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インシデントを問われることなく、口論に発展した。
う、なんか嫌な空気だ。
私だってラブクラックを使うなと言ってやりたいが、重すぎる空気の中で発言する勇気はない。
なんかみんなカッカしてて怖いな。
とりあえず私も母国語でラブクラック使わないって言ったじゃんばか、と罵っておく。
ラブクラックのナノマシンが入っているケースをポケットの中で持て余しながら雑言を聞き流す。
バッキーさんも何だか異常な空気を感じているようで、私を庇い立つように一歩前に出た。

「何かおかしい……」

ロジャースさんを見て呟いたバッキーさんが間に入ろうとした時、部屋の中心あたりが爆発した。
咄嗟に私を庇ってくれたバッキーさんに床へと伏せられる。
驚いてバッキーさんの下で身を縮こませたが、考えてみれば私が庇うべきだった。

「バッキーさん!怪我は!?」
「大丈夫だ。ストライクチーム、ユイを守れ」
「待った!私はどうせ無傷だから守らなくていいよ、それより何が起きてるのか……」
「襲撃……おそらくホークアイだ。……いけるか?」
「いけるよ」
「ストライクチーム、索敵だ。ホークアイを発見次第 俺に連絡を。無線は2番に合わせろ」
「了解」

映画みたいだ、とラムロウさんたちが去っていくのを呑気に見ていればバッキーさんは私の手を引いて立ち上がった。
改めて見てみると床に穴が空いていたり窓ガラスが割れていたりと思ったよりも大惨事だ。

「ロキのところへ向かう」

私は頷いてバッキーさんの後に続いた。
何か大きな衝撃で戦艦自体が何度か大きく揺れたが、外的要因からではないものもある気がする。
艦内で戦闘が起きているのだろう。

『第一エンジン停止』

艦内アナウンスにハッと窓の外を見た。
敵に破壊されたわけでもないのに、止まった?
ってことは、つまり。

「バッキーさんストップ!この船クラッキングされてる!!」

窓越しに第3エンジンでロジャースさんとスタークさんが作業しているのを見て、繋がれた手を引いた。
操舵用の端末がある司令室に行くには遠いが、ちょうど制御室が近い。

「何とかできそうなのか?」
「や、やってみる。スタークさんの構築だったらたぶん無理だけど……」

制御室に入り、サーバーラックからコンソールを開いた。
OSは普通の……うん、制御信号も以前見たものと同じだ。
第一エンジンにリブートの信号を投げるが、おそらくウイルスに阻まれた。

「う、うう、これ作ったやつ頭いいな……」

ウイルスの解析をするべきかこちらから新たにハッキングを開始すべきか悩んで、ふと手元のナノマシンの存在を思い出した。
ラブクラックのナノマシンは、要するに一つ一つがクラッキング媒体に近い。
本来私が開発したものではないが、軍事転用しようとしていた以上、性能は下がっていないだろう。
私はサーバーラックを開いてラブクラックを撒いた。

「ユイ!?」
「大丈夫、ここには私とバッキーさんしかいないし、私とバッキーさんはラブクラックの対象外だから」

サーバーに再びアクセスし、私の残したバグにアクセスした。
こんなタイミングで使うことになるとは。
バグは、正常にというべきか、想定通りの動作をし、ナノマシンは私のコードを受け付ける踏み台に変わった。

「よし!」

ログにCompletedの文字が表示されていることを確認し、制御室から出て窓の外を確認する。
第一エンジンも動き出したようだ。

「よくやったな」

バッキーさんが撫でてくれた。

「ゾラのとこで資料を見といてよかったよ」

バッキーさんは肩を竦め、曖昧に頷く。
そりゃ思い出したくない過去か、不用意だった。
私がごめんねと手を握ると、バッキーさんに無線が入った。

「ホークアイが見つかったらしい」