君だけにする誓い

担当である秋紀が来てから、こんのすけは無事に休めているようで毛艶が良くなって来た気がする。仕事は遅い方だが期日には必ず間に合うようにしているそうだし、言うべきことと言うべきではないことの区別がちゃんと付いてるらしい。それは実に好ましい点だな、うん。たまに本丸を訪れる時もちゃんと事前に確認が来るし、私が居ないところでは刀剣男士達から話し掛けて来ない限りは話したりしないらしい。…ちゃんと言い付けを守れる子だと評価しても良いだろうな。面倒見が良い獅子王が秋紀の世話を積極的にしているのも警戒を減らすにはなかなか良い手だろう。獅子王と仲が良い厚も興味を持っているようだが…まあ、一期が許さないだろうな。
ずずっ、と茶を啜る。長谷部が淹れたお茶はやはり美味い。茶請けにと歌仙お手製の練り切りを一口食べてみればこれまた茶と良く合う。


「和菓子と緑茶はどうしてこんなにも相性が良いのだろうなぁ」
「…同じ和だからじゃないか?この国らしい良い文化だよなあ、人の身を得てから初めて知ったぜ。和菓子もお茶も単体でも美味いのにぷらすすればもっともっと美味くなる!これを最初に考えた人間は凄いなあ!」
「そうさな。お茶にもほうじ茶や緑茶、麦茶なんかもあるし紅茶、なんて呼ばれているものもある。原料は一緒だそうだから驚きだなぁ」
「おいおい、それは俺の口癖だぜ?きみだから別にとやかくは言わないけどな」
「ふふ、鶴丸ならそう言ってくれると思っていたのでな」
「お見通しってやつかい?今回の主は本当に聡いなあ。…で、そろそろ本題に入ったらどうなんだ?」
「うん?」
「過保護で口喧しい長谷部が此処に居ないんだ。俺とサシで話したいことがあったからだろう?世間話をするだけなら長谷部が居ても構わないからなあ」

「…お前も聡い方だと私は思うよ。ふむ、そうだな…」


何から話すべきか。
そんなことを考えつつ、言葉を探す。鶴丸が私から話し出すのを待ってるようで、探るような視線で見つめてくる。…私が何を話したいのか、なんて分かりきっているはずなんだがなあ…まあ、本人の口から聞きたい、ということだろう。それは理解出来なくもないし、私だってその立場であれば今の鶴丸と同じように待っているだろう。変に誤魔化すのは好ましくないし…直球にするべきだろうな。


「…鶴丸は、人の子が憎いか」
「…やっぱりその話だったか。気付かれないようにしていたつもりなんだがなあ」
「それは伊達組に対して、じゃないのか?鶴丸は彼等に過保護だからなあ。まるで私に対する長谷部だ、良い勝負ではないか?」
「はは、そうかも知れないな。…光坊も伽羅坊も貞坊も俺にとっては息子同然なんだ、そんな大切な存在を、好き勝手にする奴等を憎んで何が悪い」
「悪い、などとは言ったりせんよ。因みに鶴丸は前審神者に抱かれていたのか?」
「…俺はきみのそういうはっきりした所は好ましく思ってるぜ。ああ、抱かれてた。抱く側もあったな……俺が大人しく言うことを聞けば、光坊達に手を出さないって彼奴は言ったんだ。…それを信じた俺は馬鹿だったな。とある日、良い酒を見付けて光坊達と飲もうと思って部屋に行ったら……光坊、泣いてたんだ。身嗜みに誰よりも気を遣ってる彼奴が、ぼろぼろで膝抱えながら声を殺して泣いて、伽羅坊と貞坊には秘密ね、って目が合った俺に言うんだ。…あの時は、結構絶望したぜ」
「…光忠も、被害者だったのか。薄々そうではないかと思っていたが……結構クるな」
「…俺は話が違う、って直談判したんだ。約束しただろう、何故破った!って。…そうしたら彼奴、約束なんてしてないだろうって言い放ちやがった。その頃の彼奴は三日月や小狐丸、俺や一期と良く交わってたからな、神気を吸い取って…人間より神に近い位置に成り代わってたんだよ、吐き気がするぜ…」
「…つまり、約束した時は人の子だったが交わることで濃過ぎるほどの神気を取り入れていき、いつの間にか付喪神を凌駕するほどの存在になっていた、という訳か。成程、そんな奴が約束なんてしてない、と言ってしまえば…伊達組に手を出さない、っていう約束は…意味を成さんな」
「ああ、その通りだ!!俺が、俺が彼奴に問い質すような真似をしなければ、光坊は守れたんだ。……俺が、迂闊だった」
「…鶴丸は悪くないさ。誰だってお前の立場ならそうする。…良く話してくれた、辛かっただろう」
「…誰にも話すつもりなんざなかったんだけどな。光坊には触れないでやってくれよ、彼奴は繊細で傷付き易い優しい子なんだ」

