▽ 13
「あ、あの、助けてくれて、ありがとうございます……」
見知らぬ外国人に、英語で話しかけた。
大佐と名乗った彼はあまり人好きのしない顔で微笑み、簡素な椅子に座った。
「楽にしてくれ、君の名前は?」
「ハイモト……あ、レーナ・ハイモトです。あの、私……そうだ、虹は、どうなったんですか?」
「虹なら君の腹にあるとも」
大佐の指した指先を辿り、視線を下す。
腹に、何だって?
大佐の視線すら気にする余裕もなく、シャツを捲り上げ、腹部を見た。
私の腰から右胸の下あたりまで虹のひび割れがある。
「あ、ああぁ……!!」
虹を見た瞬間、脳裏に私の世界の終わりが蘇った。
夢なんかじゃ説明のつかない、明確な死の感覚。
私だけじゃない、地球上の生き物全てが虹に食われ、割れて死んだ。
悍ましい虹の気配にえずいた。
私に、どうして虹が。
この虹は、一体。
ハッと飛び起きた。
夢。
嫌な夢を見た。
「もう、行かないと」
昨日、ラムロウと名乗る男から接触があった。
私をまた使ってやる、と。
自身の首を絞める行為で、ようやく安心できるのだから、救いようがない。
ひだまりの中になんて、戻れない。
私はラムロウから提供された装備を身に纏い、車に乗り込んだ。
狙撃手としての腕を買われている。
愛用のライフルまで知られているなんて。
スポッター兼護衛の男に案内され、ビルの上に構えた。
赤外線スーツを被り、スコープを除く。
ああ、また彼。
キャプテン・アメリカ。
ひだまりの人。
私は彼から視線を離して、周囲を見る。
いくつか知っている顔がある。
ヒドラの実験を受けていた双子だ。
彼らも殺すのだろうか。
「ラードゥガ、キャプテン・アメリカが対象だ」
「はい」
今度こそ殺せるだろうか。
弾の装填を行い、照準に彼を入れる。
「ファイア」
晒された頭部への狙撃は、やはりあの超人的な反射で防がれてしまう。
なぜ反応できる?
「ノーヒット。膝を撃て」
「はい」
今度は当たった。
というか、彼の前に立った男が気を引いてくれたようだ。
なら頭を打ち抜けるのでは、と戦闘を始めた二人をスコープ越しに眺めながら指示を待つ。
「ラードゥガ!てっ……」
スポッターの悲鳴に近い声にハッとスコープから目を離して振り返った。
「よ、レーナ。早すぎて見えなかった?」
「……ピエトロ」
「久しぶり」
構えた拳銃が、目にも止まらぬ速さで彼の手に奪われた。
「悲しいな。お前俺のこと撃とうとしたのか?」
「ヒドラを裏切ったのは貴方の方でしょう」
それもそうだ、と彼は肩をすくめた。
その時、ビルが爆発した。
咄嗟にピエトロが私を庇うように身を伏せさせる。
なぜ。
「ワンダ……?」
ピエトロはハッと何かを察すると拳銃を捨てて私の前から消えた。
一体、何が。
私はスポッターが死んでいないことを確認し、彼の持つ無線を取る。
「こちらラードゥガ。どなたか応答を。……どなたか、応答を」
ノイズが走るばかりで応答は返らない。
やられたのか。
いつも、こうじゃないか。
なぜ正義は勝つのだろう。
私の世界は、なすすべもなく、抵抗すら出来ず、この虹に喰われたというのに。
この世界の正義は、強すぎる。
忌々しい虹に服の上から爪を立てた。
また、逃げなければ。
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