▽ 20話
紙を切って作った人型がボックスステップを踏むのを見て、笠木はくすくす笑った。
「もう驚かないです。流石ですね、青葉さん」
「これでおしまい?」
「はい。もう私から教えられることは何もありません」
「寂しいな」
「……私も、寂しいです」
「もっと難しいのとか、笠木ちゃん知ってそうだけど」
「知っては、います。でもそれは……」
「教えちゃダメなの?」
笠木は少し悩んで頷く。
私は食い下がらずに頷きを返した。
「そっか。じゃあ、おしまいだね」
笠木は私の言葉にぎゅ、と自身の手を握りしめた。
葛藤している。
私は笑いをこらえて、笠木の手を取る。
札も持たずに部屋の中に結界を張り、護衛役でついていた長谷部に軽く切ってもらう。
うん、切れない。
空気の止まる感覚は、少なからず息が詰まるような気がしたが、それよりも私は楽しかった。
「こんのすけ」
私がつぶやいた言葉には誰も答えず、音が宙に溶ける。
私は上手くいったと目を細め、笠木は驚きに目を見開いた。
「こ、こんな、ことは……いけません……」
「この部屋だけ」
私は部屋の奥の刀掛けから短刀を取った。
「これ何かわかる?」
「乱、藤四郎、ですよね……?」
「知らないけど」
笑ってソファに座り、笠木の手に刀を握らせた。
笠木は恐れ多いとでもいうかのように恐縮した様子で乱藤四郎を両手で持つ。
私は笠木の手に自分の手を重ねて、霊力をまとう。
「あっ……」
「笠木ちゃんが審神者になれなかったのは、霊力が足りなかったからだよね」
笠木は私が何をしようとしているのかを察して、刀から手を離そうとしたが、私の手がそれを許さない。
「ちょっと熱いよ、我慢してね」
「あ、あ、青葉さ、ん……だめ、です……」
流れる霊力は笠木と触れ合う手を通して、私たち二人を巡り、そして乱を包み込む。
桜が舞った。
「乱藤四郎だよ。……あれ?あるじさんが二人?」
笠木は息をのんで、途端に涙を落した。
ぽろぽろと流れる涙に、乱はにっこり微笑んで、笠木を抱きしめる。
「どうしちゃったの?あるじさん」
乱の言葉に笠木はさらに涙を落した。
顔を伏せて泣き崩れる笠木を抱きしめながら、乱が私にウインクして見せる。
「これ、秘密ね、笠木ちゃん。いつでも会いに来てよ」
「はい……はい……ありがとうございます……」
審神者になれなかったという劣等感は、笠木に深い楔を打っていた。
霊力の低い彼女が政府で仕事をするのであれば、高原のように本丸担当やその他の事務員が妥当だ。
だというのに、少ない霊力をかき集め、式を効率化し、勉強を死ぬほどして、指導員になったのは審神者への道を諦め切れなかったから。
最初出会った時に感じた僅かな敵意は、労せず審神者という職につき、怠惰に過ごしている私への怒り。
それは審神者という職への憧れが、捨てきれていない証。
私が名前を取り返すための、足がかり。
乱が抱きしめる上から笠木を抱きしめて、霊力で包み込む。
煙草の煙が着くように、薄く、けれどしっかりと。
「ぜったい会いに来てね、あるじさん」
前 | 次
戻る