「…蒸し返すつもりはないから安心して欲しい。まあ、説得力に欠けてしまうかも知れんがな」


私は可能であれば鶴丸達の色んな話を聞きたいと思っているからな。そう付け足した後、少し冷めたお茶を啜る。やはり長谷部を外させておいて正解だったな、彼奴が居たら鶴丸は話をしてはくれなかっただろう。ハラを割って話すからこそ得られるものがある。やはり勘を信じて正解だった。…まあ、胸糞悪い話ではあったがな。良く我慢出来たものだ…私なら切り裂いているだろうな。それが出来なかったのは主従関係に結ばれていたことと、主には手を出せないという審神者の持つ力があるからだろうな。鶴丸と鶯丸が元審神者を殺れたのは怒りに抗えなかったのだろう、きっと。神に近い存在になっていたとしても、元々の器はただの人の子であり更に言えば政府の操り人形。神とは真逆の存在だったのだ、何らかの副作用が起きても不思議ではない。もしくはーー…


(…折れた刀達の、加護もあるのだろうな)


審神者になることを決めた日の翌日、皆が寝静まった夜、こんのすけがこっそり連れて行ってくれた場所を今でもはっきりと思い出せる。自分がもっと上手く立ち回れれば、と悔しそうに呟いていたこんのすけの手製の墓。無茶な進軍や刀同士の真剣勝負を見たいという愚かな望みにより志半ばに去ってしまった刀剣男士達の墓。破片を回収しては埋めるという作業をたったひとりでしていたこんのすけを私は撫でることしか出来なかった。どれだけ辛かっただろうか、それは想像するに容易いが故に絶望も伝わってしまう。…ああ、私が彼等の最初の審神者であれば良かったのに。


「…鶴丸、先の話だが……私が最期の時を迎える時、君達全員を道連れにしたいと言ったら反対するか?」
「…する訳がないだろう?俺はきみ以外の主に従うのは御免だからな。きみが願ってくれるのなら有り難い限りだ」
「そうか。…その際は秋紀の記憶を少し操作するか。まだまだ未来がある若者を巻き込む訳にはいかんからな」
「おいおい、きみは記憶を操作することも出来るのかい?ちーと過ぎるだろう…」
「ちーと?…まあ、私も神に近しい存在ではあるからな、多少のことは出来るさ」
「四獣、だったかい?初めてきみが来た時、楽しそうにこんのすけが色々教えてくれたからな、あんなに楽しそうなこんのすけは久し振りに見た」
「こんのすけが……私は動物達に崇拝されていてな、大抵は触らせてくれんのだ。貴女様に触らせて良い毛並みではない、とな。もふもふが触れないのは苦ではあったがこんのすけが触らせてくれたのは非常に嬉しかったな」
「へえ!そいつは良かったじゃないか!…きみはふわふわは好きじゃないかい?」
「ふわふわ?」

「俺の髪はなかなかにふわふわだぞ!」


鶴丸は嬉しそうに笑いながら、ん、と私に向かって頭を傾ける。撫でて欲しかったのだろうか。可愛い、と思わず呟きながらそっと手を伸ばす。ふわ…ともふもふとは違う甘美な感触にうっとりと溜息を零す。これは非常にイイ……五虎退の頭を撫でた時の感触に似ている気がする。そうか、これがふわふわという感触なのか。長年生きていても分からないことはあるのだな。サラサラでふわふわとは素晴らしいな…どうだ?と聞いてくる鶴丸に向かって私は笑顔で口を開く。


「今好きになった」
「っ、き、きみ…言い方を気を付けてくれないと勘違いしそうになるじゃないか…!!」
「うん?ああ、鶴丸のことは昔から好きだぞ?美しいものは心が惹かれるからな。まあ、だからこそ人の子の姿をしてる時の鶴丸の視線が嫌だった訳だが」
「う、気付かれていたか……きみだとは分かってはいたんだが、やはり人間がどうしても受け入れ難くてな…きみにもきみの友人達にも酷いことをしたと反省している」
「事情があるのだから仕方ないだろう?なあに、かごめ達だって気にはしないさ、あの子達は何度も辛く悲しい現実を耐えて来た、特にかごめはそうそうへこたれはせんさ、犬夜叉も居るからな」
「信用しているんだな」
「友人だからな。無論、鶴丸達のことも信用しているぞ?…ああ、そういえばな。私が倒れた時あっただろう?」
「…あの日の時は思い出したくない。前の奴に嬲られて絶望していた時以上に光忠の表情が落ち込んでいた。…俺はまた何も出来ないのかと無力さを嘆いていたさ。きみがすぐに目を覚ましてくれたから良かったが、あんな想いをするのはもう御免だな」
「…それについてはすまなかったと思っている。多分そんなに酷いことにはならないはずだから安心して欲しい。まあ、難しいとは思うが…」
「…まあ、言いたいことは色々あるが、きみがそう言うなら信じよう。俺達以上にきみは嘘を付くのが嫌いだからな」
「…そうしてくれると助かる」
「きみだから信じようという気になれる。きみは俺達に誠実だからな。…それで?きみが倒れてた時に何があったんだい?石切丸が言ってた知らない男に関係あるかい?」

