助太刀を求む
あれからというもの、りんは短刀達とすっかり仲が良くなったらしく、元気良く草原を走り回っていた。楓には桔梗や神楽、神無に世話になっていた刀達が懐き、かごめの天真爛漫な明るさやはっきりと物を言う態度に新選組が心を開き、犬夜叉のもふもふに小狐丸達が興味を示していた。うんうん、仲が良いのは良いことだな。
「…穏やか、ですね…」
「ですねぇ…出陣がないのって暇で仕方がありませんでしたが…たまにはこういうのも良いですねぇ…」
「…姉様、風が気持ち良いね。姉様の霊力を感じるからかな、凄く調子が良いんだ…」
「…そうだな。本丸にも主の霊力が漂っているから心地が良いし、調子が良いがーー…やはり、此処は特別なんでしょうね。主の想いが強いからこそ、俺達を包み込むような、優しい環境になるんでしょうね」
「そうなのか?…ふむ、私としては実感がないがなぁ…まあ、此処は私が心許した者以外は入れんからな。神聖な場、と言うのは烏滸がましいかも知れんが…大切な場所だよ。無論、本丸もな」
「烏滸がましい、なんてことは有り得んだろう。此処は大将が過ごした土地なんだ。大将は四獣なんだろう?土地が大将を歓迎してるとみて間違いないだろうな。俺っちも此処は好きだぜ、本丸と行き来するのもアリかもな」
「…ふむ。楓にまた札を貰って此処と私の部屋を繋げるのもアリだな。夜になると星空が美しくてな、いつかは見て貰いたいものだ。此処から見る星空は圧巻だぞ?星が降って来るような感じだ。寝っ転がりながら眺めるのが好きでなぁ…」
「星空、ですか…良いですね、全てが終わったら皆で星空を眺めながらばーべきゅーでもしましょうか…」
「良いですねぇ、きゃんぷふぁいやーなんかも楽しそうです」
「…ましまろとか、焼いたりしたいね」
「ましゅまろか、それも良いな。俺はちーずを焼くのが好きだな」
「やっぱり肉が1番だろ。…懐かしいな。彼奴が正常だった時はきゃんぷふぁいやーとか良くしてたな」
「…いつかしような。此処の場所で良いならいつでも提供しよう」
私の言葉に、薬研は嬉しそうに笑いながら頷く。…以前の主を手に掛けた鶴丸や鶯丸に刀を向けた一期に助太刀しようとしていたくらいだ、以前の主のことは多少は慕っていたのだろう。あくまでも多少は、だが。…きっと、楽しかった思い出もあるのだろうな。塗り変えよう、とは思っていないが…悲しい思い出よりかは楽しい思い出の方が良い、と思うのは…私の勝手な思い上がりなのだろうな。
(ーー…他人の思い出にケチを付けるほど、私は大層な存在ではないからな)
私は自嘲気味に笑みを1つ零し、長谷部が淹れてくれたお茶を呷るように飲み干す。…嫌な感情ごと飲み込みたかったが、なかなか上手くいかんなぁ…
ーーすん。と私の鼻が此処には居ない人物の匂いを捉える。後で顔を見せに行こうと思っていたが…いやいや、手間が省けたと言うべきか。生い茂る木々の隙間から見えた影に向かい、私は口を開く。
「随分と久しいな。拗ねていたのではないのか?」
「…私が貴女様の気配に反応を示さない訳にはいかないでしょう。お久し振りです、薺様」
「ああ、久し振りだな。ー…弥勒」
「はい。…また何かに巻き込まれてますね?薺様は相変わらず不運ですな…」
「…まあ、否定は出来んな」
「されても困ります。…私に出来ることなら力をお貸ししますよ」
「それが目当てで来たようなものだ。恩にきる」
私の言葉に、弥勒は困ったように笑いながら出迎えが出来ずに申し訳ない、と頭を垂れる。…別に気にする必要ないのだがなぁ。この人間は…?と不審そうな江雪達に、法師の弥勒だよ、と告げてから私は腰に携えている蒼葉を鞘ごと弥勒の前に差し出す。受け取る前に結界ですか?と問う弥勒に、相変わらず聡いな…と思いつつも私は口を開く。
「金属の持ち込みが不可能な場所に招待されてな。何とかならんか?」
「金属の持ち込みが不可能…それはかなり難儀ですね。いくつかの結界を重ねて厳重にしましょうか」
「ふむ…そうだな、それが1番良いかも知れん。結界のことなら弥勒や楓に聞けば大抵は何とかなるからな」
「ご冗談を。楓様はともかく、私が薺様に敵う筈がないではないですか。…と、一応結界は張りましたが、お身体に不調はありませんか?」
「相変わらず見事は手際だな…うん、身体も平気だ。感謝するよ、弥勒」
「お力になれたのなら幸いですよ」
「かあ〜〜!!相変わらず堅っ苦しいな!弥勒、俺達にするような態度で接しろよ、寒気がするぜ…」
