桜花


「外行けば良かった。」

お昼休み。昼食を食べ終え、午後の移動教室のために渡り廊下を進む。Trickstarの革命が終わり、平和な夢ノ咲学院となったものの、なんとなく、居心地が悪い。

「外であるか?」
「暖かいから、さ。」

クラスメイトの颯馬は唯一、転科生である私を気にかけては話しかけてくる。ついさっきまで一緒にお昼ご飯を食べていたし、今もこうして並んで歩いている。敬人の言いつけなら無視していいのに。

「ここ数日急に気温が上がってはいるが、まだ肌寒かろう。」

颯馬とよく一緒にいるアドニスもさっきまでは一緒にいた。お昼ご飯が足りなかったと購買にパンを追加で買いに行ったのだ。先に行って良いという言葉を残して行ったからこうして二人で歩いているのだ。

「……桜見ようって意味なんだけど?」
「……!?すまない、我はそういうことを察することができず……。切腹を持ってお詫びする!!」
「腹切らなくていいから一緒に外通ろうよ。遠回りにはなるけど、時間はあるよね?」

夢ノ咲学院は桜の木の本数が多い。一面に広がる桜は去年も見たはずなのに、今年はやけに綺麗に見える。

「うむ、午後の授業まではまだある筈である。」
「行こう、颯馬。」
「あぁ!」


*


「Trickstarのみんなはこれよりもすごい数の桜の下でパフォーマンスするんだよね。」
「学院の桜は比ではないだろうな。」

桜フェスの会場ってどこだっけ。見に行こうかな、どうせやることももうないのだから。

「…羨ましい。」
「羨ましい、であるか?」

うっかり口から出てしまった言葉を颯馬に拾われてしまう。どう言えば誤魔化せるだろう。

「Trickstarは桜にも祝福されるんだよ。きっと素敵なステージになる。」
「……凛華殿は――」
「颯馬、付き合ってくれてありがとね。桜見れて良かった。」
「……凛華殿が喜んでくれて桜も本望であろう。」
「そっか…。うん、じゃあこれ以上ないくらいこの桜を目に焼き付けるよ。」

颯馬はきっと私が誤魔化そうとしたと気付いている。それでも話を蒸し返そうとしないのだから優しい。私はこの優しい友人にいつまで嘘をつけばいいのだろう。


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