悩みは尽きない

堀川との一件で沢山の刀達に恨まれていることを漸く理解した鶴丸が、般若のような顔をした一期と明石による説教という名の公開処刑を目撃した翌日、鶴丸が短刀達や脇差達に謝罪して回っているのを陰ながら左文字の三振りと見守っていれば、何とか赦しを得たらしい。まあ、ただと言う訳にはいかなかったがな…1ヶ月の馬小屋当番、という内番に課せられた鶴丸は顔を引き攣らせながらも受け入れていた。これで少しは落ち着けば良いのだが…と思っていたが、私にはまだやらなければならない課題が残っていた。


「…短刀と脇差だけで何振り居ると思っているのだ…」
「…姉様、大丈夫…?」
「…大丈夫じゃない…はあ、小夜を抱っこしていると落ち着く…」
「…大分窶れてますねえ…まあ、仕方ないですよね。鶴丸国永から一方的に近侍を解かれていた彼等からしてみれば、今が最大の機会ですからねえ…そりゃあ必死にもなりますよ」
「…しかし…何事にも限度というものがあります…このままでは薺が倒れてしまいます…」
「近侍には選ばないと仰っていた左文字を指名した時点で既に主の心は限界だ。…涙目で近侍にしてくれと訴えられるのは俺でもなかなか堪えた」
「…姉様…復讐、する?」

「…ああ、いや、しなくて良い。お前は黙って私に抱き締められていてくれ」


私の言葉に、小夜は残念そうにしながらも頷いて擦り擦りして来た。んんん、可愛い…やはり短刀は癒されるなあ、と思いながらも涙目で近侍について訴えて来た彼等のことを思い出し胸が痛む。…明日からの近侍、どうするべきか…短刀や脇差以外にも鶴丸に一方的に拒否されたのであろう正国やら長曽祢、村正からも短刀達や脇差の後で良いから、という感じで申請して来たのを思い出す。…問題だらけだな…いっそのことーー…


「…複数人で近侍、というのは不可能なのだろうか」
「複数人…ですか?」
「ああ、例えば左文字や国広兄弟、虎徹と言った感じで指名するのはナシなのか?刀剣達は何振りも居るのだし、最低でも二振りからにすれば効率良く回せると思うのだが…」
「…その括りにすれば、私達も薺の近侍になれるのですか…?」
「僕達の近侍、長谷部や歌仙には劣るかも知れませんけどなかなか効率が良いでしょう?薺も僕達だと安心しますよね?」
「…必死だなあ。まあ、確かにこの複数人での近侍というのが成功すればありかも知れんな」
「…粟田口はどうするの?」
「粟田口は…そうだな、薬研と厚と後藤と信濃、前田と平野、乱と五虎退と秋田、毛利と包丁、鯰尾と骨喰、一期と鳴狐に分けるか考えてはいるが…毛利と包丁が不安でな…」
「…確かにその二振りでは遊ぶだけになってしまいそうですね。前田と平野は真面目過ぎる部分もありますし、そこに加えてみてはどうでしょうか」
「成程、それも確かにありだな。…ああ、博多は日本号の面倒を見て貰うことも兼ねての槍組に入れようかと思っている。蜻蛉切には村正に付いていて貰おうと思ってな」
「…まあ、日本号と御手杵では確かに不安ですよねえ」

「…正国と獅子王も入れても良いかも知れんな」


あの二振りは真面目な部分もあるし、日本号とも杵とも仲が良い。ふむふむ、となりながらいくつかのグループを紙に書いていく宗三を見つめる。不安なのは不動だな…と思っていたが、どうやら宗三は不動を薬研達と一緒にすることに決めていたようだ。確かに不動と薬研は仲が良いからな、流石は宗兄だ。後は三条太刀と今剣と岩融、石切丸は青江と数珠丸と一緒にするらしい。この三振りだと朔の日に近侍になって貰いたいものだな。残る問題はーー…


「…陸奥守はどうしましょうか。彼は何処に組み込んでも上手くやれそうではありますが…」
「…少し気まずくなるかも知れませんねえ。加州と大和守の方に入れるのは持ち主的にも気が引けますし」
「…最近、陸奥守さん元気ないんだ。誰かに気付いたらすぐに笑顔で相手してくれるんだけど…いつもと、違うんだ…」
「何、それは本当か?」
「お小夜が嘘を付くはずがないでしょう?」
「宗兄。…それについては私も危惧していた。やはり新しい刀を顕現させたいところだな…個人的には正国と杵と獅子王と仲が良いし、槍組に入れようと思っていたが…」
「…それが一番最善でしょうね…流石ですよ、薺…」
「新しい刀、ですか。主は迎えたい刀がいるのですか?」

