、此処に2度と関わらせないようにするだけさ。正直、レアの自慢をする場なら、審神者会議なんて意味ないだろう。そんなくだらないことを拒否していれば監査…過干渉過ぎるとは思わんか?仕事をしていれば問題ないだろう。目的は一緒なのだからな」
「…!そっか、確かに僕達は歴史修正主義者や検非違使を倒し、歴史を守ることだけをお願いされて来た訳だから…本丸での暮らしに干渉される必要ないんだ…!」
「…盲点でした。そうですよねえ、僕達はちゃんと歴史を守る為に戦ってるんですから、約束は守ってますよね」
「…薺が居なければ気付きませんでしたね…情けない限りです…」
「江雪兄が気にする必要はない。一種の洗脳のようなものだろうからな。お前達は生まれて初めて身体を得て、感情を知った。…そうだろう、長谷部」
「はっ。…そうですね、俺達は刀でしたしーー…まさか、自分達が肉体を得て、かつての同胞達とこうしてまた集うことが出来るとは思っていませんでした」
「…そうだろうな。言うならば、その時のお前達は赤子同然……自分達を呼び出した審神者が、こうするのが普通だと、当たり前なのだと言われたら…薬研、どうする?」
「そりゃあ…信じるだろうな。顕現してるってことはその呼び出した審神者に少しは忠誠してるってことだしな。疑うなんて有り得ないだろう、ってまさか…」
「…まさか、主は最初から…?」
「…確かめる術はないが、私は最初から前の審神者に意思はなかったと思うよ。既に洗脳されていたんだろう、骨の髄まで。使い捨ての駒として、な。…すぐに監査って言葉が出たし、顔を引き攣らせていたんだ。以前から監査はあったんじゃないか?それこそーー…1ヶ月に1回くらいの頻度で」
「…そうだ。毎回毎回決まった時期に来てた連中が居たじゃねぇか…!!よく覚えてるぜぇ、あの探るような気持ち悪い目は早々忘れられない…ちょっと待て、国広」
「…うん、兼さん。もうそろそろ、だね。だから、審神者会議を名目にして薺さんを呼び出したってことですか…?自分達の、駒として洗脳する為に…?」
「恐らくは、な。そう簡単に洗脳されてやるつもりはないが。…クズが居るのだろうな、政府に。そいつをどうにかしない限り、被害は減らんぞ」
「…ぼくたちみたいに、はなればなれになったりするってことですか…?また、ぼくたちがきずつく…?」
「…しかも、その本丸に薺のような存在が居るとは限らん。否、居る方が少ないだろう。…まずい展開になりそうだな」
「ーー…他の本丸の俺も、また主を手に掛けるのかも知れないのか…」
「…鶴さん…」
「案ずるな、鶴丸。私が居るんだ。この負の連鎖を断ち切ってみせるさ」
「…策はあるのか」

「さあな、まだ何も考えていない。いかんせん、情報が少な過ぎる。だが、何があっても私は此処に帰って来るよ」


大切な、家族の元に。誰が何を仕掛けて来ても、命を落とさずに必ず帰って来よう。他でもない、何よりもかけがえのない、刀剣男士達の為に。私の両手には抱え切れないが、誰一刃、欠けずに守りきってみせよう。クズなヒトの子になど、触れさせてたまるものか。四獣の誇りを、白虎の誇りを持って全力で抗ってみせようじゃないか。


「ーー…だから、必ず元凶の息の根を止める。どんな手を使ってでも」


この本丸に、私と刀剣男士とこんのすけ以外要らないだろう?仕事さえこなしていれば問題はないはずだ。もう、お前達の思い通りにはならないよ。この負の連鎖は必ず私が断ち切る。大妖怪と恐れられ、四獣の白虎を任された私を甘く見ないで貰おう。ーー…今度こそ、私の大切な存在を守れますように。見守ってくれと、支えてくれと、祈った言葉は無事に届いただろうか…私はそれだけを祈り続ける…
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