09
「ラクハール」
狼がその視界に不死鳥を捉えた。
俺は振りかないまま、その姿を見て短くため息をつく。
「不死鳥……貴方と争うつもりはありません。ですが、部下の前で姿を見せられた場合は俺にも立場というものがあります」
「分かってる。お前に迷惑はかけねぇよい」
「……それでは」
背を向けて立ち去ろうとした俺の手首を、不死鳥が掴んで引きとめた。
「待てよい」
「俺、これから出航の準備にあたらなければならないのですが」
「お前のことが好きだよい」
「……はい?」
狼まで首をかしげた。いや、シンクロしすぎだ。
窘めるように狼を足で押しのけ、聞こえなかったふりをしてその場を立ち去ろうとしたが、いかんせん右手が掴まれているためそれも出来ない。
「恋愛感情でしょうか」
「ああ」
「それで、俺にどうしろと」
「は……?あ、いや……」
何だか面倒だな。
彼は何を望み、俺にどうしろというのか。
海賊になれとでもいうのか?
呆れるように小さく首を振る。
俺は狼を抱えて、蜃気楼に姿を変えて惑った。
元いた所でなにか叫んでいるようだったが、気にせず街へとそっと降りる。
狼が実態しているかを確認し、軍艦に足を向けた。
その途中、副官が走ってくるのが見えた。
「アルディア中将!お疲れ様です」
「こんにちは、休暇はどうでしたか?」
「はい、大分息抜き出来ました!あの、中将……それは?」
「森で拾ったんです。なつかれてしまったので」
「そう、ですか」
副官は不思議そうな顔をしているが、まあ、それもそうだろう。
「大丈夫ですよ、噛みませんし。不思議と食事も必要ないようなので」
「へえ……ま、グランドラインですからね」
そう、たいていこの言葉で片付けられるのだ。
便利な言葉だ。
「名前、何て言うんですか?」
「えっ、あー……シラヌイです」
「シラヌイですかー」
副官はしゃがみこんでシラヌイを撫でた。
「あと2時間もすれば、全て船員がそろう予定です。各班、人数を確認し、報告を終え次第、持ち場待機となっております」
「はい、各班長には、会議室に集まるように連絡してください。あー、それと、人数を確認次第、俺の判断を仰がなくていいので船を動かしてください」
「了解しました。中将はどこへ?」
「甲板にいるつもりですが、移動するかもしれないのでシラヌイを連れてください」
「はい、了解しました」
「それでは」
シラヌイを撫でて俺は甲板に上った。
軍艦に戻っていた何人かの海兵たちが、既に持ち場で出向の準備を整えていた。
「中将!お疲れ様です!」
「お疲れ様です。まだ出航には時間がありますから、待機で構いませんよ」
「はい!ありがとうございます!」
元気良く敬礼した海兵に微笑む。
艦体の損傷具合を見て補修されているのが分かった。
おそらく、この島の駐屯所の船大工が直してくれたのだろう。
メインマストも当然ながら張り替えられていた。
俺の血が付いたマストは当然ながらすぐに予備の物に換えられたが、あれは果たして落ちるのだろうか。
落ちなかったら……俺の自腹か?
いや、経費だろうな。そうに違いない。
「中将、航海士官が先ほど航路のことで話があると」
「はい、分かりました」
航路か……どうするか。
出来れば火拳がどこにいるのかを知りたいが。
操舵室へ向かう途中、電伝虫が鳴りだした。
足を止めないまま電伝虫を取り、操舵室に入った。
「中将」
片手をあげることで応える。
『アルディア中将。こちら海軍本部です』
「はい。お疲れ様です」
『お疲れ様です。一週間後、マリージョアにて会議がありますので、その警備任務が出ています。なるべく早く海軍本部に戻るようにお願いします』
「はい、了解しました」
『それでは。ご武運をお祈りします、アルディア中将』
眠りはじめた電伝虫をしまい、航海士に頷く。
「そのようにお願いします」
「了解しました。天候によって航路を少々変えたいのですが」
「構いません。一週間とは言われましたが安全第一で」
「はっ」
操舵室を出て壁に背を預けた。
さて、海軍本部に寄ってからマリージョアか。
ここから最速で3日……天気が悪いようだから、4日はかかるかもしれない。
だとすると、自由に動ける時間はそう多くない。
シラヌイの出番だな。
見聞色で周囲の人の動きを監視しながら、シラヌイを使い、カゲロウで鳥へと姿を変える。
よし、これならいける。
蜃気楼を消して、甲板に戻った。
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