▽ 21話


私の指導員としての任務を終えた笠木は名残惜しそうに乱を見つめ、けれどどこかすっきりした顔で本丸から出て行った。

「わるい人」
「そう?」

乱は私に抱き着いて、可愛らしい姿でくすくす笑う。
笠木と顕現させる前に、乱は先に励起し話を通してあったから、あれはすべて乱の演技だ。
私が悪い人なら乱は悪魔だ。
ペリックを出して火をつければ、脳に煙が入るような錯覚を覚える。

「あー、疲れた」

長谷部に凭れかかって煙を深く肺に入れる。
私を自然に抱えた長谷部は、乱に私を休ませるとだけ伝えて、その後はぱったりと黙したまま何かを考えている様子で玄関から私の私室へと運んだ。
私をソファに下ろして、長谷部は床に膝をついて座る。

「主は、山姥切長義に、怒っておられないのですか」
「まあ、うざいなとは思うけど、今は怒ってないよ」
「……なぜ」
「完全に同じ立場にならないと、他者を知ることなんてできないから」

煙草を吸って、煙を天井に吐く。
山姥切長義が刀であり、男性体であり、そして望まれて励起され、肉体を得た存在である以上、本質的な意味では、私を知ることはできない。
それは他の刀剣であっても同じだ。
悔しそうに俯く長谷部の頬を撫でて私の方を向かせる。

「最初に私から奪ったのは、母の兄」

長谷部の目が見開き、言葉を失ったようだった。

「叔父の次は中学の担任。奪われたけど、得るものもあるって教わった。別に望んじゃいなかったけど」

冷蔵庫から缶チューハイを出して、ごくごくと飲み下す。
何言ってんだろ私。
缶でブレーキを踏んだつもりだったが、言葉は止まらない。

「そこからは、もう、何もかもが崩れてった。私が何もしなくても、他人は私の関心を惹こうとしたり、私の体を欲しがった。私を想う人がたくさんいて、そのどれもに答えなかったこと自体は事実だけど、代わりに彼らは私の体を得ている」

幸か不幸か酒に強いため、あまり酔ったことはない。
缶チューハイを空にして、机の上に置く。
酒よりよほど効く煙草をくわえて長谷部を見れば、明らかに私を憐れんでいた。

「憐れまなくていいよ。そんな目で見ないで」
「申し訳、ありません……」

サッと目を逸らした長谷部の顎をとって、心底辛そうな顔をしている長谷部と視線を合わせる。

「ストレスは、セックスで解消することにしてるの」
「……お辛くはないのですか、男に触れられることは……」
「求められて生きてきたから、求められないと寝られなくなったの。まあ、セックスは気持ちいいし」

床に座る長谷部に抱きつき、その膝に乗る。

「可哀想な私じゃ勃たない?」
「……まさか」

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