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ロジャースさんに呼び出されて半壊したトルコ料理屋にきた。
ちなみに歩いてではなくバッキーさんに抱き上げられたまま来てしまった。
そろそろいい加減にしてほしい。
というか、空気悪っ!
なんなんだこの空気……。

「ああ、バッキー、ユイ、怪我がなさそうでよかった」

出迎えてくれたロジャースさんも心なしか沈黙から逃れられて嬉しそうだ。
コミュ力ないんかこいつら。
もそもそシャワルマを頬張る大人の沈黙にふと割り込んだ。

「あ、そういえばホークアイさん病み上がりですよね?大丈夫でした?」
「ああ、現役復帰だ。ありがとな」
「私からもお礼を言うわ、ありがとう、ユイ」
「とんでもないですー」

何やったのかいまいち分かってないし。
へらりと誤魔化すように笑ってバッキーさんの膝の上に座る。
いや、膝の上なのは私の意思ではなくバッキーさんが離してくれないからだ。
ほら、ロマノフさんに生暖かい目で微笑まれた!!
くっ!なんだこの羞恥プレイは……!

「ところでユイ、四次元キューブはどうした?」

ロジャースさんの問いかけに一瞬言葉が詰まるが、隠したところでな、と正直に話すことにした。
バッキーさん怒るかな。

「食べちゃいました」
「ああ、シャワルマならいくらでも食べてもらっていいんだが、キューブは……」

何か勘違いしているロジャースさんとは対照的に、バッキーさんの顔が急激に青ざめた。

「ユイ!!」
「ごめんなさい!」
「いますぐ吐け!」
「いやもう無理!」
「た、食べたって、四次元キューブをか!?」
「我がアスガルドの至宝を!?」

ムキムキマッチョ3人に吐けと言われて泣きそうだった。
こ、こわ。
ソーと呼ばれた人とはあまり面識がないけど、あの石の持ち主という神様なのだろうか。
だとしたら悪いことをしてしまった。
でもバッキーさんに怒られるのは違う気がする。

「そ、そんな怒んなくてもいいじゃん……あっちから戻ってくるのに必要だったんだもん……」
「悪い、責めてるんじゃなくて、お前を心配してるんだ……体に異常はないのか?」
「うん、でも不思議とこの辺にあるなって感じはする」
「そうか……スターク、落ち着いてからユイの検査を頼めるか?」
「ああ、もちろん。僕も興味がある」

ソーさんはあまり納得していない様子だったが、しばらく考え込んで頷いた。
飲み込んだ云々は省いて一番安全なところに保管すると言う点でのみ考えれば悪い結果ではないとのことらしい。
ファンキーな見た目に反して割と冷静な人だ。
なんとなく今までの言動からは想像し難くて少しだけ驚いた。
じゃあもう一個の方も言ってみようかな。

「あのー、なんていうか、このタイミングでいうとちょっとアレなんですけど……」
「大丈夫、何を食べたと言われてももう驚かないよ」

バナー博士は優しく微笑んでくれたがそうじゃない。
もしかして拾い食いする人間だと思われてる?

「いや、あの、じゃなくて……四次元キューブって中に石が入ってて、それを私飲み込んだんですけど、ロキさんが持ってた杖にもそういえば似たような石ついてたかなって思って」

パッとホークアイさんと目があった。
びっくりした。
ホークアイさんはロマノフさんとアイコンタクトをすると店の外に出ていく。
無線がつながっているからか、何人かが耳に手を当てた。

「ロキの杖はS.H.I.E.L.D.が回収して保管することになったと」

バッキーさんが眉間に皺を寄せて言った。
ん、んん、いらんこと言ったかな。
でもなぁ、ちょっと気になるし……。
正直あの石は見つけ次第私が飲み込んじゃった方がいいような気がしている。
今回の騒動から見ても、あの石には人を惹きつける妙な引力みたいなものがあって、それは決していいベクトルのものではないからだ。
それになにより、S.H.I.E.L.D.はラブクラックのナノマシンを複製しているので私の中の好感度はゼロに近い。

「仮の話、石をS.H.I.E.L.D.から譲渡されたら、また呑むつもり?」

ロマノフさんの言葉に私が頷く前にバッキーさんが首を振った。
おおう先手。

「ラブクラックされた従士たちで管理する」

ロマノフさんは肩をすくめた。
どうだかな、と言う仕草だろう。
私も同じ気持ちだ。

「どちらにせよS.H.I.E.L.D.は手放さないだろう。それとも無理矢理にでも持ち出すのか?」

スタークさんはバッキーさんを見て問うた。
威圧したつもりはないだろうが、スタークさんの視線に弱いバッキーさんはさっと目を伏せて口をつぐんだ。

「まあ、何か起きてからでいいんじゃないですかね」
「何か起きてからじゃ遅いだろう」
「いや、でもあんな巨大怪獣たち相手にまあまあ勝ったチームですよ?S.H.I.E.L.D.だって下手なことしないでしょ」

答えのない話に言葉を重ねるよりこの美味しいシャワルマを食べる方が楽しいし有意義だ。
バッキーさんにシャワルマを渡せば仕方なさそうに肩をすくめてかぶりついた。
言いたいことがありそうだったロジャースさんも諦めたのか、あまり食は進まないようだったがシャワルマに視線を落とした。

「言い出してなんですけど、ひとまず今は勝利おめでとうってことで」

コーラのコップを掲げれば、皆思い思いの表情でコップを掲げた。
なんだか思っていたより色々あったけど、悪くはない勝利だ。
元凶のロキさんは捕まえたし、不可抗力とはいえ、キューブの無力化にも成功した。
ニューヨークの街並みだって、あの巨大なエイリアンに襲われたにしては及第点だろう。
ロジャースさんに乾杯の音頭は?と視線をやれば、どうぞと譲られた。
え、ロジャースさんが一番リーダーっぽいのに。
じゃあ次点でこういうの慣れてそうな、とスタークさんに目をやれば、肩をすくめられた。
こ、これは私がする流れ!!
これが言い出しっぺの法則というやつか……。
厳つめな大人たちの視線が集まり一瞬だけ、うっ、とひるむ。
けれど隣にいたバッキーさんの優しい瞳に背中を押された。
こっちにも、私の居場所はある。
こっちを選んで、後悔しない方を選んで、本当に良かった。
きっと、故郷とはさよならだけど。
私はにじんでくる涙をこらえてコップを高く掲げた。

「かんぱーい!!」