▽ 16話
すっげー。
一切の事後の匂いなく、大倶利伽羅と燭台切の腕の中ですっきりと目覚めた朝、私は伊達と呼ばれる男たちに感心した。
ここまで後始末が完璧だったことがあるだろうか。いやない。
二人相手ということで気づいたら意識を飛ばして寝ていたが、いつの間に体を拭かれ長襦袢を着せられ、挙句の果てに中の処理もされたのだろうか。
「おはよう、朝ごはんの準備をしてくるね」
燭台切は私にキスをして部屋を出ていった。
代わりに部屋の前にいた鯰尾と骨喰が入ってくる。
「おはようございます、主さん」
「おはよ」
大倶利伽羅は私の頬のテープを見て燭台切と同じように朝ごはんの支度へ出て行った。
新しいものになっているから、これもはがされて洗われたのだろう。
「湯浴みはするか?」
「いや、着替える」
「今日から指導員の人来るんでしたっけ?」
「あー、そうだわ。あと襲撃の再現も。めんどー」
箪笥から服や下着を出してさっさと着替えた。
私は気にしないけど、鯰尾や骨喰も気にしないらしい。
「ライター取って」
「ああ」
机の上の煙草の中から少し迷ってキャメルを選び、火をつける。
今日は色々とやることがある。
煙草を手に持ちながら外に出れば、鯰尾が灰皿を持って出てきた。
「こんのすけ」
「はい、ここに」
「私の煙草と、携帯灰皿何個か注文しといて」
「はい。……それだけですか?」
「あー、今日のスケジュールは?」
「本日9時以降、主さまの都合のいい時間からで構いませんので襲撃時の実況見分をお願いします」
「いま何時?」
「7時56分です」
「ん」
あー面倒くさ。
灰を鯰尾の持つ灰皿に落として強く吸い込み、リビングに向かう。
めんどくさ、めんどくさ。
リビングのソファに座り込んで、天井に煙を吐き出す。
鯰尾の手から灰皿を受け取って、ソファに置く。
リビングは赤くない。
もう、血もなければ、壁の傷も無くなっている。
高原が、政府による特殊清掃が入ったと言っていた。
「主君?」
「秋田、来て」
煙草を灰皿において、秋田を抱きしめる。
ふわふわで、柔らかくて、陽だまりの匂いがする。
「秋田ぁ」
「ふふ、何ですか?」
秋田を抱きしめて、また煙草を吸う。
膝の上に乗った重さが、私の意識を引き留める。
「主、ご飯食べれそう?」
燭台切が顔を覗き込んできたので、視線から逃れるように秋田の髪に顔をうずめた。
「はは、どうだろ。吐く可能性はある」
「お腹空いてるなら、ちょっと食べてみる?」
「ご飯なに?」
「白ご飯とお味噌汁。これからお魚焼いて卵焼き作ろうと思うけど」
「味噌汁とさあ、くっそ甘い卵焼きだけちょうだい」
「うん、分かった。お味噌汁そこで飲むかい?」
「ん」
キッチンで火のつく音がして、味噌汁の香りがしてくる。
煙草を灰皿において、秋田を抱えたまま骨喰が用意してくれたお茶をローテーブルから取る。
「他の人は?」
目玉焼きを作ってくれた大倶利伽羅に聞く。
「山鳥毛とへし切が手合わせ、山姥切と信濃が厩だ」
「馬いるの?」
「いますよ、主君は見たことないですか?」
「うん」
馬とかいるんだ。
現代でも馬とかそうそう見た記憶ないな。
秋田を放して卵焼きを食べる。
あま。
甘くておいしい。
くっそ甘くというオーダー通りちゃんと甘い。
燭台切も大俱利伽羅も料理が上手いけど、刀なのに料理が上手いのはどういうことなの。
味噌汁を飲みながら、質の良いソファに身を委ねた。
「再現のやつ9時からでも大丈夫そう?」
燭台切と大倶利伽羅に声をかける。
二人はリビングの時計を見て頷いた。
「いいよ、鯰尾くん、骨喰くん、当番の人たちに伝えてきてくれるかな?」
「はーい、行こう兄弟」
「ああ」
あーめんど。
しかし、こういうことはさっさと済ませた方が精神的にいい。
「こんのすけ」
「はい、ここに」
「9時から」
「承知いたしました。それでは9時より実況見分をお願いいたします。時間になりましたら政府の者が参ります」
「ん」
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