12

結局ラブクラックのバグは使わなかった。
未だにS.H.I.E.L.D.に用意された一室で軟禁状態にある私は何度目か分からないため息をついた。
その度にシンメイさんがビク、と反応するので申し訳ない気持ちはある。
けれど、今日で一週間と2日だ。
てっきり一晩いないって話かと思っていたから初日は相当焦った。
スタークさんとも連絡が取れないし、時折くるロジャースさんも詳細は聞かされていないと首を振っていた。
そろそろスタークインダストリーズにハッキングを仕掛ける頃合いかもしれない。
敵うとは思っていないが、行動を起こさないよりいいだろう。
パソコンを開くと、ラムロウさんがそれを閉じた。

「やめとけ。シンメイ、来い」

ラムロウさんがシンメイさんを連れて部屋を出て行った。
バッキーさんにラムロウさんたちから離れるなと言われた以上、私もついて行った方がいいのだろうかと立ち上がるが、歩き出す前に再び扉が開いた。

「ユイ」
「バッキーさん!」

全身傷だらけで、鋼の左腕も失ったバッキーさんが、足にも傷があるのか壁にもたれながら入ってきた。

「遅くなった」
「な、なんで、そんな、傷……!」

バッキーさんをベッドに座らせて、まともに手当てもされていない傷にどうしたらいいんだと狼狽える。

「大丈夫だから、抱きしめてくれ」

右腕だけで私を引き寄せたバッキーさんを両腕で抱きしめた。
土埃と血の匂い。
いつも嗅いでいるバッキーさんの匂いが薄くて、さらに強く抱きしめた。
死んじゃわなくてよかった。
でも、こんな傷を負って帰ってくるなんて思わなかった。

「スタークさんなの?」
「いや……」
「スタークさんが、バッキーさんに怪我をさせて、左腕も奪ったの?」
「おい、僕を悪者にする気か?」

声に振り返れば、バッキーさんの鋼の腕を持ったスタークさんがいた。
どこか真新しいそれを使って手を振ってみせる。
けろりとした様子からは、バッキーさんをここまで痛めつけた本人だとは思えない。

「ユイ、償いをしてきただけだ。スタークは何も悪くない」
「当たり前だ。それどころか死にかけのそいつを拾って新しい腕を作ってやったんだから感謝してほしいね」
「ああ、すまない」

バッキーさんは苦笑して頷いた。
命の恩人!?
とんでもない勘違いをした。

「ご、ごめんなさい、なんか、バッキーさんがスタークさんに殺されに行ったような気がしてて、すみません、とんでもない勘違いを……」
「殺してやってもよかったが、君に恨まれたら僕もラブクラックされそうだからな」

スタークさんは肩をすくめてこちらに歩いてきた。
バッキーさんを抱きしめっぱなしだったと我に返って慌てて離れる。
スタークさんは腕を放ってバッキーさんの肩の接合部分を見た。

「メンテナンスしてないのか?」

あきれたように金属をいじるスタークさんは二言三言、小言を漏らして鋼の腕をバッキーさんに渡した。

「自分でつけてみろ」

バッキーさんが腕をつかみ肩へ押し付けると、金属の音がしてがっちりとはまった。
握ったり開いたり、肩を回したりして動きを確かめると、バッキーさんはスタークさんに礼を言った。
どちらも少しぎこちない。
わだかまりを解消してきたのだと思ったのだがそうでもないらしい。

「要メンテナンスだな。今週末僕のタワーに来い」
「いや、十分すぎるほどだ。これ以上あんたの世話になるわけには…….」
「別にお前のためじゃない。僕の作ったものが最高のパフォーマンスを発揮できないで壊れるのが嫌なだけだ」

すごいツンデレを見てしまった。
天才エンジニアはツンデレ属性か。
生ツンデレを浴びたバッキーさんは申し訳なさそうな、少しうれしそうな顔で頷いた。
萌えの感情はなさそうだ。
良かった。

「それに、ミス・アマミヤの招待をしていなかったからな」
「ありがとうございます。バッキーさんと同いますね」