好きだと言って!


クールで生意気な印象を周囲に与える私の幼馴染みで可愛い可愛い恋人は、テニスに、というか我が氷帝学園を築き上げたと言っても過言ではない人物ーー…跡部景吾生徒会長に夢中だ。夢中、というか、倒したくて仕方がない人物と言った方が正しいかも知れない。下剋上だと呟いてる時の視線の先には、必ず生徒会長が居る。私はそんな彼が可愛いくて仕方ない。うんうん、目的に向かって一直線なのは素敵だよね。フォローはするから、周りは見なくて良いよ!そんなことを言って退けた私に、若くんは変な奴、と楽しそうに笑いながら言ってくれたのを昨日のことのように思い出せる。何でカメラを持ってなかったのか。それだけが唯一悔やまれる…


「…なまえ、何してんだ」
「あ、若くん。練習はもう良いの?」
「…小まめに休憩は入れた方が良いんだろ。喧しいのはごめんだ。タオル」
「はーい、ドリンクもあるよ!喧しいって…急に倒れたんだから心配しただけじゃない!彼女なんだから当たり前でしょ!マネージャーにしてくれればもっと注意深く観察出来るのに…」
「…なまえがマネージャー?は、絶対断わる。…跡部部長が居なくなるまではさせるつもりはないな」


私が渡したタオルを肩に掛けながら、ドリンクを一口飲む。今はこんなに涼しい顔をしているけど、彼は一度倒れたことがある。あの時はーー血の気が引いた。もっと良く見てあげれば、って後悔しながらも冷静に判断し、樺地くんに手伝って貰いながら医務室に運んだり、濡れたタオルで汗を拭いてあげたりしていて、彼が再び目覚めてくれるように介抱し、目が覚めた若くんに号泣したのは忘れたいけど忘れられない出来事だ。その時の対応が見初められ、跡部生徒会長直々にマネージャーへの勧誘を受けたが、お断りします。と私が口を開く前に若くんが断わったのは当事者である私と若くんと跡部生徒会長、付き添いの樺地くんしか知らないだろう。


「…何を考えてる?」
「ん?私も若くんのこと大好きだけど、若くんも私のこと大好きだよねって!」
「は」
「だってさー、跡部生徒会長にマネージャーに勧誘された時、すぐに断わったのってあれでしょ?私が他の人の世話をするの見たくなかったんでしょ、特に跡部生徒会長」
「っ、…わ、悪いか…?お前は俺の、か、彼女だろ。他の男に世話を焼くなんて、…許せる訳ないだろ」
「悪くないよ。嬉しいもん。でもね、…言葉が、足りないかなあ、なんて」
「っ、い、言わなくても分かるだろ」
「若くん」
「何だ」
「私は若くんが、日吉若くんが小っちゃい頃から大好きだよ。ずっと貴方だけを見て来たから、告白された時は本当に嬉しかった。でもね、あの時以来…好きだって、言われてないから…言って欲しいな」
「な、…俺、は、小さい頃からなまえが側に居たし、それが当たり前だと思ってた。…けど、成長するにつれ、その、他の男がお前に向けてる視線が、堪らなく嫌だったし、なまえの隣に居るのが俺じゃないのは、…考えたく、なかった。…だから、その…こ、これ以上は勘弁しろ…!」
「やだ。…若くん、私は若くんが大好きだよ。若くんは、私のことーー好き?」
「…同じ気持ちだ、って言っても満足しないだろうな、なまえは」
「勿論。ね、好き?嫌い?どっち?」


自分でも意地悪だと理解しているけど、やっぱり好きな人には好きだって言って貰いたいのが女心だよね。そんな私の我儘に、若くんは視線を彷徨わせた後、小さい声で、


「…愛、してる」


そう紡がれた言葉に、思わずぼんっ!と顔が赤くなるのを感じる。私は好きか嫌いかって聞いたのに、それを越える言葉が他の誰でもない若くんの口から聞けるなんて…!思わず泣きたくなるくらい嬉しいけど、私が求める言葉も言って欲しいな、と思いながら若くんを見つめれば、吹っ切れたのかのかは定かじゃないけど、好きに決まってるだろ。といつものように笑いながら言ってくれた。思わずジーンと来てしまう。衝動的に飛び付いた私を優しい顔で抱き止めてくれた若くんはやっぱり最高だよね!これからも大好きだよ、若くん!


END.

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