不在の姫の行方やいかに
野崎は鹿島くんに会ってからというもの、鹿島くんを主役にした王子様の台本を考えられなくなったらしい。今までは想像で王子様を書いていたけれど、鹿島くんを見てしまったらそのイメージが離れなくなったらしい。言いたいことは分かる。私も今書けと言われたら鹿島くんに引っ張られそうだ。
「そういえば鹿島くんに『私と野崎どっちがかわいいですか』ってすっごい神妙な面持ちで聞かれたんだけど何があったの?」
「…鹿島がすまんな。」
「別にいいんだよ、鹿島くんイケメンだから話しかけられる分には。」
「瀬名さんはなんて答えたんですか?」
「2人共かわいい感じではないから、1番かわいいのは御子柴くんって答えた。」
私の答えに堀くんも、野崎も、千代ちゃんも納得したようで、それは仕方ないみたいな空気が流れた。
*
堀くんの演技ずっと観ていたいなぁ。野崎の無茶苦茶な台本でもしっかりと演技する堀くんがプロ過ぎて見とれてしまう。野崎に台本修正の手伝いを頼まれたお陰で演技側に回らないで済んだのだ。
御子柴くんが来てから1層混沌としているが、これは台本通り、なんだよね?即興劇ではなく?野崎は何を書いているんだろう。
3人が演じてる横で、私は野崎が現在進行形で書き直している台本を眺める。ヒロインが御子柴くんのメイドにすり替わってるいるのに野崎は気付いているだろうか。
「ここのセリフこう変えた方がいいんじゃない?」
このままではメイドがまみこになってしまう。そう危惧した私は結局台本作りの手伝いをガッツリとする事になるのだ。
*
「ちなみに鹿島を忘れるために別の人物をモデルにした王子様の話も書いてみたんですけど、見ますか。」
千代ちゃんと御子柴くんが帰ったが、電車の時間の関係で私と、台本について話すため堀くんはまだ野崎の家にいた。
「野崎の周りにそんな奴いんのか?」
「王子を堀先輩、ヒロインのお姫様を瀬名さんのイメージにしてみました。」
「おい」
「私を使うなと何度言えば分かるんだ。」
それでも内容はちょっと気になるから見させもらうことにする。堀くんも気になるようで、2人で台本を覗き込んだ。
「…。」
「これのどこが私たちなの…?」
「お2人の性格のままかと。」
どこがだ。
王子と姫が延々と気持ちのすれ違いをしていて見ていてイライラしてくる。お前気付けよ、と両者にツッコミを入れたいレベルだ。
「野崎には私たちはどう映ってんだ…。」
っていうか物語前から王子は姫の事が好きなのか。こういうのって恋に落ちる瞬間が必要なのでは?
もう読む気を失った私とは対照的に、堀くんは最後まで読むつもりみたいだ。
野崎はなんで私と堀くんで書いたんだろ。
野崎の周りに他にまともな奴はいないのだろうか。
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