ひたすらに君の生還を祈る


唐突だが、ビズゲームというのをご存知だろうか。HOMEとAWAYに分かれて、雇われている企業の秘密情報を奪い合うゲームらしい。破格な賞金が手に入るのがウリらしいが、敗北したら最悪死に至るという賭博だ。あまり表には出ていないけど、裏社会では密かに流行ってるらしい。企業様の考えは分からない。殺し屋なんかも参戦してるらしいから尚更だ。そんなゲームに、幼馴染が参加しているという私の気持ちを察して欲しい。


「…すまない」
「…じゃあ、そのゲームから手を引いて」
「…それは無理だ。他のことなら聞く」
「交渉決裂だよ、鴇。私は鴇が大事だからそんなゲームに参加して欲しくない。…少年の不審死、そのゲームの敗者なんでしょ?」
「…俺も、なまえが大切だ。だから、金が欲しい」
「…鴇」
「金があればーー…なまえは助かるんだろう。鴫も見付けて、なまえも側に居る。…それを望むのは欲張りか」

「…欲張り、ではないんじゃないかな」


困ったように笑いながら言えば、鴇はあからさまにホッとしたような表情を浮かべる。変わっていないな、と嬉しく思う反面、彼が居なくなるのが嫌だからやはり手を引いて欲しいと思ってしまう。…私が置いて逝ってしまう可能性が高いことに嫌気が差す。私の身体は病魔に蝕まれていた。日本で治療することは不可能らしく、渡米すれば助かる可能性はあるが、五分五分だし莫大な費用が掛かる。両親は借金をしまくってはお金を掻き集めているが、これ以上は借りれない。そんな状況で、危険なゲームに参加している鴇の目的に、心当たりがない訳がなかった。


(…まあ、それだけではないのは分かっているけど)


鴇には鴫という双子の弟が居る。私の家族と鴇の家族は家族ぐるみの仲良しで、あの日も一緒に遊んでいた。あの日は鴇と一緒に砂場遊びをしていた。鴫には断わられたんだったけ。いつものようにバイバイしたけど、その数分後に鴇が我が家に駆け込んで来た。ーー鴫と両親が居ない、と。突然の失踪からもう10年は経った。音沙汰は何もない。その中での私の病魔だ。鴇の心は砕ける寸前だろう。…自分の身体が憎いなぁ…


「…必ず、生きて帰って来る。だから、許可してくれ。俺はなまえを失いたくない」
「…私だって鴇を失いたくない」
「なまえ…俺はなまえとおじさんとおばさんに助けられて此処まで生きて来た。だから、恩返しをしたい」
「…恩返しなんて、他にも色々方法はあるでしょう…!」
「ない。…分かってくれ。俺は、これ以上窶れていくおじさんとおばさんも、痩せていくなまえを黙って見てるなんて、無理だ。ビズゲームで勝利を重ねていけば、一億が手に入るんだ。鴫を探してなまえの病気も治せるはずだ。なまえは知ってるだろ、俺は強い」
「っ、殺し屋だって参戦してるんでしょう!?鴇は強くても一般人なんだよ!」
「…同じチームの奴等が、そこそこやる奴なんだ。不本意だが…背中を任せられると、思ってる。だから、殺し屋にだって負けない」
「…本気、なんだね…私が何言っても聞いてくれないんだね…」
「…なまえに寂しい思いをさせるのは不本意だが、妥協して欲しい。…俺は、まだなまえと桜とか見に行きたい。…死なせたく、ないんだ…」
「…鴇…」
「…好きなんだ、なまえが。でも、鴫にも会いたい。…その両方を叶える為に、金が必要なんだ。分かってくれ」
「…絶対、生きて帰って来てね。鴫も見付けてね。私と鴇の結婚式にはスピーチして貰わなきゃ」
「…結婚。俺と、してくれるのか?」

「私だって鴇が好きだよ。…必ず、帰って来てね」


私を奥さんにしてね、旦那様。勇気を振り絞って紡いだ言葉に、鴇は自分の髪のように顔を真っ赤に染める。ぱくぱく、と口が開いてるのに言葉が出て来ていないのは、動揺している証拠だろう。初めて鴇に勝てたような気がして思わず口元が緩む。…大好きだよ、鴇。だからーー…絶対、帰って来てね。約束、だよ。


END.

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