抑圧


昼休みになってすぐに氷鷹くんたちに断りを入れて、生徒会室に向かう。英智は確か入院中の筈だが、敬人が居るのは確実だ。普通科の時から行きなれたその場所へ足先は真っ直ぐに進む。扉をノックをすれば少しだけで懐かしいような気がする声が聞こえた。ついこの間も来たばかりだというのに。
入室して真っ先に目当ての人物と目が合った。

「本当におまえが来るとは思っていなかったが……、来たからには働いてもらうぞ。」

「そのために来たんだけど。」

「……そうか。」


生徒会の人たちが仕事をしながら私と敬人の様子を伺う様にチラチラと見てくる。

「こいつは結城凛華、生徒会メンバーは知っているだろうが、普通科の代表だったアイドル科への転科生だ。英智の指示によりこいつに生徒会の仕事を手伝わせる。」

「ホントに会長がこんな奴許可したの〜?」

「あぁ、寧ろ英智が縛ってでも手伝わせろと言っていた。」

ふ〜ん。と可愛らしい顔つきの子が品定めする様にまじまじと上から下まで眺めてくる。内心ため息をつきたい思いだが、生徒会の仕事を手伝うなら嫌でも関わらなきゃいけないのだろうから、最初から悪印象を抱くのは互いに良いことはないだろう。

「坊っちゃま、女性をそんなに見つめてはいけません。結城さま、申し訳ありません。」

「いえ。」

白い肌に泣きぼくろ、なんとも言えぬセクシーさを纏っている彼は、この子の使用人か何かなのだろうか。坊っちゃまなんてリアルで聞くのは始めての言葉だ。

「申し遅れました。私、伏見弓弦と申します。生徒会の役員では有りませんが、坊っちゃまの付き添いとして顔を合わせる事も多いかと思いますので、よろしくお願い致します。」

「なんでおまえがボクより先に名乗ってんのさ!…ボクは姫宮桃李。」


「すみません、遅れました!」

バタバタっと入ってきたその人に全員の注目が集まる。この空間の中で一際目立つのは制服にパーカーを着ているからか、はたまた赤みのかかった髪色だからか…。

「そろそろいい頃合だな。入っている情報ではB1の龍王戦が開かれているらしい、行くぞ。」

敬人が立ち上がり、周りの生徒会の人達も立ち上がる。お前も来いと言われ敬人の後ろを歩く。

「衣更、こいつは転科生の結城凛華だ。こいつは英智に生徒会の仕事を頼まれている。同じ学年の奴がいた方がおまえも気楽だろう?」

敬人は歩きながら私のことを紹介する。最後のはどっちに向かって言ったのか、恐らく私になのだろうが、話の流れ的に彼に言っている様にも見える。

「俺は衣更真緒、2年B組で生徒会では会計だ。よろしくな〜。」

「よろしく、衣更くん。」

前髪を上げているのが特徴的な衣更くんは下がり眉になって笑う。なんとなく誰かに似ている気がすると思ったけれど誰かがまるで思い出せないから考えるのをやめた。


龍王戦とやらが開かれているらしいステージ近辺に着くと既に指示されていたのだろう、生徒会の人たちはバラバラに動き始める。私はどうしようかととりあえず衣更くんの近くにいることにする。

「はしゃぎすぎだよ家畜ども。こんなに騒いでさ〜、ボクたちに気づかれないとでも思った?」

「全員、静粛に!生徒会執行部である!」

これはまた派手な登場の仕方をするんだなぁ。なんて場違いなことを思いながらこれが去年、英智の言っていた生徒会……。否、学院の現状なのだと理解した。

「あ、明星くんたちだ。」

「は?…あ。」

「ん?衣更くんは明星くんたちと知り合いなの?」

「知り合いっつーか……。」

「行ってくれば?」

「……え?」

「私はただの生徒会の事務仕事の手伝いしか頼まれてないし、他の事には口出ししないよ。」

「……悪い、ちょっと行ってくる。」

「いってらっしゃい。」

衣更くんを送り出して考える。今ここで明星くんたちが捕まっても、観客でしかない彼らは敬人のお説教程度で事は済む筈だ。その長さまでは保証できないが。衣更くんがわざわざ助けに行ったということは同じユニットとかだろうか。それ以外でこの学院で生徒会に逆らってまで人を助ける理由はない。悪の権化とされる生徒会メンバーなのに反逆者たちに加担するんだ……?
それはそれで楽しそうだと思いつつ、敬人に教室に戻ることだけを伝えて明星くんたちが無事に午後の授業を受けれることを願った。

午後の授業には転校生ちゃんと氷鷹くんだけがいなかった。


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