「…八代から近々特命調査とやらが開始されると知らせてくれてな。詳しいことは分からないが…強制ではないから検討してみてくれと言われたのだ」


因みにこの特命調査は2回目らしく、政府から案内役的の刀剣が派遣されるらしい。どんな刀なのかは知らされなかったが…面倒見が良く人…人当たり、と言って良いのか分からんが誰とでも仲良くなれる陸奥守に任せようと思っていてな、と言いながら八代からのメールを彼等に見せる。…ん?これは、見せて良かったのだろうか……うん、多分大丈夫だな。叱られたら知らなかったで通せば良い、何も問題はないな。


「特命調査…へえ、参加は任意なんですねえ。時代は…文久土佐藩。ふふ、勉強したんですね」
「まあ、審神者になったのなら歴史くらい知っておこうと思ってな。土佐は陸奥守の独壇場だろう?帰還を気軽にさせられないのが痛いところではあるが…まあ、新しい刀を迎えるのは良いことだろうからな。個人的には鍛刀も気になるところではあるが、な」
「…今の状況ならば、鍛刀を視野に入れても良いかも知れませんね。やはり、審神者には初期刀が付き物ですから。既にこの本丸に居る刀剣を迎えることは考えていないのでしょう?」
「長谷部には敵わんなあ。…贔屓なんてものはしないつもりだが、無意識の内にしてしまう可能性も否定出来ん。だったら…最初から迎え入れない方が良いと思ってな」
「姉様はいつも僕達を最優先に考えてくれるから…焼きもちを妬かせてしまうかも知れないね」
「…いつもの貴方なら抗議していてもおかしくありませんのに…大人しいですね、長谷部」
「…五月蝿いぞ、江雪。確かに昔の俺なら否定しただろうが…今の主である薺様は何よりも俺達のことを親身に考えて下さっている。…薺様なら下げ渡したりなどしないと、信じ切れるから穏やかでいれるのだろうな…」
「…僕、長谷部のそういうところだけは評価しますよ。…薺は凄いですね、あんなに前の審神者の意見しか聞かなかった長谷部の心の氷を溶かしてしまうなんて…流石ですよ」
「…私はそんなに特別なことをした覚えはないが…強いて言うのであれば、江雪兄と宗兄と小夜のお陰だろうな」
「「「え…?」」」

「江雪兄と宗兄と小夜が私を見てくれたから。…だから、周りを安心して見れるようになった。警戒せずに、背中を任せられるーー…そんな存在に出会えたことが私を私に変えたんだ」


だから、江雪兄達のお陰なんだよ。そんなことを付け足しながら言えば、江雪兄達から満開の桜が咲き乱れる。…そんなに嬉しかったのか?頬を染めながら悶える左文字に、長谷部は困ったように笑いながらも今鍛刀出来る刀達の一覧を表示してくれた。可能であれば誰も居ない刀が良いな。篭手切…はドロップ限定か。最初の方のマップだし、今回は見送った方が利口かもな。巴は鍛刀出来るが……長谷部のこともあるし、やめておこう。静形も気になりはするが、薙刀を初期刀にするのは気が引ける。打刀でこの本丸に居ない、鍛刀出来るのは居ないようだし…そうなると太刀、か。



「…小竜景光か小豆長光、を狙うのが良いかも知れんな。二振りとも長船か。光忠に意見を聞いて見るのも良いかも知れんな」
「長船、ですか。それでしたらいずれかは短刀の謙信景光も迎えたいですね。太鼓鐘の次に会いたいと喚いていましたし」
「短刀か……短刀が初期刀というのも悪くないかも知れんな。まあ、これについては後々考えるか。長谷部、編成はどうすれば良いと思う?」
「そうですね…陸奥と相性が良い同田貫や御手杵は入れたほうが良いかも知れませんね。後はすぐに帰って来ないことも踏まえて知識が豊富な刀を入れても良いかも知れません」
「成程…山伏、だろうな。後は夜目が効く短刀か脇差、攻撃力的に大太刀も入れたいものだな」
「そうですね…愛染と蛍丸にするのは如何ですか?明石を一振りにするのは少し不安ではありますが…」
「愛染と蛍か…あの二振りは…嫌がりそうではあるがなあ。私の近侍になりたいと言っていたし…」
「…それもそうですね。ですが、それを言っては誰もが嫌がりますよ。貴女の近侍になりたくない刀なんて存在しませんから」
「そう言って貰えるのは有り難いことだな。…出陣したいと言っていたし、厚と次郎にしようかと思っていた」
「厚と次郎ですか、良いんじゃないでしょうか。陸奥、同田貫、御手杵、山伏、厚、次郎…と。この六振りには後で声掛けておきますね」

