担当の訪問

ついに、この日が来た。あの審神者会議でのことから2週間が経った今、新しい役人を派遣するという情報が入って来た。もう少し時間が掛かっても良かったのだが…まあ、八代なりの配慮だろうから受け取っておこう。先程からそわそわしているこんのすけをそっと抱き抱えたものの、本日の近侍である伽羅とお世話係の長谷部と共に忙しなく時間を気にしている。まあ、無理もないだろう。伽羅と長谷部は少し気にし過ぎな感は否めないがな。八代が送って来た人材がもしも以前のような輩だとしたらーー…その時は、斬り捨てれば良いだけであるし、政府に対してはそうだな、夜な夜な化けてやろうか。ふぅむ、それはそれで面白い気がして来た。そうなってくれても一向に構わぬな。まあ、彼等に悲しい思いをさせなければ何でも構わぬが、な。
書類整理を終わらしていれば、本刃達からの希望があり門番を任していた蜻蛉切と山伏が来客を知らせる鐘を鳴らす。その瞬間、ピリッと伽羅と長谷部から発せられる気配が刺々しいものになり、私は溜息を付く。


「ーー…玄関には石切丸や青江が待機している、何かあれば斬り捨てて構わんとも言ってあるから少し落ち着いたらどうだ?」
「はっ、…すみません。どうしても嫌な予感が拭えなくて…」
「…すまない」
「薺様ぁ…大丈夫、でしょうか…?」
「きっと皆が皆気が気ではないだろうからな、慎重に判断するだろう。この本丸に相応しくないならご退場願うだけだ。まあ、そんな人材を寄越した政府には何らかの行動をせねばならぬがな」
「ーーええ、そうですね。主のお手を煩わせる訳には参りません。この俺が圧し斬ってやりますよ。伽羅、主のことをちゃんと守れよ」
「…言われなくとも」

「…少しばかり過激過ぎるな」


殺す気満々な長谷部と伽羅の頭を軽く叩きながら待つことにする。本来であれば玄関で出迎えたかったのだが、石切丸達が良しとしなくてな。不届き者であれば敷居を跨がせたくなかったのだが…まあ、大事にされていると思うべきなのだろうな。…ふむ、嗅ぎ慣れない若い匂いが近付いて来てるということは、無事に石切丸と青江の検問を通ったらしい。案内役は…珍しいな、正国と杵か。あの二振りが案内役を買って出るとは思わんかったが…まあ、思うところがあったのだろうな。…さて、そろそろか。


「ーー主、新しい担当さんを連れて来たぜ」
「入るぞー。…ほら、入れよ。言っておくけど主に変なことしたら突くからな?」
「は、はい!!」
「…ふむ、若いな。貴殿、歳はいくつだ?」
「あ、えっと、こ、今年で22になります!名前を秋紀(あき)と申します!」
「ふむ、良い名だな。担当歴は?」
「お恥ずかしながら審神者様が初めてです…至らないところばかりではあると思いますが、誠心誠意努めて参ります!」
「初めて、か。…ふむ、偽りはなさそうだ。こんのすけ、どうだ?仲良くやれそうか?」
「…だ、大丈夫だと思います!何回か姿をお見かけしたことがありますが変なことをするような輩ではないかと!…ただ、」
「ただ?」
「…秋紀様は確か家系が陰陽師だったはずです。審神者様に害がなければ宜しいのですが…」
「陰陽師だと!?」
「よせ、長谷部。…陰陽師ということは本当か?」
「は、はい。俺は霊力が薄くて陰陽師にはなれませんでしたけど、俺以外の家族は皆陰陽師です」
「…主、アンタは大丈夫そうか?」

「ーー…まあ、秋紀に関しては特に異変を感じないから大丈夫だろう」


秋紀の家族が来たら分からないが。
内心でそう付け足しつつ長谷部の方を見れば、彼は不快な表情を隠そうとせずに茶を淹れて私と伽羅、そして秋紀の前にそっと置く。入口の近くにいる正国と杵に目配せすれば、彼等もまた秋紀に鋭い視線を向けてから名残惜しそうに去って行く。…やはり少し過激過ぎるな。すっかり萎縮してる秋紀に悪いな、と思いつつ私は口を開く。


