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クロコダイルをインペルダウンまで護送し、経理にもっと備品を丁寧に扱うように叱られた。
そんな中、G−2支部に海軍極秘情報船が帰港するらしい、という情報を得た。
……ドフラミンゴからだが。
ここで嘘の情報をもたらしたとしても、ドフラミンゴ側には一切利益が無いので信憑性は高いが、問題なのは何故海軍よりも早くあいつが情報を握っているのかという話だ。
「お疲れですね、大丈夫ですか?」
心配そうにスティングが俺のデスクにコーヒーを置いてくれる。
本部にいるときは、作戦のこともあるため、なるべくスティングと共にいることにしていた。
「ああ、ありがとう」
「例の件ですか」
本部に着いてすぐにもたらされた情報は、その日のうちに全員に伝えたが、残念ながらG−2支部には誰ひとり俺達の仲間はいなかった。
「ドフラミンゴのパイプは一体どこへつながっているんだ……」
「今回の件もありますし、おそらく海軍にももぐりこんでいるのでしょう。ですが、いまはドフラミンゴなど捨て置くべきです」
「そうだな」
スティングのコーヒーは苦い。香りはいいが、俺は好きじゃなかった。
そんな様子を見てか、スティングはくすくすと笑った。
「ラーク中将は甘党ですか?」
「……いや、特別苦い」
俺は普段ならブラック派だ。
そっと差し出されたミルクと砂糖を入れて、少しだけ失われた香りを残念に思いながら口に含んだ。
「G−2のコーヒーも苦いと聞くな…」
昔コーミル中将が酷く嘆いていた。
ミルクでも入れればいいのに体裁が気になるのだろうか。
「俺が参りましょうか」
「いや、いい。動いていたいんだ」
スティングは元々そのつもりはなかったのか、惜しむ様子もなく微笑んで頷いた。
「一つ、予言をしましょう」
唐突な言葉に、俺は顔をあげて彼を見た。
指を一本立てて、悪戯っぽく笑う。
「G−2のコーヒーを飲んで、貴方は噴き出すでしょう」
「それ、予言でも何でもないから」
「ドフラミンゴのことは忘れられましたか?」
「今お前がその名前を出すまではな。だがまあ、楽になったよ。ありがとう、スティング」
「いえ、お気になさらず。それよりも食堂でピアノでも触ってきたらどうです?昔はよく弾いていたじゃないですか」
「アサギが無理やり弾かせてたんだよ」
「みんな喜ぶと思いますよ」
俺はスティングの笑顔に応えるように微笑んで、長刀を持って立ち上がった。
「出航準備を進めるように伝えてくれ。準備が整い次第G−2に向かう」
「それまでは?」
「食堂でも行くよ」
「あーあ、俺も聞きたかったですよ。まあ、いいです。それでは後ほど」
スティングが先に部屋を去り、俺も後を追うように部屋を出た。
彼は俺の軍艦の方へ走っていったようだった。
本部の仕事もあるだろうに、俺の話し相手までさせるのは何とも心苦しい。
食堂へ向かいつつ、ふと窓の外に目をやった。天気が良い。
空と海が、一つの青となっている。
まるで、この世が青に溺れているみたいだ。
「アルディア中将」
「どうかしましたか?」
思わず立ち止まって見ていた窓から目を反らして、声をかけてきた副官に応える。
彼は一瞬眉を寄せ、俯くように視線を下げた。
「いえ……最近、いつもと様子が違うように感じましたので」
「大丈夫ですよ。少し疲れていただけです」
「そうですか」
「俺は食堂にいます。貴方も少し休んだ方がいいですよ」
ぐっと手を握って何かをこらえるように地面を睨みつける副官の肩を叩いて、力を抜くように促した。
彼は、一体何を考え、何に追い詰められているのだろうか。
思案しながら、彼に背を向けて食堂へ向かう。
「スティング少佐は!」
聞きなれた名前に、ゆっくりと振り向いた。
「彼は危険です!」
俺は笑って首を振った。
「彼は仲間ですよ」
「……分かっています。ですが」
「仲間割れはいけません」
俺は今度こそ背を向けてそう言った。俺が背を向ける瞬間、副官はショックを受けたような顔をしていた。
仲間を疑うことは辛いことだ。その苦しみをはらみながら、彼は俺に知らせてくれた。本来なら、慰め、真摯に受け止めてやりたい。
だが、こればかりはそうもいかないのだ。
「アルディア中将!!」
彼の声を無視できる程度には、俺も作戦のために人の心を捨てていた。
全ては、アサギの遺志を継ぐためだ。
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