ローアングルは禁止です
野崎のアシスタント業を野崎のマンションでやるようになって少し経った頃、野崎は私にセーラー服を差し出して来た。意味が分からないし、野崎の後ろの赤髪くんがドン引きしてる。普通そうだろう。
「君が御子柴くん?千代ちゃんから聞いてるよー!めっちゃイケメンだね!」
「なっ…っ君の美しさだって負けてないよ。」
なるほど、千代ちゃんから聞いた通りだ。あー、かわいい。
話を聞いた時は半信半疑だったけど、こうもキザなセリフで返されるとは。
「別にセーラー服くらい着てもいいけど、千代ちゃんに頼めばいいじゃん。」
「もう断られた後だ。」
「あ、うん。ごめん。いいよ、着るよ、私が悪かった。」
千代ちゃんは好きな人の前でこんなコスプレできないか。そうかそうか。
私には恥じらいという概念が消失してしまっている節があるから着るだけなら別にいくらでも着てやる。
*
着てから後悔した。先に千代ちゃんに頼んだと言った地点で気付くべきだった。千代ちゃんサイズのセーラー服は丈が短過ぎる。何ていうか、そういうお店みたいになってしまう。アングルをちょっと変えればスカートの中を覗けそうな…。自分で考えててアホらしいが、事実そんな感じになってしまっている。
さっさと野崎のとこに行ってやっぱナシにしてもらおう。こんなのをモデルにしたら少女漫画ではなく青年誌だ。
「野崎…これ千代ちゃんサイズだから私には合わないよ。」
少し腕を上げれば容易に腹チラするだろう。もうホント誰得過ぎて辛い。
「…これはこれで使えるかもしれん。」
「…新キャラ?」
「無意識にマミコを誘惑する女先輩。」
「マミコをなの!?鈴木じゃなくて!?」
もう勝手にしろよ、と私は御子柴くんの向かいに座って原稿を広げる。観察は勝手にしてくれ、気にすると恥ずかしい気がしてくるから忘れよう。御子柴くんが目の前でかなり微妙な顔をしているが、その事も気にしない方向でいこうと思う。
*
気付いたら御子柴くんはいなかった。そして代わりに堀くんがいた。そんな熱中してたのか、急に肩が凝った気がする。
「堀くんお疲れ様。」
「お、おう。…聞いてもいいか?」
「え?」
「その格好…」
「うっわ!忘れてた!野崎!バカ!スケッチ終わったなら言え!」
野崎と御子柴くんだけならまだしも、クラスメイトに見られるのは話が違う。堀くんは言いふらしたりはしないだろうけど、そういう問題ではない。野崎の胸ぐらを掴んで感情のままに揺すってやる。
「瀬名さ…ん…スカー、ト…。」
「えっ?あっ!ごめん堀くん!」
スカート丈短いの忘れてた。思いっきり立ち上がって椅子に座る野崎を揺すったために、座っていた堀くんには翻ったスカートの中は見え放題だっただろう。本当に申し訳ない。辛い。
「…瀬名、脚綺麗だな。」
スカートを戻しても、まじまじと見られて、心がしんどい。思わずキャスター付きの椅子に座る野崎を盾にしてしまった。
「え、普通にキモい。」
絶対堀くんの前で脚は出さないようにしようと決意した。そんな機会2度とないだろうけど。
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