「秋紀、…お前はこの本丸のことを何処まで知っている?」
「えっ、と……八代様から色々聞いています…担当と前審神者様が刀剣男士様に無体を働いていた、と」
「ふむ、こんのすけのことは何か聞いているか?」
「…色々こき使っていたと聞いています」
「だがアンタ等はこんのすけに手を差し伸べることすらしなかったんだろう」
「伽羅」
「、…すまない」
「いいや、伽羅の言っていたことは正しいですよ、主。…俺達は主が居なければ政府にはなかなか行けないが政府と主の中継役であるこんのすけは別の話だ。…窶れていくこんのすけを無視していたんだろう?手を差し伸べていれば、…皆が傷付くこともなかった」
「そ、れは……完全にこちらの落ち度です。あの担当は個人的にとある人物と契約しており、その人のせいでこんなことになってしまいました。…言い訳でしかならないですが…」
「とある人物、か。…陰陽師か結界師辺りではないか?もしくは呪術に秀でた存在、だな」
「!…そこまで悟ってしまうのですね。その人は非常に優秀な術師だったそうなのですが、力に溺れてしまい堕ちてしまったそうです。師にも籍を置いていた教会にも追放され行方不明だったそうなのですが…そこをあの担当が接触し、自分の尻拭いをさせていたそうなのです」
「…胸糞悪い話だ」
「ああ、全くだ。…神の端くれでもある付喪神を従えてることで勘違いしたんでしょうね。自分が優れた存在である、と。…はっ、ナメられたものだな」
「…申し訳ございません」
「秋紀は関係ないだろう、お前の謝罪で全てが収まるような話でもない。今のお前がやるべきことは1つ…刀剣男士達の信頼を勝ち取ることだろう。今の立ち位置はマイナスだぞ?そこをひっくり返せなければ話にならん」
「はい、理解しております。誠心誠意努めて参ります!」
「ーー良いだろう。この本丸に立ち入ることを許可してやろう」
「!審神者様!」

「ただし、私の目が届く範囲でのみ刀剣男士達との接触を許可しよう。もし、私の知らぬ場所で接触を試みた暁にはーー…その命、ないものと思え」


静かに殺気を飛ばせば、秋紀は可哀想なくらいに震えながら首を縦に振る。…此処まで脅かしておけばアホな真似はそうそうしないだろう。本来であれば関わらせたくないが、な。長谷部の淹れてくれたお茶を一口飲んでから周りを見回せば、長谷部と伽羅の表情が蕩けているように見える。…何故だ?不思議に思いつつも私も審神者初心者だと打ち明けてから色んな話を交えながらお互いのことや仕事の話をして、最後に端末の連絡先や詳しい使い方のマニュアルを貰って正国と杵に送られて帰って行った。…ふむ。


「近頃の若者はあんなにも素直なのか?騙されないか不安なのだが」
「世間知らずと言いますか…何だか頼りない雰囲気でしたね…私としては高圧的ではないだけで大分好印象でしたが…」
「こんのすけが上手くやれそうなら構わんさ。長谷部と伽羅はどうだ?」
「…少し、思っていた人間とは違うように感じました。それこそすぐに息の根を止められそうな…そんな感じですかね」
「…前の担当とは違い過ぎて対応に困る連中も多そうだ。俺個人としてはそんなに嫌悪感は抱いてない。…光忠と仲良くなりそうだとは思ったが」
「後は堀川とか歌仙とかだな、世話好きな刀とはなかなかに相性が良さそうですよ」
「ああ、私もそう思った。…まずは堀川や歌仙辺りと関わらせてみるか。光忠は太刀だからな、堀川や歌仙が大丈夫だと思ってからの方が伽羅も安心だろう?」
「…お見通しか、感謝する」
「…逆に御手杵や同田貫にとっては相性悪いでしょうね。こっちが警戒していてもそれに気付きすらしない気がします」
「一度打ち解けてさえしまえば仲良くなりそうではあるがな。…鶴丸に感化されないかが不安ではあるが」
「…気を配っていよう」
「大丈夫ですよ、主。落とし穴なんて掘らせませんから」

