新たな協力者になり得る存在

無事に開催された会議。100人…もっとか?が同じ場所に居るのは圧迫感があるな。最初は広い建物だと思っていたが、やはり人数が多いとちと息苦しさを感じる。ちら、と横目で見てみれば長谷部は慣れてるような感じだが、薬研はすこしばかり辛そうだ。ふむ…どうにかしてやりたいが、隙間が少ないから何も出来んな。すまない、薬研。しっかし、本当に暑いな。恐らく熱気なんだろうが、冷房くらい効かせて欲しいものだ。気が利かないのだろうなあ。
会議は何事もなく終わりを告げる。ブラック本丸の話が出た際に、先程の騒動を見ていたらしい連中に意味深な視線を投げ掛けられていたが、スルーしていたらいつの間にか視線は消えていた。情けないな。そして会議が終わり、他の審神者達が足早に出て行く。その流れに乗じて帰るのもまた一興…ではあるが、それでは意味がないからな。仕方ないから待っていてやろう。そして、


「ーー…お待たせ致しました、審神者様」
「…ほう、先程の役人とは違うようだな。問おう、貴殿はどちらの役人だ?」
「…私は政府側の役人です。貴女方に危害を加えるつもりはありません」
「…主、嘘はついていないようです。一先ずは信じて良いかと」
「今のところは、だけどな。俺達のことは別に構わねぇ。…大将に変な真似したら許さねぇからな」
「っ、わ、分かっております…!」

「…薬研、そこまでにしておいてやれ。一先ずは信用しよう。さあ、案内してくれ」


にっこりと笑いながら圧力を掛ける薬研の頭を軽く叩き、案内をお願いすれば、役人は可哀想なくらいに頭を下げながら歩き出す。長谷部も薬研も本体を預けたんだから大丈夫だと思うはずなんだがな。無論、幻術と結界で預けたように見せかけただけだが。まさか本当に金属探知機を欺けるとは思っていなかったし、バレないように極力表情に出さないようにしてくれと予め頼んでいた長谷部と薬研も一瞬息を止めていたから、驚いたのであろう。ま、抜かせるような場面にはならないことを願うばかり、だがな。私もちゃんと持っているから安心してくれ。
一応極秘扱いらしく、人気の少ない道をひたすら進む。裏道が随分とあるのだなぁ…まあ、無理もないか。抱えているこんのすけに何かがあった時の為に道を覚えて貰う。強行突破も視野には入れているが、可能な限り穏便に済ませたいので、な。ひたすらに歩いていれば、一際大きな扉の部屋がぽつんとそこに存在していた。離れ、というやつだろうか。此方です、と開かれた扉の中に、私は臆すことなく部屋に足を踏み入れる。中には数人の役人と、先程声を掛けて来た役人が縄で縛られた状態で柱に括り付けられていた。…亀甲が悦びそうだな。


「わざわざこのような場所まで歩かせてしまい申し訳ありません。何しろ、話の内容が内容ですので何卒ご理解頂きたい」
「良い、事情は分かっている。…そちらの役人は全てを吐いたのか?」
「ええ。…様々な人を洗脳し、奈落という人物を崇めていたことを素直に吐いて頂きました。本来なら斬り捨てるのですが…怒りを抱いているであろう、刀剣男士様達を差し置いて我々が手を下すのはおかしいと思い、こうして括り付けている訳です」
「…ふむ、成程。して、そちらではどれくらい奈落の情報を掴んでいるのだ?」
「お恥ずかしながら…名前と掌握術に長けていることと容姿くらいしかまだ調べきれてないのです。いかんせん、情報が少な過ぎて」
「…そいつの口を割らせれば良いんじゃないのか。俺はかつての主と奈落、そしてその役人が会話しているのを見たことがある」
「流石は長谷部の旦那だぜ。…まさかあんたも、名前しか知らないなんてことは言わねぇだろうな?」
「…っ…」
「…おいおい、まじか」
「なあに、そんなに驚くことではないだろう。彼奴は人一倍警戒心が強い上に頭がキレるからな。迂闊に自分を晒すような真似はせんよ」
「!貴様、あのお方を知っているのか!言え!あの方は今何処に居る!あの方が来て下されば、我々に勝機がま…「居ない」…は?」

「もう彼奴はこの世に居ない。ーー残念だったな?」


あてが、外れて。
素直に情報を吐いたのも、奈落が助けに来ると見込んでいたのだろう。全く、人の子は何と愚かなことか!彼奴が自分の身を顧みずに助けに来るなど、早々有り得ん。神楽が居たら爆笑しているだろうな。私の言葉に、縄で縛られた役人は嘘だ、そんな筈はない、等とまるで壊れたオモチャのように呟いている。…奈落に良いように転がされていたようだな。何があっても助けに行く、みたいなことを言われていたのであろうな。甘い言葉を投げ掛けながら相手に取り入る…彼奴の良く使う手だな。…助けに来るとしたら、私か桔梗か見込みのある輩だろう。私にはこいつが見込みのある輩だとは到底思えん。


