▽ 12


「虹の女の子?」
「ええ、知らないなら、いいんだけど……」

ワンダの言葉に首を傾げる。
あだ名だろうか。
けれどスタークが代わりに顔を上げた。

「ラードゥガ?」
「……ええ」
「ヒドラの研究対象の名簿に名があったな」

ワンダは少し言いづらそうに自身の腰から右胸の下あたりまでをなぞって指した。

「ここに、割れたガラスみたいな虹色のひび割れがあるの。年は私より少し下くらいで……」

ガタリと立ち上がる。

「まさか、あの基地に閉じ込められていたのか!?」

襲撃の際の火の手を思い出してゾッとする。
あそこにいたなら、きっと彼女は、もう。
しかしワンダは首を振った。

「あの子は、ヒドラの狙撃手だったわ。あの時も任務に出ていた」

ワンダは僕の顔を見て、言葉を続ける。

「かつては、ウィンターソルジャーとも仕事をしていたと」

脳裏に蘇る、僕の肩を撃ち抜いた狙撃。
バッキーを迎えに来た若いヒドラの女。
彼女が、ラードゥガ、だろうか。

「黒髪黒目の、線の細い女か?」
「そ、そうよ、まさか殺して、ないわよね?」
「僕が会ったのはバッキーと彼女がヒドラの捕虜を取り返しに来た時だけだ。ソコヴィアでは見てないよ」
「その女が何なんだ?ヒドラのアサシンなら刑務所行きだろ。探してるのか?」
「スターク、言い方ってものがあるだろ」
「……もういいわ。もし見つけたら教えてちょうだい」

ワンダは部屋から出て行ってしまった。
僕とスタークは顔を見合わせて珍しい様子に口をつぐむ。
ラードゥガという女の子は、一体誰なんだ。

「ラードゥガ、虹か。安直な名だ」

スタークはホログラムを操作して画面にヒドラの研究資料を出した。
「本名はレーナ・ハイモト。発見地はシベリア。色々研究していたようだが、虹があるということ以外は特異性を解析できず、以降は適性のあった狙撃手として運用。……まるでモノ扱いだな。FRIDAY、ラードゥガの映像記録を復元しろ」
『かしこまりました』

彼女の資料の下には、こなした任務の……殺害した58人の名簿があった。
この5年間、いや、彼女が本格的に任務に当たった直近3年間の記録としては、異常な伸び率だ。
軍人でも、ましてや暗殺者でもなかった彼女は、3年の間に人の心を封じ、自身を守るために引き金を引いてきたのだろう。
すでに治り、ありもしない肩の傷に、彼女の葛藤と苦しみを感じた。

「キャプテン、見るか?」

スタークの声にハッと顔を上げた。

「……ああ、彼女が知りたい」

スタークの合図で監視カメラの映像が動き始めた。


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