話し合い(物理)をしましょうか
とうとう政府に行く日がやって来た。前日から江雪達はそわそわしていて、石切丸には何回も祈祷された。重ねてやるとご利益がある気がするな、と笑いながら言えば、側に居なくても今度こそ護ってみせるよ、と力強く頷かれながら告げられた言葉に、期待してるよ。と答えれば、石切丸はホッとしたように笑っていた。
政府に繋ぐゲートの前に、全振りが集結する。私は江雪が選んだお揃いの笠と袈裟を身に纏い、こんのすけが選び抜いた白虎のお面を付けていた。どうやら特注らしい。金が掛かっているなぁ…
「薺、無理をしてはいけませんよ…」
「長谷部、ちゃんと護って下さいね?貴方が折れたりしてもダメですよ。擦り傷くらいなら塩塗るくらいで許してあげます」
「薬研、姉様のこと…宜しくね」
「分かっている、無理はしないさ。江雪兄に心配掛けたくないしな」
「抉ってるじゃないか!!…ちゃんと護るし、折れたりせん。まだ主と共に生きたいからな」
「任せな、小夜。大将に指一本でも触れようとしたら、柄まで通してやるよ」
「薺様、本当に申し訳ありません…!!私はこんのすけの中でも格下なのです…」
「気に負うな、こんのすけ。私は気にしてなんかいない。それに、私のこんのすけはお前だけだろう?格下なんて卑下するんじゃない」
「薺様ぁああ!!」
「よしよし。…皆、留守を頼んだぞ」
飛び付いて来たこんのすけを抱え、見送りをしてくれる江雪達に向かって言えば、江雪達は力強く頷いてから、ご武運を。と述べる。…練習していたのかぴったりだった。全振りで同じタイミングとはまた、いつ練習したのであろうな…?
長谷部と薬研と目線を合わせ、互いに力強く頷いてから、こんのすけを抱えたままゲートへと足を踏み入れる。ーー踏み入れた瞬間、ぐにゃりと視界が揺らぎ、思わずふらつきそうになったのを長谷部に支えられた。…事前に聞いてたとは言え、このような感覚だとは思わなんだ。
(…涼しい顔をしている、ということは出陣の時も似たような感じなのだろうか)
一瞬意識がトびそうになったのも含め、もう少し鍛えた方が良いかも知れん。出陣、邪魔しないから着いていけるかどうか聞いてみるのも手ではあるな…政府には可能な限り足を運びたくない所存だ。悪い人の子ばかりではないのだろうが…私の家族を害する可能性が少しでもあるのであれば、警戒しておくのは当たり前だな。
長谷部が先導してくれるがままに歩いて行けば、それはまた大きな建物があり、周りには審神者であろう多くの男女と、護衛であろう刀剣男士達が控えていた。…三日月や源氏といったレアが多いのは気のせい、ではないんだろうな。
「へぇ…結構人が居るのだな」
「本日は国全体での会議なのです。いつもならもう少し少ないのですよ」
「ほう…何か特別な話でもあるのか?」
「こんのすけには知らされておりませんが…恐らく、最近増えて来たというブラック本丸についてのお話だと思われます」
「…長谷部や薬研はその話を聞いても平気なのか?」
「俺達なら平気ですよ。今の俺達には貴女が居ますから。昔のことを言われても、揺らいだりはしません」
「そうだぜ、大将。そりゃあ確かに良い気はしないが…前の主が居て、鶴丸の旦那と鶯丸の旦那が殺らなきゃ、大将には会えなかった訳だしな」
「…あまり無理はするなよ。ーー…しかし、視線が少し煩わしいな」
先程から痛い程に突き刺さる視線。私に対しての視線ではないだろうな、笠と面で隠しているし。連れている長谷部と薬研に対して、だな。周りを見てみれば、私の知ってる長谷部や薬研ではない二振りの姿がある。あれが極、というやつだろう。長谷部はともかく薬研は、なんて言っている声も聞こえる。レア自慢らしいからなあ…確かに私達は浮いているだろう。だとしても、見世物にされるのは気に入らん。
「顔を上げろ。堂々としていろ。気にする必要はない。私の自慢の護衛だろう?他の者達の評価が気になるか?随分と欲張りだな」
「…ご冗談を。この長谷部、貴女の評価しか興味ありませんよ。ーー…今の俺は、主にどう見えていますか…?」
「…俺だって、大将の評価だけが欲しい。なあ、大将。俺は本当に…大将の護衛に相応しいか?」
「私の護衛はいつだって素晴らしい、最高の刀だよ。レアにしか価値がないように思われるのは腹が立つ。綺麗で、素敵なーー…自慢の護衛だよ」
「はっ!有り難き幸せ…!!」
「…大将には敵わねぇな。…すっごく、幸せだ」
「審神者様、ご立派ですぞぅ…!!」
「無論こんのすけも、だぞ?お前も私だけのこんのすけなんだから、堂々としていれば良い。白虎が選んだこんのすけなのだからな」
「っ、はい!!」
「良い返事だ。…レアに目が眩むような輩に、私の自慢の子達を見せたくないなあ」
いっそのこと、結界で見えなくしてしまおうか。くすり、と笑みを浮かべながら言えば、長谷部と薬研は顔を見合わせた後、心底嬉しそうにはにかみ、誉桜を舞わせる。うんうん、可愛い二振りだ。ーーどうだ、私の護衛達は可愛いだろう?レアだとかレアじゃないとかは関係ない。二振りとも素晴らしい刀剣だからな。比べるなんておかしいだろう?
