一振り目と二振り目

刀剣男士全振りに、りんと楓と犬夜叉とかごめという大人数で私の住んでいた場所に向かう。とある生い茂った木々の間を通っていけば、拓けた場所に出る。野花が咲き乱れる草原と、流れる透き通った水の川と、美しく壮観な滝。この滝の中には洞穴があり、そこで生活していた。いつ来ても美しいな…


「…此処は、清らかな場所ですね…荒んでいた心が、浄化されるようです…」
「…綺麗ですねぇ…どんなに見ても飽きない、と言うのが初めて分かった気がします…」
「…此処は、綺麗な場所だね。姉様が作ったの…?手を加えてあるよね…?」
「良く分かったな、小夜。…妖怪共が人の子相手に喧嘩を売って、地を荒らすことが多いんだ。争いが起これば自然は壊れるだろう?こんなに美しいのに咲かないのは勿体ない。私は鼻が良いからな。争いが起きそうな場所の自然を此処に移していたんだ。妖怪共はこの美しい場所が嫌いだからな」
「…此処まで神気に満たされている場所だからね。邪気に満ち溢れている妖怪にとっては害でしかないだろうね…此処で加持祈祷したら効果が凄そうだね」
「石切丸はそればかりだねぇ。…でも、分かる気がするよ。此処は綺麗なだけじゃないよね。神聖な場所だ」
「…あくまで、少ししか手を加えていない、というのがこの美しさの秘訣でしょうね…」
「良い気分になるねー。疲れも吹っ飛びそうだ!此処でお酒飲んだら最高だろうねえ」
「次郎はそればかりですね…しかし、確かに此処でお酒を嗜むのも良いかも知れませんね」

「ふふ、気に入って頂けて何より、だな」


他の刀剣男士達も見惚れているらしく、辺りを見渡しては、溜息を付いていた。来たことのあるりん達は、いつ来ても素敵だと嬉しそうに告げる。半妖である犬夜叉ですら、此処は心地良いと言われた。嬉しいものだな。因みに、此処には結界に私の神気を混ぜている為、邪な気を少しでも持っている輩には感知出来ないようにしている。負担?神気は少ししか混ぜていないし、結界も大掛かりではないから平気だ。嘘?…そんなことはないんだがなぁ…


「薺様はちゃんと自分の身体を労っておられる…最初は結界も大掛かりではあったし、今よりもっと酷かったですな。無理して倒れたりとか良くしておられた」
「あー…あったなあ。ついさっきまで一緒に居たのに、何となく振り返ってみたらぶっ倒れてたり。音も立てずに倒れてたから心臓に悪かったのをよーーく覚えてるぜ。あの殺生丸ですら、焦ったように顔を青ざめてたからな」
「え!!…薺ちゃん、最初は無理ばかりしてたのねぇ…」
「薺様、無理はいけませんよ!お身体を大切にして下さい!」
「今はちゃんと力加減も覚えたから大丈夫なんだがなぁ…桔梗に口酸っぱく言われたのもあるがな」
「桔梗姉様は薺様を気に掛けておりましたからな…薺様が旅人に拐われそうな時は村の誰よりも早くにお気付きになられていたのを、今でも楓は思い出せますよ」
「あー…あったなあ。あの時は何だったか、匂いの強いものを撒かれて、参っていた時だったな。美人が怒ると怖い、と言うのを改めて思い知らされた。…この罰当たりめ!って言いながら弓を乱射して追い出したと思ったら、唐突に泣き出されて驚いたのを覚えているよ」
「……思えば、あれからでしたな。薺様の無茶が減ったのは」
「…自分の為に怒り、泣き、人の子を信じてくれと、必死に懇願されてーー…絆されない訳、ないであろう」
「…桔梗らしいな。彼奴は俺を薺の側に居させたがったし。知ってたか?彼奴、俺と薺を人間にしようと思ってたんだぜ」
「何、犬夜叉だけではなかったのか?」
「…桔梗姉様は薺様も犬夜叉も好いていたからな。無理もない…自分が死した後のことを心配しておられたからな…」
「…けっ、俺は人間にはならねぇよ!妖怪になるんだからな!」