「…奈落は既にこの世を去っているというのは、確かなんですね?」
「間違いない。私は遺体を見ているし、彼奴と会話を交わしたから他人がすり替わってる可能性も有り得ん。…彼奴は色々とやり過ぎた」
「…色々と、ですか」
「…ああ、胸糞悪い話のおんぱれーどだ。1つ聞くか?」
「やめておきましょう。…貴女も思い出したくないようだ」
「…アンタは見る目がありそうだ。名は?」
「貴様、総督に無礼だぞ!!」
「構わん。…八代(ヤシロ)と申します、審神者様。審神者様のお名前をお聞きしても?」
「櫻、と名乗っておこうか」
「…良い名前ですね」
「そうであろう?即興だがな。私は普通に真名を彼等に明かしている。まあ、私は審神者の存在を全く学んで居ないからな、名を名乗ってはいけないと知らなかったのさ」
「…それは…何振りに明かしてしまったのですか?」
「…主は俺達、全ての刀剣男士に明かして下さいました。神隠しをされても構わない、と。…まあ、全てが終わるまではするつもりありませんけどね」
「俺達をこの人から離したりしないでくれや。俺達の全てを癒してくれるのは…この人しか、居ないからな」
「…貴女はそれで良いのですか?」
「無論だ。…私は奈落の友人でな、最初は罪滅ぼしのつもりだった。しかし、今は違う。私の意志でーー…刀剣男士達と共に生きることを決めたのさ」
「…後悔は、ないのですか?」

「ーー…ああ、ない。寧ろ長生きをし過ぎた。最期くらい、大好きな彼等と共に生きていたいのだよ」


邪魔をして、くれるな。
そう付け足しながら、総督という八代に視線を向ければ、彼は少し難しそうな表情を浮かべつつも、分かりました、と小さく頷いた。他の役人が騒いではいるが、八代はやはり頭が相当キレるようだ。私の願いを聞かないリスクを瞬時に理解したのだろうな。政府としても、戦力を失うのは惜しいのだろう。長谷部と薬研の態度から、私を引き離したら大変なことになると分かったのであろうな。うん、頭が良い奴は嫌いではない。


「八代、その役人はどうするのだ?使い物にならなそうだが」
「まだ吐いて貰いたい情報がありますので、暫くは生かしておくつもりですが…刀剣男士様はそれでも宜しいですか?」
「別に構わん。…以前の俺達ならすぐに斬りかかっていたが、今の俺達には主がいらっしゃる。ーーそれだけで、十分だ」
「…恨み辛みが全部なくなった訳じゃないが、それにこだわっている時間もないだろ。こっちが疲れていたって、敵は攻めて来る。だとしたら、無理矢理でも前に進むしかねぇだろ」
「…我が部下が本当に申し訳ありません…暫く、任務は免除します。資材も支給しましょう。我々にはこれくらいしか出来ませんが、受け取って頂きたい。他に我々に出来ることはありますでしょうか」
「…ふむ。新たに担当を派遣して貰えると助かる。こんのすけばかりに負担を掛けたくないのでな」
「!審神者様…!」
「こんのすけと連携が取れる人材を、八代が選んでくれ。貴方の目利きなら信用出来る。優秀でも新人でも構わん。容易いことだろう?」
「…分かりました。至急、手配します」
「うむ。…ああ、もしその役人が口を割らない時はこれを使ってくれ」
「?これは…?」

「交渉が決裂した際に使おうと思っていたブツだ。使う時はガスマスクを使ってくれ」


なかなかにえげつないからな。
にこりと微笑みながら言えば、八代も他の役人もひくりと頬を引き攣らせ、こくこくとまるで赤べこのように何回も頷く。使わなくて良かった、と思うべきか。もう少し乱暴な手を使わなくてはならないかと危惧していたが、やっぱり上が良いと話がまとまるのが早い。末永くヨロシクしたいものだな…


「ーー穏便に終わりましたねえ!流石は薺様です!」
「ええ、流石でございます。喧嘩を売った時は驚きましたが…周りに役人が居ると気付いたからだったんですね」
「周りの審神者も上の人達も味方に付ける…いやあ、俺っち達の大将はすげぇお人だ。かりすま、ってやつか?」
「かりすま、が何かは分からんが…まあ、年の功ってやつだろうな。ああいうのは初めが肝心なのさ。恐らく、下手に出ていれば八代は出てこなかっただろうな。あの役人のボスの方に案内されていただろうよ」
「…薺様、先々のことをお考えになっていたのですか?」
「当たり前だろう。…それに、私とこんのすけだけでは意味がないーー…長谷部と薬研の前での証言が必要だったのさ」
「俺っち達の前で…?」
「…約束を簡単に交わしてはいけません、というやつですね?」

「左様。これで政府が私達を引き裂くような真似は出来ない、ということだ」


神の前で、分かりました。と頷いてくれたからなあ、担当についても変な輩を差し出してくれば、私の結界に阻まれて中に入ることも敵わんよ。八代ならそんなことはしないとは思うが…念なら念を、だな。警戒に越したことはないだろう。私の言葉に、こんのすけ達はぱちくりと数回瞬きを繰り返した後ーー…貴女には敵いませんね、と苦笑いを浮かべながらもどことなく嬉しそうだ。…大切な彼等を守る為ならば、いくらでも手は打つさ。堕ちる必要があるのであれば、いくらでも堕ちてやろう。私の意思はもう刀剣男士と共に過ごすと決めているのでな…何人たりとも邪魔させん。邪魔をするのであれば…噛み砕いてやろう、野生だからな。
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