「…薺様はお前なんかより神聖な素晴らしいお方なんだ。そんな接し方出来る訳ないだろう」
「…ー私はあまり堅っ苦しい態度は好かんがな」
「だとよ」
「ーー…申し訳ありませんが、少し考えさせて下さい」
「あー…うん、無理強いはしないから気にしないでくれ。変なことを言ってすまなかったな」
心底申し訳ない、という表情を浮かべる弥勒に対し、気にしてないと言いながら手を振れば、弥勒はホッとしたように肩の力を抜く。…こら、長谷部。親近感が湧くとか嬉しそうにするんじゃない。何故一瞬で意気投合するんだ…見る目がある?弥勒は法師であり僧侶だからな。この手のに対する目は確かだよ。…ああ、そうだ。
「かごめ。金属探知機、というものの強度とか分かったりしないか?」
「金属探知機?そりゃあ、私の居た場所には沢山あるけど…強度は流石に分からないわね…」
「ふむ…範囲ならばどうだ?」
「範囲は結構広いわよ。髪の毛1本でも触れたら探知するやつだってあるわ。勿論、使ってるものにもよるだろうけど…なあに?金属探知機を相手にするの?」
「そうなんだよー。俺達が刀だって知っててだよ?本当腹立つよね」
「本当それ。僕達が主にとって不利になるようなことする訳ないのにね」
「前に騒ぎを起こした連中も余計なことをしてくれたもんだよなぁ…政府みたいな連中に指一本も触れて欲しくねぇのによ」
「仕方がないよ…手を出したのは僕達なんだから。丸腰の人間に襲い掛かったら、どんな理由があっても僕達が悪者になってしまうよ」
「…頼まれて力を貸してるのに、失礼な話だ。…まあ、俺達はモノだからな。仕方ないと言えば仕方ないのかも知れんな」
「仕方がない訳ないだろう。あくまで人の子は力を貸して貰っている立場だ。それを偉そうに…くそ、八つ裂きにしてやりたい…第一、謀反を起こした最初の審神者や刀剣男士だって、政府への恨みつらみだと言うじゃないか。自業自得、と言ったものだろう」
「…同じ人間として申し訳が立たないわ…ねえ、薺ちゃん。その政府?には、誰を連れて行くの?」
「俺と長谷部の旦那だぜ。お嬢、何か考えがあるのかい?」
「お、お嬢……ええと、薺ちゃんって幻術が得意でもあるでしょう?弥勒様の結界と薺ちゃんの幻術が合わさったら楽しいことにならないかしら」
「…成程?確かにそれは良い考えだ。神を従えてると勘違いしている連中に、素晴らしいことが出来そうだな」
にやり、と思わず口角が上がる。そんな私の表情に、かごめはでしょ?と嬉しそうに笑いながら言う。案がある訳ではないが…やり方は定まったな。鞘から蒼葉を軽く抜いてみれば、日の光を浴びてきらりと光る。…薄い結界を可能な限り張り巡らせてあるな、流石は弥勒だ。これに幻術を合わせる…うん、えげつないことが出来そうだな。
「かごめ、恩にきるよ」
「ふふ、気にしないで!第一、私の歴史を変えないように手を貸してくれてる神様にするような態度じゃないもの。だったらーー…手を抜く必要、ないじゃない?あーあ、私が行けたら射抜いてやるのに!」
「ふは、何だ随分と過激じゃないか」
「当たり前よ!歴史を変えられたらーー…犬夜叉とも、薺ちゃんと出会えたのも、あの気が遠くなるような戦いも、全部なかったことになるんでしょう?そんなの、私は嫌よ」
「…かごめ」
「そりゃね、楽しいことばかりじゃなかったわ。私は普通の女子高生だったのに、井戸から落ちたら戦国時代よ?桔梗の生まれ変わりだーって騒がれるし、急に妖怪に殺されそうになるし!!…でもね、私は此処に来れて嬉しいわ。だって、大切だと思う人を助けられる力を得ることが出来たんだもの。…ね、薺ちゃん」
「…うん、何だ?」
「絶対にーー…死なないでね。勿論、清光くん達も」
「…俺が死ぬ訳ないじゃん、主を残して死ねないよ。かごめとももっと話したいし?」
「清光の言う通りだよ。…だから、信じてくれ」
ーー泣くな。
ポロポロと涙と零すかごめの頭を撫でながら言えば、かごめは控え目に私の裾を掴んで来た。純粋に自分達を想ってくれるかごめに心打たれたのか、私と一緒にかごめを宥めてくれている清光達の目にも薄っすらと水の膜が見える。…これはやはり、死ぬ訳にはいかんな。早々に話を付け、かごめを安心させなければ。私は密かにそう決断し、私はかごめを宥めることに集中したのだった…
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