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「あなたは、バカですか!」

会議が終わり次々と出て行こうとした中で、ポートガス・D・エースを、手伝ってほしいことがあるのだと言って引きとめた。
副官を含む全員がいなくなって、十分に離れたことを確認してから彼を壁に叩きつけた。

「お、おいおい!落ちつけ!」
「バレるに決まってるでしょう!何故そんな恰好で……!いや、良くばれませんでしたね!?」
「俺もびっくりだ。つーか、お前、俺のこと分かってるのに言わなかったんだな」
「……貴方が海軍に捕まると不都合があるのですよ」

俺は重ね重ね取り乱したことを反省しながら彼を放した。
乱雑に結ばれたタイをきちんと結び直し、よれているスーツもピッと伸ばして軽く叩いた。

「火拳、貴方の目的は?」
「俺は黒ひげを追ってる。あ、あと届けもんだ」

すんなりと俺に目的をしゃべる火拳にも少し頭を痛める。
どいつもこいつも……!
コーミルさんといい、火拳といい、もっと警戒心を持ってほしい。こんなんで大丈夫なのか、白ひげ海賊団は。

「届けもの、ですか?」
「おう、モーダっていう俺の命の恩人から手紙を頼まれてんだ。ここを出るときにあの中将に渡す」
「そうですか。あの、聞いておいてなんですが、あまりそう易々と情報を渡さないほうがいいと思いますよ」
「ああ、だけどお前は悪いやつじゃねぇだろ?」

俺は、思わず笑った。

「海賊である貴方を見逃すのですから、悪いやつですよ」
「そうだな」

太陽みたいに笑う彼は、とても温かい人だと思った。
彼が引き金なのだ。
アサギの言葉から察するに、彼は死ぬのだろう。このまま、戦争が起こったとして、俺達が何もせずにいたなら。
黒ひげを追うのを、やめていただけませんか。そう言いかけて、やはりやめた。
俺が言って止まる男なら、白ひげがとめているだろう。

「貴方を思う人が多くいます。貴方はその人たちの制止を振り切って、いまここにいるのです」

俺の言葉に首をかしげて、不思議そうな顔をする。

「だから、死なないでくださいね」

火拳はそう言った俺をしっかりとみて、嬉しそうに笑った。君は海賊なのに。俺は海軍なのに。どうして彼はそんな顔をするのだろうか。少しだけ涙が出そうで、彼の笑顔を見ていられなかった。

「ありがとな」

俺がせっかく結んだタイを緩めて、火拳はくしゃりと俺の頭を撫でた。
おい、いくら身長が低くても俺はお前より年上だぞ。

「アンタ、いい奴じゃねぇけど、やっぱ悪いやつじゃねぇよ」

ストレートに言葉を投げつける火拳のむずがゆさに、マフラーを口元まで引き上げて小さく頷いた。

「そう、ですか」

ふと、外の騒がしさに顔をあげた。
海兵のどたばたと騒々しい足音が廊下に響き渡っている。

「なんだ?」
「行きましょう。将校クラスの人間がいないとなると少しまずい」
「分かった」

廊下に出ると、酷く焦った様子の海兵が俺達の姿を捉えて駆け寄ってきた。

「アルディア中将!ご、極秘船が!」

極秘船?着艦は明日のはずでは……。

「落ち着いてください、一体なにが?」
「は、はい!予定より早く寄港した極秘船が海賊に放火され!現在消火活動を行っておりますが、油をまかれたのか火の勢いがおさまりません!!」
「なんだと!おいアンタ、俺は行く!いいな?」
「いたしかたありません。行ってください」

黒ひげの情報が燃えるのは、彼にとってまずい。ほかの極秘情報も含め、こちらとしても困る。
火拳は俺に頷き、窓から飛び出ていった。
せめて窓開けてから行ってほしかった。
飛んできたガラスを受け止めて、地面に散らばったガラスの中に落とした。

「船の中には?」
「極秘情報と船員が何人か取り残されております!」

小さくため息をついてシラヌイを先遣する。

「俺も現場に向かいますが、屋内の警備がその分薄くなると思いますので、何人かは各所に配置するように伝えてください」
「はっ!」

敬礼をして走り去った海兵の背を短く見送り、俺は正面口から出た。
ひどい状況だ。
極秘船の周囲に小舟を出して、そこから海兵たちが海水での消火にあたっているが、効率が悪すぎる。
極秘船に近づくために寄せられた軍艦に飛び乗り、動揺した様子のコーミルさんに声をかけた。

「アルディアくん!た、大変なんだ!今あの中に一人飛び込んでいったやつが――!!」
「……出てきましたよ」




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