まずは休憩を
偶々本丸に羽根を伸ばしに来ていたこんのすけに審神者会議の日程を問えば、こんのすけは机の上にある卓上かれんだーにちらっと視線を向けた後、10日後ですね。と若干不満気な表情で答える。優しいこんのすけは私を政府の役人に会わせるのを未だに快く思って居ないようだ。別に気にしなくても良いのだがなあ…10日後、か。と呟いた後、私の左右を固めている長谷部と薬研に視線を向けてから口を開く。
「薬研。策を考えることに長けている刀剣男士を何振りか連れて来てくれないか」
「ああ、任せてくれ。何振りでも良いのか?」
「ああ。薬研が信用出来る刃で頼むよ」
「任せな、大将」
「長谷部、お前は全員分の茶を頼む。茶請けはーー…そうだな、何があったか」
「拝命致しました。…そうですね、燭台切が遠征先で美味しい煎餅屋を見付けたからと何種類か買い占めていたのでそれなんて如何でしょう」
「ほう…光忠が選んだ奴は大層美味いだろうな。長谷部、光忠を探して何種類か貰えないか聞いて来てくれないか?」
「主命とあらば」
「こんのすけ、お前にも聞きたいことがあるんだ」
「薺様…?」
「案ずるな。ただの作戦会議だよ」
不安気な表情のこんのすけを自分の方に抱き寄せ、首元等に手を這わせる。私も獣だからな、触れられて気持ち良い所は分かっている。私の行動にこんのすけはお止め下さい!とか何やら言っていたが、暫く経ったら喉を鳴らしていた。うんうん、快楽には早々抗えんよな。存分にこんのすけをもふっていれば、失礼します。と一声掛けてから長谷部が入って来る。お盆の上にある湯呑みの数を目視し、薬研が連れて来るのは6振りか…と判断しつつその隣に目線をずらしーー…ぽかん、と不覚にも間抜けな顔を晒す。いや、まあ、私はどんな表情でも美しいから問題ではないがーー…殺生丸や犬夜叉には見られたくないな、なんて思った。…付き合いが長いからか?
「…長谷部、随分と持って来たな?」
「…燭台切に、主が燭台切の目利きなら安心だと仰っているから少し茶請けにくれと言ったら、こうなりました。燭台切は主に甘いですからね」
「ふ、それをお前が言うのか?長谷部」
「俺はお世話係ですから。…こんのすけ、お前にも煎餅があるが食べる時間はあるだろう?」
「え、は、はい。大丈夫ですが…宜しいのですか?」
「お前が食べても大丈夫なくらいあるからな。ほら」
「あ、有り難うございます…!んん、これは美味ですね!醤油の香ばしさがたまりません!」
「そうだな…私もちょっとつまみ食いするか…匂いだけでお腹が空いてしまう」
こういう時に鼻が良いのは不便だなあ、と思いながら煎餅を齧れば、醤油と砂糖の甘じょっぱい風味が口内に広がる。うーん、流石光忠。彼奴の目利きには本当に目を見張るものがある。長谷部も、と視線を向ければ、彼は抹茶の煎餅を一口齧り、ぱあっと表情を明るくしていた。うんうん、可愛いな。煎餅に舌鼓を打っていれば、大将入るぜ。と言う言葉と共に襖が開き、煎餅を齧っている私達にきょとりとした後、困ったように笑いながら口を開く。
「俺っち達を差し置いてつまみ食いとは、大将も長谷部の旦那もこんのすけも冷たいもんだな。勿論、俺達の分もあるんだろ?」
「勿論だ、薬研。…ほう、歌仙と一期と長曽袮と数珠丸は想定内だったが、鶴丸と物吉が来るとはな…」
「はは、甘く見て貰っては困る。俺は平安生まれだからな、知識が豊富なのさ」
「僕は特に策に詳しい訳ではないですけど、幸運を呼ぶことについては自信がありますので!」
「すまない、薺。物吉を選んだのは俺の独断なんだ。物吉は幸運を運ぶことが得意でな、作戦の効果を高める為にも是非にと薬研に進言したんだ」
「私は構わないよ、長曽袮。怒ってはいないから案ずるな。薬研が許可してる時点で信頼を得てるんだろう。幸運を頼むよ、物吉」
「!は、はい!お任せ下さい!」
「…まあ、物吉の旦那にはまんまと出し抜かれたからな。極めていれば話は違ったのかも知れんがな…」
「極める?かんすと、だったか。それ以上の状態があるのか?」
