21
G−2へ向かう軍艦の中、俺はベッドに横たわりながら、うっすらと瞼をあげて天井を見た。
ああ、闇の正体が分かった。
忘れていた。
シラヌイやシラヌイで作った小鳥たちは、全て俺の分身と行っても過言ではない。肉体の代わりに思考を分化して作ったのだから。
分化するとき、俺は思考の中でも、一番簡単に切り捨ててしまえるものを選んでしまった。そしてそれは、同時に人として一番大切なものであった。
俺は、心を切り売りしていたのだ。
会いたい。
青い光の彼に。
彼の代わりのように、マフラーを抱き寄せる。
これが恋情だとでもいうのなら、それでも構わなかった。
かつて分からないと彼に押し返したはずのそれを、今さら俺が拾い上げている。
どうしても、彼に会いたい。
心が欲しい。
彼に会えたなら、俺の欠けた心も満たされるような気がする。そこまで考えて、俺は自己嫌悪に浸った。
利己的だ。
あまりにも利己的だ。
「中将!敵襲です!奇襲に遭いました!!」
「はい、行きます」
若い海兵の声に応えて、すぐに長刀を握った。
甲板に出ると、既に戦闘が始まってしまっていた。
「陣を崩すな!一端前線を下げて体勢を立て直せ!」
鞘を払って戦闘の状況を見極めるために周囲を見渡した。
副官が前線に立って少しずつ体勢を整えながら下がってきている。
「よし」
敵船長を確認できない。
おおよそ、逆恨みで奇襲をかけたのだろう。こういった事はよくある。
俺はその場から飛び降りて前線に加勢した。死なぬ殺さぬを主軸とした動きで、陣がすぐに再生される。
みねうちで伸して行きながら副官と視線を合わせ、頷く。
俺が来たことで士気の上がった海兵たちを、副官が率いて前線を押し上げた。
十分に戦ったようだから、俺は刀を一振りして周りにいた海賊たちを一気に伸してしまった。
この程度の海賊であれば中将一人で一分とかからないだろう。
しかしそれでは海兵たちがいつまでも育たない。
「武器を捨て投降しろ!」
シラヌイが持ってきた鞘に刀を収める。
「ラーク中将!」
部下の声に、後ろに敵を確認して鞘に刀を収めたまま振るう。
はずだった。
後ろから斬りつけられた青年海賊が、驚いた表情のままこと切れ、鮮血を散らしながら倒れた。
両断する勢いで斬りつけたのか、血の雨が甲板を濡らす。
しんと静まった甲板で、俺は正面に副官を見た。
「中将、お怪我はありませんか」
彼の姿は血に濡れ、いっそ泣いているようでもあった。
目の前に倒れる青年は、既に死んでいる。
「申し訳ありません。G−2で船を降りますね」
「その必要はないですよ。よくやってくれました」
贖罪のように、利己的な言葉を捧げた。
「貴方が辞めたいというのであれば止めませんが、残っていて下さると、俺も安心して背中を預けられます」
「他に示しが付きませんよ」
「貴方は副官です。少しくらいのわがままを通せる立場ですよ」
副官は小さく頷いて、血濡れの刀を収めた。
「中将は、変わりませんね。安心しました」
それだけをつぶやくように残して、副官は艦内に去っていった。
彼は孤独だったのだろうか。
いつの間にか、俺の仲間だけになってしまった周囲を見て、短く息をつく。
「ラーク中将、大丈夫っすか」
「ああ…彼のことは責めないでやってくれ」
「分かっています」
「この青年は海に。甲板の掃除を出来るだけ早く頼む」
「はい」
今回の異動で俺の仲間以外の部下は15人程度になってしまった。
仲間たちは関係なく仲良くしているようではあるが、少し心配である。
今は副官に掛ける言葉も持ち合わせておらず、シラヌイだけ彼の元へ向かわせて自室へ戻ることにした。
「彼は危険ではありませんか」
俺の私室の前に、仲間の一人が壁にもたれながら立っていた。
いつか聞いたようなセリフだ。一体どこで聞いたのだったか。
ああ、そうだ。彼が言っていた。スティング少佐は危険だと。
全くもってその通りだ。
「危険なのは、我々の方だよ」
部下は少し考え、やがて、それもそうですね、と納得した様子で去っていった。
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