「ああ…そうしてくれると助かる」


仲良くなったとしても、落とし穴なんて掘られたら振り出し以上に戻ってしまうからな。あれは鶴丸だから許され……てはいないか、うん。鶴丸だから見逃して……貰えても居ないか、一期や明石がよく追い掛け回していたりするのを見るからな。明石はやる気がないのがウリのはずだが…この本丸の明石は亜種なのだろうな。まあ、顕現方法が特殊だから仕方ないのかも知れぬが。まあ、落とし穴や悪戯は鶴丸と一部の短刀達の交流の場でもあるからな、秋紀がやらかしたらーー…きっと許されはしないだろう。聡い鶴丸のことだ、それを逆手にとって勧めたりするかも知れん。彼奴は人の子を誰よりも毛嫌いしているようだしな。まあ、長谷部とも仲が良かったらしいからそれも許せぬ原因なのだろうな。…伽羅の言うことなら少しは聞くかも知れん。


「伽羅、鶴丸のことを注意深く見といてくれるか?」
「…構わない」
「念には念を、ということだけだ。…鶴丸は人の子が嫌いだからな、秋紀に手出しをされてしまっては歌仙達に会わせる意味がなくなってしまう。彼奴は怖いくらいに聡いからな、自分が手を出さなくても危うい境地に相手を立たせることくらい容易いだろう」
「…そう、ですね。こっそり御手杵が報告してくれたのですが、案内してる時に鶴丸と擦れ違ったそうです。光忠と共にいたらしいのですが、鶴丸は光忠を隠すように押し退けながら冷たい目であの若者を見ていたそうです」
「…彼奴が?」
「伽羅や光忠、貞には見られないように気を張ってはいるが、鶴丸があまり人の子を好かないのは勘が鋭い連中や御手杵のように偶々目撃した連中は気付いてると思うぞ。私でさえ人の子の姿をしてる時はあまり良い顔はしないからな。かごめ達にもたまに鋭い視線を向けていたしな」
「薺様…宜しいのですか?」

「仕方がないだろう、鶴丸にも色々事情があるのだからな」


一等気に入っていた人の子の墓にいたのに、欲深き人間に掘り出された挙句、色んな人の子に引っ張りだこだったらしい。その時は刀の姿だったとしても、記憶が消える訳ではない。辛い記憶ほどそう簡単には消えてはくれない。…楽しい記憶が消えるのは嫌なんだがな。難儀なことだ、本当に。…この人の子と添い遂げたい、と思っていたのに見知らぬ人間に掘り起こされ、美しいと色んな人間達の間で噂になり、穢らわしい手で触られる。どれほどーー…苦しかっただろうか。私は鶴丸ではないから気持ちは分かるとは言えぬが…あまり良い気がしないのは確かであろうな。


「…近い内、近侍に鶴丸を指名するか。その際には鶴丸と2人で会話したい、長谷部も席を外して貰っても構わぬか?」
「は、……分かりました。近くに待機している分には構いませんか?」
「それくらいなら構わないが……いや、せっかくだから博多にでも会いに行ってやったらどうだ。私ばかりが長谷部を独占して狡いと言われてしまってな」
「博多が…!?も、申し訳ありません!!主にそんな無礼なことを言うとは…!」
「構わんさ、一期から謝罪は受けているからな。まあ、世話係だからと縛り付けすぎた私も悪い。たまには休暇でも、と思ってな。ああ、案ずるな。その際は左文字部屋にでも居るさ」
「…貞も、アンタに会いたがっていた」
「ほう?ならば伊達組にも顔を出すとするかな」
「…話が終わったら国永も一緒に連れてくれば良い」
「そうだな、そうしよう。こんのすけ、この端末の予備が何処かにあるそうだ、探して貰っても構わないか?」
「勿論でございます!このこんのすけにお任せ下さいませ!」

「ああ、頼りにしている」


そう言いながらこんのすけの頭を撫でれば、相変わらず触り心地が良い。もふもふだ、と嬉しく思っていれば伽羅が触りたそうにしていたので手招きしてみる、伽羅は可愛いものが好きだからな。少しだけ表情を緩めた伽羅をやれやれと言わんばかりな表情で見ている長谷部も可愛いものが好きな方だ。…たまには白虎状態で甘えてみるのも良いかも知れんな、疲れが取れるかも知れん。癒される、とかごめが太鼓判押していたからな。
…まだまだ問題は山積みのような気がするが、焦っても解決には至らない。まずはゆっくりと休んで1つ1つ確実に解決していこう。私はそんなことを思いながら、こんのすけを愛でる伽羅と長谷部を眺めていたーー…
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