「極、と呼ばれる存在があるのですよ。今この本丸に顕現している刀剣だとーー…一期一振以外の粟田口、愛染、今剣、小夜、太鼓鐘、不動、青江、物吉、浦島、堀川、和泉守、長曽袮、大和守、加州、村正、亀甲、同田貫、伽羅、陸奥守、切国、蜂須賀、歌仙、宗三、俺ですね。まあ、粟田口と言っても毛利は除きますが」
「ほう、結構該当するのだな」
「そうだな…ま、本丸から3日間離れて修行しに行くのは些か変な気分ではあるがな。…演練で良く見掛けるが…同じ個体だとは思えない強さだ。あの強さが欲しくない、と言ったら嘘になるな…」
「なあに、強くなりたいと望むことは悪くないさ。私は喜んで背中を押そう。落ち着いたら極について詳しく調べる。それまで待っていてくれるか?」
興味ない、と言いたげな表情を浮かべていたが、瞳に宿る炎を誤魔化すことは出来なかったらしい薬研の頭を撫でながらそう声を掛ければ、薬研は照れ臭そうに微笑む。薬研は肌が白いから朱が良く映える。美しいな、と思わず零れた言の葉に、大将の方が綺麗だ。と男前なセリフ。…つからー?はこのギャップに心を奪われたのだろうな。正直、私もヤバかった。
(ーー…3日、か)
左文字の二振りと長谷部はあまり出したくないなあ、なんて思ってしまった。彼等が強くなりたいとそう望むのであれば背中を押すつもりではあるがーー…彼等が居ない生活を想像出来ないのも事実。別に薬研達なら居なくなっても平気なんて思っていないがーー…特別、なんだろうな。依存は良くないとは思っているが…自嘲気味な笑みを零してから、長谷部が淹れてくれた茶を啜る。うん、相変わらず美味い。ホッと一息付いてから、静かに私は口を開く。
「こんのすけ」
「はい?」
「正直に答えてくれ。ーー…最後にまともに睡眠を摂ったの、いつだ?」
「…私はちゃんと寝ておりますよ?」
「ほう…そのセリフ、嘘はないと白虎に誓えるのだな?」
「う、…申し訳ありません。…3日前、くらいだったかと思います…」
「3日!?…そんな驚きはごめんだな。なあ、薺。今は会議よりこんのすけを先に休ませてやらないか?こんのすけが寝て起きてからでも遅くはないだろう」
「日にちが近付いて来てるとはいえ…寝不足では頭が回りません。人の身を得てから私も実感しましたし…鶴丸殿の意見に賛同します」
「私も異論はありませんな。そんな状態ではロクに考えも浮かぶとは思えませんし」
「そうだな…此処に集まってる奴等は皆非番だし、またいつでも集まれるだろう」
「そうですね…休息も大事ですよ、薺様!」
「僕も良い考えだと思うよ。冷静な判断をする為には、適度に休憩も必要だからね。君も書類仕事を終わらしたばかりなんだろう?」
「ああ。…書類仕事と言っても、胸糞悪いモンだがな。余程大将のことを知り尽くしたいんだろうな。…早く潰したいもんだ」
「薬研」
「おっとすまない。…ま、気分も削がれただろうし、ちょっと昼寝しようや、たーいしょ」
「そうですね…布団を用意しましょうか、主。隠し扉には色々ありますから、ね」
「…そうだな。ああ、一度部屋に戻ると不便だろ、布団なら沢山あるから此処で寝ていけ。長谷部にもちゃんと寝て貰いたいしな」
「…俺はちゃんと寝ますよ、主」
「信用出来ん。ほら、隠し扉から布団を持って来い。この机を退かせばこの人数でも寝られるだろ。こんのすけ、君は私と一緒に寝ような」
「は、え、さ、審神者様!?」
「そんなに驚く必要はないだろう?ただの昼寝をするだけだよ、こんのすけ」
逃げられないようにこんのすけを抱っこしながら長谷部に視線を向ければ、彼は頷いてから机を退かし、私の布団を持って来る。隠し扉の方は歌仙が案内してるらしい。隠し扉の中には空気清浄機?と呼ばれるものがあるらしく、無人でも埃が舞うようなことはないそうだ。…連絡を取り合っていたのはそこかも、な。一期が薬研の分の布団を持って来たのに薬研は不服そうだが、表情が緩んでるのは見逃さんぞ、可愛い奴め。
布団を持って来たものの、私だけは執務室ではなく自室で寝ろと言われた。逆らったら歌仙の雷が落ちそうだから納得したが…解せぬ。
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