03
熱い……身体が、熱い。
「中将、お目覚めになられましたか」
軍医が俺の額の上のタオルを変えてくれたのが、薄ぼんやりと見えた。
「全く無茶なことをなさるお方だ。軍艦の砲撃を、覇気も纏わず受け止められるのはガープ中将ぐらいのものですよ」
「……全くですね、返す言葉も見つかりません」
俺が苦笑したのを見て、軍医も苦笑した。
ぐっと身を起こせば、軍医はあまりいい顔をしなかった。
「失礼します。軍医殿、少し席を外していただけますか」
「怪我人に無茶させるんじゃないよ」
「はい」
軍医が出て行き、部屋に入ってきたのは副官と、若い海兵だった。
しかし副官はすぐに出て行き、残ったのは俺と若い海兵だけだ。
「あの、中将……俺」
「ああ、砲撃はあなたでしたか。いえ、構いませんよ」
気まずそうに口を開いた海兵に微笑み、罪に問う事はしないと伝える。
青年は、戸惑うように俺を見た。
「どうして……どうして白ひげを、戦いもせずに見逃したんですか」
「海軍本部はいま白ひげと事を構えるつもりはありません」
「っ、そんなこと言ったって!海軍の軍艦と見れば、白ひげ海賊団は襲っています!それを……」
「それは海軍側に戦闘の意志があったからでしょう。話の通じない海賊ではありませんから」
納得いきません、と若い海兵は押し殺すように呟いた。
「俺が、もし白ひげよりも強く、この軍艦を守りつつ敵船を壊滅させるだけの力を持っていたなら、あるいは、白ひげを殺せずとも、この船に乗っているもの全てを守れる力があったなら戦っていました。それだけの話です」
青年は少しの間反芻するように考え、首を振った。
「自分は、死など怖くありません。他の方もそうだと思います。正義に命を賭しているはずです。例え、負けるとしても、戦うべきだと思いました」
「俺は――」
言いかけた言葉を飲み込み、違うものにすりかえる。
命の価値が分からない、だなんて、彼を惑わせてしまうだけだ。
「俺はそれでも、見知った顔が死ぬのは悲しいのだと思います。海賊の一人や二人を殺すために、幾人もの海兵たちが死んで行きます。それで守れた命は、幾つあったでしょうか。俺の考えが気に入らなければ、希望の隊に配属していただけるように手配します。即断せず、しばらく考えてください」
青年の出ていく姿を見ながら思う。
俺は、命の価値が分からない。
海兵の命一つと、海賊の命一つと、何が違うのか分からない。
およそ、同じだけ人を殺してきたのだろうと、それらが面と向かって立ったとき、俺は命の価値を見失った。
どちらも、俺も、ただの人殺しというくくりで間違いない。
命は等価であるのだろうと。
俺は痛む体を横たえた。
正義は、背負うには重すぎる。
けれど、掲げるには、軽すぎるのだ。
数日後、近くの駐屯所に捕えた海賊を引き渡して、次いで青年もそこで下ろした。
青年は、他の隊に移るというわけでもなく、海軍を辞めると言っていた。
俺の言葉が理解できたのだと、青年は悲しそうに、苦しそうに笑った。
『俺は結局、正義に守られた復讐がしたかっただけでした』
彼の名誉のために一つ、彼は、非常に正直であったと言えるだろう。
人に対する悪意も、殺意も、隠すことは無かった。
まるで海賊のように。
- 5 -
*前|次#
戻る