「…私も、人の子になりたいとは思えんな」


今のままで、丁度良い。そう呟けば、楓とかごめは分かっていた、と言わんばかりの表情で頷き、りんは悲しそうな表情を浮かべながらも頷く。…すまんな、りん。私の答えに、黙って聞いていた江雪の優しい手が頭を撫でる。さらり、と宗三に髪を撫でられ、ぎゅっと小夜に手を握られた。…うん、人の子になったら、左文字や他の皆との別れも早くなってしまうからな。それだけは避けないとな。


「…桔梗様らしいですね。あの人は、僕達を助け、励ましてくれました。人間は悪い人ばかりではないと、優しい人間も居ると、…助けが来る筈だから諦めないでくれと。常に声を掛けて下さいました」
「そうだね…あの人は人間でも信用出来たよ。桔梗さんと神楽や神無が居てくれたから、今の僕達が居るんだ。あ、勿論今はご主人様が1番だよ!!」
「はは、有り難うな。亀甲。…そういえば、神楽には巴、神無には篭手切が居たがーー…桔梗には誰も付いていないのか?」
「…一振り目の、俺が付いている」
「大包平…お前は二振り目なのか?」
「そうだ。同じ俺だからな、彼奴の気持ちには真っ先に気付いた。だから言ってやったのだ、お前も大包平なら惚れた女に付いていけとな!彼奴は鶯丸や他の連中を置いて行けないと尻込みしていた。そこを叱咤してやったのだ。お前の代わりに俺が皆を守ってやるから、お前は桔梗に付いて行けとな」
「ーー…そうか。うん、そうなのか。実にお前らしいじゃないか、大包平。兄として嬉しい限りだ。一振り目の大包平にも会ってみたいものだな」
「…二振り目の俺だけでは満足出来ないのか?」
「何年待ったと思っている。…まあ、嘘ではないが、冗談だ。お前が送り出せる男なのだろう、一振り目の大包平は。だからこそ、兄として言いたいことがあるだけだ。薺の大切な友人を託すのだからな、相応しくない覚悟であれば叩っ斬るまでだ」
「随分と過激ではないか、鶯丸。…まあ、桔梗が側に居させているんだから無問題だろう。いつか会いたいものだな」
「…主は、一振り目の方が良かったと、思うか?」

「ーー…私の大包平は、お前だけだよ」


不安そうな表情を浮かべる大包平の頭を撫でながら言えば、大包平はそうだろう、俺は最強だからな!と言いながら桜の花を舞わせる。…正直、一振り目と二振り目の違いは分かってはいないんだが、これだけは分かる。私の元に来てくれた大包平が、この二振り目の大包平で良かった、と。きっと、桔梗に連れ添っている一振り目の大包平も、一振り目でないと意味がないのであろうな。私が二振り目で良かったと、心から思うように。


「…桔梗は、幸せなのか?」
「幸せに決まっている。この俺が付いているのだからな!」
「…幸せだと思うがな。犬夜叉、お前もそろそろ吹っ切れてはどうだ?失礼だと思わないのか。お前の父親は潔かったぞ」
「う、うるせいやい!!俺が好きなのはかごめだ!!…ただ、俺だけ幸せになるのはおかしいだろ」
「…犬夜叉…」
「…桔梗姉様は犬夜叉の幸せを誰よりも願っている。お前が落ち着けるのが何よりも供物になるだろう。…薺様も、ですぞ」
「殺生丸様も言ってたよ!薺様はいつになったら落ち着くのかって!」

「殺生丸には言われたくない。…私は十分幸せだよ、楓。かけがえのない存在に出会えたから、な」


ちら、と視線を投げ掛ければ、左文字や他の刀剣達はきょとんとした後、心底嬉しそうに微笑む。誰かと想い合うことに抵抗がある訳ではない、が…今はただ、この幸せを感じていたい。恋だの愛だのに現を抜かすのもアリではあるが…今の私には考えられんな。今はまだ、このままでーー…
…まあ、心の底から殺生丸にだけは言われたくないのだがな。お前こそさっさとりんを娶れ。そんなことを思いながら、私は小さく溜息を付いた。
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