同中よしみの他人事


始業のベルが鳴るギリギリに教室に入り、授業が終わった瞬間に教室を出た私に死角はない。鳴り止まないスマホはいっそ気の所為として、野崎のクラスに逃げ込んだ。若松が野崎のこと大好きなため、ここも安心とは言い難いが、私を探し回る過程で人に頼るという頭を持ち合わせていないことを願うだけだ。


「本当に来たんですか。」

「来るよ!」

「会うまで探しそうですけど。」

「現実は見ない主義なの。」


自分のスマホを野崎の机に置いて画面を見せれば永遠に着信が着ている。当然音量はゼロにしている。野崎は一瞬だけ視線を私のスマホに向けて、まるで見てなんかいないかのように私に視線が戻った。


「そういえば、堀先輩が瀬名さんに背景を教わりたいと言ってましたよ。」

「背景?別にいいけど…堀くんに部活ない日聞いといて。」

「自分で聞いたらどうですか、同じクラスなんでしょう?」

「あ、そっか。忘れてた。…うん、後で聞いてみるよ。」


今まで堀くんと関わりなんてほぼなかったから不思議な感じだ。私から声かけるのか。


「背景といえばさ、これからは野崎の家で全部やってっていい?学校終わりだと電車とバスの時間合わなくて。」

「深夜に電話が来るよりは俺もその方が有難いです。」

「深夜でも野崎起きてるじゃん。」

「それはそれです。」


野崎にも時間という概念があったか…。私的には学校に行ってるか原稿してるかの違いくらいしかないから時計を見ずに電話していたし、毎回野崎は普通に出てたから深く考えたことがなかった。


「瀬名さんはその隈を何とかしてください。」

「それは今は無理かなぁ。」


そんなに酷いか、とスマホの画面で確認使用としたら着信で光ってるから切ってやった。自分ではよく分らない。これがデフォルトな気がする。


「瀬名さんは…あ。」

「あ?」


何かを言いかけて止まった野崎の視線の先は私を通り越した向こう側だ。恐る恐る振り返ればこちらを見て止まっている奴だ、私の鳴り止まないスマホの原因である若松だ。あ、もう駄目だ。積みだ。


「瀬名先輩!」


飛び込まんとする勢いで突っ込んできた後輩を仕方ないのでいつも通り受け止めてやる。


「なんでマネージャー辞めたんですか!」


これは時間がかかりそうだ、と若干涙目になりつつある後輩を宥めるところから始めようか。どさくさ紛れに逃げようと野崎の制服の裾を引っ張り戻しながら残りの休み時間を逆算した。

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