「…やはり鶴丸は聡いな。…そこでな、亡くした友人と再会したんだ。触れ合えはしなかったが対話が出来てな、そいつに言われたんだ。私は、この本丸でとても大切な存在に出逢うらしい」


私も、本丸の皆も幸せになる道があるそうだ。
そう付け足しながら鶴丸の方に目を向ければ、驚いたように瞬きを繰り返している鶴丸の姿があった。大切な存在、と言葉を濁しはしたが意図に気付いたのだろう。やはりこいつは聡い。一体誰と懇意な関係を結ぶとまでかは教えては貰えなかったが、白夜が私に嘘を付くはずはない。最愛の人、だからな。…自分で言うのはなかなかに恥ずかしいな。少しばかり体温が上がった気がする。


「それはきみが誰かの神嫁になるということか?!」
「まあ、そうなるのだろうな。誰かはまだ分からないが…これで私は本丸に永住すると決まった訳だ、不安は拭えそうか?」
「ああ!…そうか、きみは絶対に出て行かないんだな。いや、きみが俺達を裏切るとは思っていないんだがな、…人は、平気で嘘を付く生き物だろう?だから俺達は、期待をするのをやめたんだ」
「…私は妖怪だから人ではないのだが、気持ちは分からんでもないな。じゃあ、更に安心出来るようにーー…鶴丸、君に誓わせて貰おう。私は君達を裏切ったりしない、私のこの命尽きる時ーー君達ごと攫っていこうじゃないか。神を誘拐する、なんて実にやり甲斐がありそうだからな」
「!…なかなか凄いことを誓うのだな、きみは。誘拐か、きみになら誘拐されても良いかも知れないな!きっと皆が幸せになる!」
「私の覚悟だよ、ハンパな気持ちでは君達に失礼だからな。それと、これは鶴丸だけに誓うことにさせて貰おう。特別感がするだろう?」
「っ〜〜!…きみは俺を喜ばせる天才だな!!」

「大好きな君が喜んでくれるならそれだけで私は幸せだからな」


感情が制御出来なかったのか飛び付いてきた鶴丸を抱き止めながら畳に倒れこむ。…少し音を立ててしまったか、長谷部が近くに居なくて良かったかも知れん。なかなかに誤解を招く体勢をしているからな。まあ、悪いことではないから見逃して貰おうか。私に抱き付きながら有り難う、としきりに呟いてくる優しい優しい神様を、私は片手で頭を撫でながら片手でそっと背中を撫でる。…過去は消えないと分かってはいるが、辛い思いは消えて欲しいものだな……ん?足音が近付いて来たな。これは…


「主ー、物音がしたけど何かあっ……鶴さん!?何してんだよ!主が潰れちゃうだろ!!」
「貞ちゃん、廊下を走ったらダメでしょ…って鶴さん!?何してるんだい!!こんな昼間から!!主くん大丈夫かい!?」
「国永、早く退け」
「ん?おおー!貞坊に光坊に伽羅坊!って、痛い痛い痛い!!光坊、痛いぞ!!伽羅坊も蹴り飛ばそうとしないでくれ!」
「良いから早く離れる!!鶴さんも細いけど薺ちゃんはもっと細いんだからね!?」
「来るのが遅いと思ったら……アンタも声くらい上げろ」
「うん?重くなかったからなあ。それに、良い匂いがした」
「薺ちゃん!?」
「主は本当に甘いよなあ。鶴さんは甘え過ぎだけど!」
「甘いで良いのか……アンタ、潰されてた割に楽しそうだな」

「分かるか?…ふふ、まあ、良いことがあったのでな」


な、と視線を向ければ鶴丸は嬉しそうに笑いながら頷き、いくらきみ達でも内緒だからな!と口を閉ざす。そんな鶴丸に貞達は不思議そうな顔をしていたが、やはり年長者である鶴丸が嬉しそうな表情を浮かべているのが一番嬉しいらしく、あえて聞いたりはしないそうだ。愛されているなあと微笑ましく思いつつ、この関係の彼等をいつまでも見ていたい。その為に出来ることは虱潰しにやっていかねばならんな。そんなことを思いつつ、私は鶴丸達の和気あいあいとした雰囲気をそっと眺めていたーー…
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