13
俺は資料室にいた。
アサギの資料は、あの男の言うとり、一つも見当たらなかった。
「すみません、探してほしいものが――」
俺は言いかけて止まった。
顔をあげた管理者は、かつて見た事のある。
「アサギのとこの……?」
「ラーク中将!ご記憶が、アサギ准将のご記憶があるんですね!?」
「あ、あぁ、お前、アサギの部下か」
「はい、この日を待ち望んでいました……アサギ准将に関する物は、全て別のところに保管してあります」
アサギの部下は、目に涙を浮かべながら、それはそれは嬉しそうに言った。
そうか、と返せば頷き、真面目な顔で声をひそめた。
「アサギ准将の遺志を継ぐつもりです」
まるで合言葉のように呟く。
「ああ、俺もだよ」
部下はまた、にっこり笑って頷いた。
「ラーク中将ならそういうだろうと思ってました。時間のあいたとき、ここへ行ってください。合言葉はアサギ准将、です」
渡された紙をそっと開けば、住所が書かれていた。
「それと、電伝虫での連絡は盗聴の可能性があるので」
「ああ、分かってる」
紙をしまい、その場を後にした。
まさか本当にいるとは思わなかった。
しかし、本部からの出航日はそう遠くない。
近いうちに行かなければならないだろう。
二日後、俺はそこへ行った。
民家のようだが。
一先ずノックする。
「合言葉を」
微かに聞きとれるかどうかという声でささやかれた。
「アサギ准将」
「自然に入ってきてください」
扉の鍵が開く音がして、中から男が笑顔で現れた。
「やあ、久しぶり。今日は少し寒いな、さあ、入ってくれよ」
「ああ、ありがとう」
内装は普通の民家と言って差し支えないようだ。
出迎えた男は扉を閉めると、敬礼をした。
「ラーク中将、お待ちしておりました。こちらへ」
先ほどまでの態度とは全く違い、海軍の規律を模範としたような動きで男はカーペットをめくった。
地下?
男の後を追い、階段を下りれば、後ろで戸が閉まる音がした。
「上には常時2人以上の見張りがいます」
男はそう言って俺を振り返った。
「ラーク中将!本当に、本当にお待ちしておりました!!」
笑顔の男に少しおどろき、ふと彼の後ろに目をやれば、かつての面々が並んでいた。
懐かしい顔ぶれだ。みな若い。
「お前たちは……」
「はい!アサギ准将直属、第一隊ならびに第二隊、全員揃っております!」
「そうか……そうか」
あいつを覚えているのは、俺だけじゃなかった。
あいつは誰からも忘れられたわけではない。
戒められていた心が、やっと解かれたような気分だった。
そうか、良かった。
こんなにも多くのものに、お前は覚えられている。
忘れてなどいない。
お前の遺志は、俺達が継ぐ。
「ラーク中将、俺達は戦争を止めます。それが――」
「それが、アサギの遺志だな」
「安心しました。これより総指揮は中将にお任せしたいのですが」
「俺が?」
「はい、貴方が一番、アサギ准将に近い人間です」
彼らを見渡せば、各々微笑んで頷いた。
アサギに近い?
ただ惰性でつるんでいるだけだった俺が……俺が、指揮を取るのか。
いや、惰性なんかじゃない。
俺達は確かに友人だった。
少なくとも彼はそう思っていただろうし、俺も今さらながらに思いかえす。
「お願いできますか」
「ああ、分かった。戦争を、止めよう」
「よかった。俺達、ずっと話してたんですよ、ラーク中将が記憶を取り戻したらいいのになって」
「そうっすよ、だから今日は一緒に飲みましょうよ!ここなら騒いでもばれねェっすから!」
「詳しい話はまた後日ってことで!」
誰が口を開かずともここにいる全員が分かっていた。
この酒が誰の鎮魂に向けられたものなのかを。
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