19


「バッキーさん!!」
「ユイ!?」

バッキーさんの背に声をかければ、ものすごい勢いで振り返った。
首取れたかと思った。
そのままタックルじみた勢いで抱きしめられた。
い、痛くないけどびっくりした!
地面に引き倒され、我が上司殿より数倍がっしりしたマッチョが私の動きを封じにかかる。

「ユイ、ユイ……消えるな……驚いた……」
「うん、ちょっと元職場行って寿退社してきた」
「お前が、消えたら、俺は、死ぬからな」
「こっわ、重すぎじゃん。死なないでよ、消えないから」

もぞもぞとなんとか腕を引き抜いてバッキーさんの頭を抱き締めた。
私は体に満ちるあの石の力を感じながら、けれどそれは宝石箱の中に仕舞い込んでしっかりと蓋をしておく。
はあ、と息を吐き出して、いまだに口の中に残った懐かしいお味噌汁の味に別れを告げて、硝煙の匂いを吸い込んだ。

「好き、大好き、バッキーさん」
「ユイ……」

バッキーさんが私の肩口から顔を上げて、いつかのように私をガン見しながらキスをした。
それ、怖いんだよなぁ。
思わず笑うと、バッキーさんは不思議そうにキスをやめた。

「ユイ?」
「ねえバッキーさん、キスの時は目を閉じてよ」
「目を閉じたら不安になるんだ。我慢してくれ」

そう言ってバッキーさんはもう一度私にキスをした。
リップ音を立てて降ってくる大量のそれがくすぐったくて、少し恥ずかしくて笑い転げる。
バッキーさんはいやらしい雰囲気にしたそうだったけれど、私があまりに笑い転げるものだから諦めたのかごろりと私の横に寝転んだ。
鋼の指先が、私の頬を撫でる。

「ユイ」
「なあにー」
「愛してる。俺は、何年も前の人間だからもう戸籍はないだろうが、結婚してくれ」
「んふふ、私は異世界からの不法滞在者だから戸籍はこの地球上のどこにもないんだけど、それでもよければ、結婚しようか」