▽ 19話


乱暴に抱かれたかったから、山鳥毛にそう言った。
山鳥毛は最初渋っていたけれど、興が乗れば事細かに指示せずとも私の望むように動いてくれた。
手首に山鳥毛の手に押さえつけられた痕が残っている。

「はは」
「楽しそうだな」
「いーや、昨日あんなストレス浴びたのにちゃんと眠れてホッとしてるの」
「役に立てたならよかったが……強く押さえつけすぎてしまった」

気遣わしげに私の手首をなぞる。
違う。
これは自傷のようなものだ。
私は天井を見て、深く息を吐き出す。

「私の望む死を教えてあげようか」
「嫌な話だな」
「腹上死だよ。楽しい話でしょ?」
「嫌な話だ」

私は笑って山鳥毛に抱きついた。
山鳥毛は私の髪を撫でてこめかみにキスをする。

「起きるか?」
「ん」

私を抱き付かせたまま立ち上がり、昨日寝る前に私に纏わせた長襦袢を脱がせる。
ふと、着替えながら昨日部屋に張った結界を見た。
あれだけ前後不覚になるようなセックスをしても、結界は揺らがずそこにある。
やっぱり才能があるらしい。
ペリックを手に取りかけて、キャメルを選ぶ。
自然と火を差し出してくれた山鳥毛と部屋を出ると、秋田と骨喰がいた。
あの襲撃以来、私の周りには何人か必ずいるらしい。
二人は驚いた様子で私を見上げた。

「びっくりしました、音も気配も消えちゃうんですね、その結界」
「ああ、そうみたい。笠木は?」
「朝食の手伝いをしている」
「そ」

一応客人という立場のような気もするが、笠木がいいならいいだろう。
秋田が差し出した携帯灰皿に煙草を捨てて、リビングに向かう。
この生活を始めてから、実質タダで支給される煙草のせいで扱いが雑になった気がする。

「笠木ちゃん、おはよ」
「あっ、おはようございます、青葉さん!」
「お客さんなんだから、そんなことしなくていいのに」
「い、いえ、私、何かしてないと、落ち着かなくて……ご迷惑でしたか?」
「ううん、笠木ちゃんの手料理食べられんの嬉しい」

笠木は顔を赤らめてリビングに朝食を並べていく。
いつの間にか燭台切と大倶利伽羅が食事当番になっているらしく、その手伝いに鯰尾と信濃がいた。

「他の人は?」
「山姥切さんと長谷部さんは手合わせ中です。僕呼んできますね」

秋田が走っていく。
桃色の名残を目で追っていたからか、信濃が抱き着いてきた。

「大将、俺のこと抱っこする?」
「うん」

ソファに座って、信濃を膝にのせて抱きしめる。
自分より小さいものは安心する。
どうしようもないサディストの友達が言っていたけれど、私のこの安心感はたぶん違う意味。
そう思いたい。
私はサディストではないし。

「笠木ちゃん、来て」

信濃を膝に乗せたまま、ソファを軽くたたいて笠木を隣に呼ぶ。
笠木はちら、と燭台切を見て、すぐに私の隣に座った。

「煙草嫌い?」
「あ、あまり得意ではないです……」

パーラメントに火をつけて、笠木の口を覆うように手を当てて吸わせる。

「肺まで入れないで、口の中で煙止めて、吐き出して」

笠木は私の言葉通りに口で吸って、むせた。

「ふふ」
「けほ……なんで……」
「私の好きなもの、一回吸わせたかったの」

笠木は目を瞬いて、笠木の口から私の口に戻ってきた煙草を見つめる。
こういうタイプの女は、間接キスだとか、好きなものの共有だとか、そういうのに弱い。
笠木は煙草で喉が痛むのか、何度か唾液を飲み下しながら、私の持つ煙草を目で追う。

「あ、の、普段吸ってる煙草と違いますよね……?」
「ん、そう。来客の時はあんま臭いの吸ってないよ。これはこっち、普段はこっち」

2種類の煙草の箱を振ってみせる。
今吸ったパーラメントではなく、キャメルのパッケージに視線が向く。

「い、いつもの方……」
「吸ってみる?」

パーラメントを灰皿に捨てて、キャメルに火をつける。
ほのかに甘い香りが漂う。
が、まあ非喫煙者にはどちらも同じだろう。
笠木は一口吸ってまたむせた。
笠木の手から煙草を取り上げて、煙を肺まで入れる。

「無理しないでいいよ」
「主、朝ごはん出来たよ」
「ん」

信濃を膝から降ろして先に行かせる。
つけたばかりの煙草を惜しみながら深く吸い込んで灰皿に押し付けた。
想定より私の学習が速く済み、予定していた一週間を待たずにすべての教育が終われば今日にでも笠木の仕事は終わる。
立ち上がりかけた笠木の手を引き、囁いた。

「ね、後で秘密のプレゼントあるんだけど」

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