▽ 2話


いつか刺される日が来るとは思っていた。
しかし攫われるのは予想外だ。
長くなった灰を落とすために煙草を灰皿にやれば、いつの間に噛んでいたのか歯型がしっかりとついている。
犯罪者同然の扱いで車に乗せられ、質問を挟む間もなくこの和室でもろもろの説明をされると、半ば強引に審神者にさせられた。
煙草を灰皿に押し付け、そのまま横に倒れ込む。
くそ、くそ。

「おい、大丈夫か」
「うるさい」
「……ここを開けてくれ」

黙っていれば、障子にかかっていた影は中に入らないまま去っていく。
くそ。
ああ、うるさい。
耳をふさいで、邪魔になった眼鏡を乱暴に外す。
うるさい、うるさい。
最悪だ。

「ぅ、おえっ……」

幸か不幸か胃の中に何もなかったため、せりあがった胃液は片手で収まるほどだった。
その時、目の前に白い面の狐がどろんと間抜けな音を立てて現れた。

「主さま、山姥切国広の入室を許可してください」
「は……?」
「許可、と言ってください」
「きょ、か?」
「入るぞ」

今度は私が答える前に金髪の青年が部屋に入ってきた。
どうすることもできず手の平に吐いたままだった胃液を、ティッシュで拭われる。
狐に指示され、青年は冷たい布団と冷たい毛布の中に私を寝かせると額に手を当てた。

「なんなの」
「……あんたに死なれると困る」
「死なないよ、これくらいじゃ」

額に乗せられた青年の手から、ぬくもり以外の何かが私の中に入ってきて、少し息が楽になった気がした。
なんだこれ。

「煙草とって」
「いまは、やめておけ」
「じゃあキスして」

青年はため息をついて机から煙草とライターを取った。
ためらうように私の少し先で止まった手を引き寄せて奪い取り、煙草に火をつける。
深く吸い込んでゆっくり煙を吐き出せば、嗅ぎなれた嫌なにおいが私のストレスを包み込んで軽くしてくれる。
何とはなしに中空へ視線を彷徨わせ、視界に入った金を追い出すように顔を反対側へ背けた。
その瞬間、私の手から煙草が抜き取られ、灰皿へと捨てられた。

「あ、おい、なにして……んっ……」

煙草の代わりに、へたくそなキスが降ってきた。
あー、足りない。

「やるならちゃんとして」

後頭部をつかんで舌を入れれば、青年は体勢を変えて私に答える。
絡み合う舌が、粘液が、卑猥な水音が、僅かに私を満たす。
冷たい布団も、青年の体温を吸ってぬくもりを持ち始めた。


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