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あの後、会議は滞りなく進んだ。
さて、ここからが問題だ。
他の中将たちや元帥、大将殿に挨拶を済ませ、早々に人気のない所へと姿を消す。
シラヌイは副官と共に行かせた。
「よかった。おいで」
窓際にいる小鳥を呼び寄せて、指に乗せた。
割と動物に好かれやすい体質なのか、こういう場面で鳥などに逃げられた記憶があまりない。
蜃気楼で小鳥を増やし、本物の小鳥を逃がした。
七武海、そして中将、大将殿につかせて火拳の情報を集める。
シラヌイを削ったおかげで、全員に小鳥をつかせることが可能になった。
しかしやはり、相当な疲労を受けて窓枠に手をついた。
「くっそ……」
悔しい。
ただの小鳥だけで、こんなにも。
「フッフッフッ、随分疲れてるみたいじゃねえか?」
ドンキホーテ・ドフラミンゴか……。
しまった。
一番厄介な奴に見つかった。
「能力者じゃないんじゃ無かったか?」
「……内密に、お願いしたい」
鳥を飛び立たせ、壁際に凭れた。
「アルディア・ラクハール中将。フフフフフ、お前の話はよく聞こえてくるぜ」
ドンキホーテ・ドフラミンゴは俺を逃がさないとでもいうかのように、背後の壁に手をつき威圧してきた。
まったく、背が高いのもあって、圧迫感は相当なものだ。
「海賊を殺さない、“逃げた中将”ってな」
「殺さぬことも強さです」
まるでアサギの遺志を馬鹿にされたみたいで俺は思わず噛みついたが、相手は俺の感触を見ただけなのだと、口角をあげたその表情を見て察した。
そうだアサギを知る人間はもう海軍にはいないのだから。
「フッフッフッ、だがお前が海賊を殺さなくなったのは、ある事件が起こってからだろう?」
まさ、か……いや、そんなはずは……。
「当時、准将だったアルディア・ラクハールと交友関係にあった、アサギ准将」
「なんで……どうしてお前がそれを知っている!!」
アサギの生前に交流が?
いや、だとしても忘れているはずだ。
あいつはこの世界の人間ではないのだから。
「フッフッフッ、そう警戒するな。アサギのことは思い出したんだよ」
「アサギと……生前に交流があったと?」
俺がぐっと見上げれば、ドンキホーテ・ドフラミンゴは頷き上着のポケットからメモ書きのようなものを取り出した。
「アサギからだ」
渡されたメモを開けば、走り書きと思われるが確かにアサギの特徴的な筆跡で。
『俺が、もし死んだら。ラクハールに協力してほしい』
俺の綴り、間違ってるけどな。
でも、確かに、アサギの字だ。
「なぜ、あんたに……?」
「ドレスローザに俺を迎えに来た軍艦に乗ってたのが、アサギだ。俺は……詳しくはいわねェが、多少なりとアサギに恩がある。だからお前を死なせるわけにはいかねェ。分かるな?」
なぜ、どうして、なぜ。
疑問符ばかりが俺の思考を覆い、やがて止めた。
身体の疲労に加えて、あまり頭が働かない。
「俺は、アサギの遺志を継ぐ。それによって、例え俺が死んでも」
口を開きかけたドンキホーテ・ドフラミンゴに先手を打ち、俺はつづけた。
「俺を守ってほしいとアサギに言われたわけじゃないだろう。ただ協力しろと。それも強制ではない」
「俺が海賊だから信用ならねぇっていいたいのか?」
「俺は……海賊を悪だと思ったことはない。だが、私怨としては、何者にも負けないほどの憎悪を持っている。ドンキホーテ・ドフラミンゴ、お前みたいな海賊が一番嫌いだ」
「フッフッフッ、言ってくれるじゃねぇか」
ドンキホーテ・ドフラミンゴは、ぐい、と俺の顔を横に向けさせると、海軍を示す青いマフラーを取り去った。
それはまるで、揺らぐ俺の心を表しているようで。
曝された首を、長い舌がなぞり舐めとった。
「なぜ抵抗しねぇ」
涙が落ちた。
「それでも……いくら嫌いでも、憎んでても……あいつが信用した人を、俺が、信用しないわけにはいかない」
遺志を継ぐとはそういうこと。
戦争を止めるためならば。
本来なら、いまこの場で切り捨ててしまいたいほどの憎悪を、嫌悪を、心の底に沈めている。
「バカみたいに真っすぐな奴だな……」
虚をつかれたように漏らしたドンキホーテ・ドフラミンゴは、マフラーを拾い上げると乱暴に俺に掛けた。
「アサギは神様じゃねぇぞ。死んだからって聖人になるわけでもねぇ。勝手にお前の中で神格化されたとしても、奴にとっちゃ迷惑な話だ」
流れ落ちた涙を救って、動かない俺の代わりにマフラーを綺麗に巻きなおした。
神格化……していたわけでは、ないと思う。
けれどそれほどまでにアサギの遺志は俺の中で大きくなり、食いつぶす勢いだというのは、何となくわかる。
それを、かつてあれほどまでに平和と人を愛していたあいつが、望まないことも分かっている。
「ましてその結果、周囲が見えてねぇなんてなァ」
説教に続いて何の話だという顔をしていたのだろうか、俺を見てドンキホーテ・ドフラミンゴはにやりと口角をあげた。
「フフフフ、アサギを覚えているのは、俺だけじゃねェだろうってことだよ」
「まさか」
「俺の部下が海軍にいる。そいつにアサギの資料を調べさせたが、何一つ残ってはいなかった」
「何一つ?同期生の名簿には載っているはずだし、それに俺とアサギが少将にあがったときの就任式の写真があるはずだ」
「それがねぇんだよ」
ない?
いや、そんなはずは……。
「あいつは1099期生だ、俺と同期だから覚えている」
「もちろん99期生が載っている書架は全て調べさせたが、アサギとそれに関連する物が意図的に抜かれていた」
「何故そんなことを……?」
「フッフッフッ、大方お前が気付くのを待ってんだろうが。アサギを覚えている奴にしてみれば、文献がないのは異常だからな」
「……俺が」
「戦争を止めるんなら手駒は多い方がいい。俺は俺で動くが何かあったら連絡しろ」
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