お姫様願望はないけれど


「ねぇ鹿島くん。」

「どうしたんですか、美晴先輩?」


野崎家に行ったら堀くんが鹿島くんから贈られたという服一式を押し付けられた。人から貰ったものを横流しするの良くない。


「堀くんに鹿島くんからのこれ渡されたんだけど、どうしたらいいかな?」


堀くんがセンス良いと褒めていただけあって、フルコーデ最高にかわいい。センスのない私には真似出来ないものだ。


「堀ちゃん先輩は愛の前に屈したんですね!?」


鹿島くんは何を言ってるのかな、これ。


「じゃあ早速行きましょう!」


目を輝かせた鹿島くんは何を思いついたのか。私の手から服の入った紙袋ごと奪い取り、私の片手を引いて走り出した。嘘でしょ…。王子に連れられて走っているものだから周りからの視線が刺さる。良くも悪くも。

そして鹿島くんに連れてこられた先は演劇部の部室で、鹿島くん自らここに来るなんて、と部室の看板を思わず二度見した。
そのまま鹿島くんは私を演劇部の部室の端にあるカーテンで仕切られた女子更衣室に押し込んだ。カーテンを引いて、鹿島くんと2人きりの空間が出来上がってしまった。


「さぁ先輩、着替えましょう!」


えー、と言う間もなく、鹿島くんに制服を脱がされた。野崎のセーラー服なんかより余程いいから普通に着てと言われたら着替えるのに。着替えさせられるのは死ぬほど恥ずかしい。しかも着替えさせてるのがこのイケメンである。もうお嫁に行けない。



*



「堀ちゃん先輩見て見て〜!」


着せ替えられた私は鹿島くんに導かれるままに大道具の作業中だった堀くんのところまで連れていかれた。


「鹿島お前何し…。」


こちらを振り返った堀くんはピタリと動きを止めた。
なんでお前がいるんだよ、というところだろう。分かる、分かるよ?私も思うもん。


「鹿島くんその美少女ダレー?」

「堀ちゃん先輩の彼女ですよ〜!」


いや、違うから。
いつものメンバーの前では出るツッコミも演劇部というアウェイではそう出るものでは無い。ホームの堀くんお願い代わりにツッコんで。


「…鹿島チョイスの服だよな?」

「堀くんが昨日押し付けてきた服です。」

「瀬名だよな?」

「瀬名美晴です。」

「…足綺麗だな。」

「気持ち悪いです。」


またこの落ちかと鹿島くんの背後に隠れる。
鹿島くんは何をどう勘違いしたのか堀くんとの臨戦態勢に入った。何故だ。
そしてそんな間に、演劇部の人たちが私をそっと帰らせてくれた。
みんないい人たちだった。

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