「ああ、宜しく頼む。…良い加減、左文字は私とお話してくれないのか?」


寂しいんだが。と付け足しながら、未だに桜を散らせながら悶えている三振りを呆れたように眺める。誰が掃除をすると思っているんだ…私はやらないぞ…そんな私に対し、宗三と江雪は慌てながらも私に飛び付いて来て頬擦りをしてくる。小夜みたいにそっと手を握るくらいにして欲しいが…まあ、無理だろうなあ。可愛い、愛おしい、と耳元で言われ続けられた。…流石に、少し照れてしまうのだが。


「…姉様の初期刀は、誰になるんだろうね」
「鍛刀は完全にランダムですからねえ、被った場合はどうするんです?顕現せずに置いておくんですか?」
「そう、だな……それもそれで可哀想な気もするが刀解なんてしたくないからな。連結か習合辺りだろうな。前の審神者はしていなかったようだし」
「…習合、ですか?知らない間にそんなことが出来るようになっていたのですね…」
「お前と宗三は囚われていたし、知らないのも無理ないだろうな。…主に鍛刀して貰える刀が羨ましい限りです。初期刀が居ないと不便なのは分かっていますが……悔しい、ですね」
「…私も可能ならしたくないのだがな。このままだと善意で初期刀を贈られそうな気がしてな…だったら自分で鍛刀したいと思ったんだ」
「…打刀がこんぷ、してなかったら良かったのにね」

「そうだなあ…持っていない刀剣はドロップ限定やら期間限定だからな…仕方ないさ」


残念そうな小夜を宥めるようにポンポンと柔らかな髪を撫でれば、小夜はふにゃりと表情を崩す。あー…可愛い過ぎやしないか…?よしよしと頭を撫でながら、長谷部が用意してくれた未顕現リストを見つめる。…こうしてみると、やはり長船にしたいところだな。光忠に初期刀にも向いていそうな刀について聞いてみなければならんな。…まあ、一回で鍛刀出来るとは限らないし、資源を貰っているとはいえ、無駄に使いたくはない。…一日に三振り、くらいを目安にするべきか。ドロップを視野に入れるのも悪くはないな…それに、


「ーーもしかしたら、この特命調査で仲間になる刀が初期刀になるやも知れんな」
「…それも有り得ない話ではないですね。まあ、政府が顕現した扱いになるとは思いますが…初期刀と言っても過言ではないでしょうね」
「…その方が良いかも知れませんねえ。燭台切には悪いですが、薺が自らの手で鍛刀した刀を受け入れられる気がしませんし」
「…宗三」
「兄上もそうでしょう?…羨ましすぎて、妬んでしまいそうです。受け入れる努力はしますが…時間を下さい」
「それは無論だ。…まあ、新たに来る刀が心苦しい思いをしてしまうのであれば、やはり鍛刀は最後の手段にした方が良いかも知れんな」
「…もし、政府から刀を渡されたらどうするの…?」
「私個人としては拒む理由はないが…私が重要視するのは今この本丸に顕現している皆だからな。皆が受け入れないと言えば拒むとしようか」
「…しかし、それは政府の印象を悪くしてしまうのでは?」

「その時はその時、だ。ーー私は、政府の言い成りの良い子ちゃんになるつもりは毛頭にないのでな」


ーー皆に危害を加えるというのなら、抗って見せようじゃないか。白虎の力、甘く見るなよ…?くすりと笑みを零しながらそう告げれば、どういう訳か江雪達は揃って両手で顔を覆って天井を見上げていた。…天井になにかいるのか?虫なら食……んん、退治するぞ?いやいや、退治するだけだからな。うん、口にしたりなんかしないさ、うん。…?小夜、そういうとこってどんなことだ?分からないなら良いのか…?そうか…
夕餉の時にもこの話をしたんだが、同じ反応をされてしまった。解せぬ。
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