そのまま他愛の話をしながら受付が始まるのを待っていれば、ふと私達に近付いてくる男の気配があった。…こんのすけが言っていた担当、というやつか?
「ーー失礼。本丸番号、零八二零を引き継いだ審神者様でいらっしゃいますね?会議の終了後、お話がありますのでお時間を頂きたいのですが構いませんか?」
「「!」」
「…担当様、お話が違います。ゲート前まで迎えに来て下さるのではなかったのですか?」
「構わんよ、こんのすけ。ああ、如何にも私が貴方方が救いの声を無視し、自分達を呼び起こした主を手に掛けるようなことになった本丸を引き継いだ審神者だ。無論、話をする為に来たのだから時間ならたっぷりとある。ゆるりと楽しもうではないか」
「…っ…!」
「…顔を真っ赤にして、言葉を詰まらせるとは…自分のしていたことが正義ではないと自覚はしているようだな。まあ、だからと言って赦したりはしないが。…おっと、図星だからと言って、此処で手を挙げるのは得策ではないぞ?何しろ、目撃者が大勢居るのだからなあ」
「…っ、貴様…!!」
「私を責めるのはおかしいな。人の目があるところで声を掛けて来たのは貴殿であろう、担当殿。…ああ、案内ならこんのすけに頼むから貴殿に用はないな。会議が終わったらまた来てくれ。さ、行こうか」
「は、はい!!お任せ下さい、審神者様!」
「…失礼する」
「また後で、な」
「…これで好奇な視線からは逃れられるな」
顔を茹で蛸のように真っ赤にし、悔しそうに歯軋りしている担当を通り過ぎれば、さっきまで長谷部と薬研を連れて来るなんて初心者なのかしら?なんて言っていた審神者達は担当に向かって冷たい視線を向け、長谷部と薬研に申し訳なさそうな視線を向けていた。彼等と関わりがある日本号や一期を護衛としている審神者は特に辛そうな顔をしている。きっと話を聞いているか、自分の本丸での彼等のことを思って心痛めてるのであろうな。引き継ぎ、ということを前面に押し出したんだ。多少のサポートくらいは期待出来るかもな。そんなことを考えながら、私は政府へと足を踏み入れる。仕込みは上々ーー…だな。
「主、あのような物言いをして、何らかの処罰を受けたりはしませんか?」
「なあに、お前達が気にすることではないよ。穏便に済ませるつもりは毛頭ないし、立場を分からせるのは必要な行為だろう?」
「…大将の目論見通り、あの担当に詰め寄ってる役人も居るみたいだな。はは、あのいつも俺達を見下してた男が慌ててるのは気分が良いな」
「ええ、ええ!私も気分が爽快でございます!…そう言えば審神者様、審神者名を考えませんか?政府に審神者様のお名前を聞かせたくないのですよう…」
「…ふむ、審神者名か。そうだな、真名を明かすのも長谷部達なら構わぬが、それ以外に明かすのは更々ごめんだな。考えておこう」
「主はセンスが良いですからね、きっと素晴らしい審神者名になることでしょう」
「決まったら教えてくれ、大将。端末を使って他の奴等に根回ししとくからよ。俺達の大将まで操られたら堪ったもんじゃないからな」
「無論だ。良い名前が思い付けば良いのだがなあ」
可能であれば、白虎も感じられないような名前が良いな。まあ、真名を掴まれたとしても、そう易々と操られてやるつもりもないが、用心に越したことではないだろう。名前、名前なぁ…受付に引き継ぎ審神者だということと、本丸番号をこんのすけが説明してから、会議室に向かう。…さあ、せめて上手く踊ってくれよ?役人共。私をこれ以上失望させないでくれよ、人の子よ。
(まあ、謝られても赦すつもりはないがな)
当然だろう?長谷部達が許すと言っても、私は許してなぞやらん。付け上がらせるだけだろうからな。どちらが上か、はっきりさせてやろう。上官には従うべき?は、それは人の子の都合であろう。妖怪である私には関係がない話だな。それに、神様の助けを求める声を無視し、彼等を傷付けていたこと…後悔させてやろう。骨の髄まで、な。
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