▽ 17
「女が見つかった?」
「はい、それが……その……」
長官から36時間の猶予をもぎ取った時、歯切れの悪い兵士が駆け込んできた。
女というのは、バーンズを手引きしていたあのラードゥガだろう。
「海底で、プロペラに、突き刺さった状態で、生死を繰り返しています……」
「……は?」
「い、一度ご覧いただければと……!」
長官は話にならないとため息をついて部屋を出ていく。
僕とロマノフは顔を見合わせ、その後ろについた。
ロマノフはワカンダ国王暗殺の首謀者へと至る参考人である女が見つかった、とあの若い王子に連絡を入れていた。
拷問でもさせる気か?
ラードゥガを気にしていた双子に嫌われるぞ、とは口に出さなかった。
「スターク、あの女を知っているかね?」
「ラードゥガ。ヒドラの研究対象らしいですよ。腹に虹のひび割れがあるから、ラードゥガと」
ヘリが建物屋上のヘリポートから墜落した現場に着くと、たくさんの作業員がいた。
長官を呼びにきた兵士に続いて作業テントに入れば、ダイバーの目線カメラの映像が安物のモニターに映し出されていた。
その先には、胸をプロペラに貫かれているのに、なんとか逃れようと動くラードゥガの姿があった。
胸からは虹色の光が溢れている。
けれど酸素がないからか、窒息で動きを止める。
死んだ。
しかしまたハッと目覚め、プロペラを引き抜こうと必死にもがく。
不死、なのか?
繰り返し死ぬだなんて、なんて残酷な。
「ど、どうすれば……」
「これは……」
「おい、引き上げろ!プロペラを引き上げろと言っているんだ!!」
「しかしスターク……」
かちゃ、と地面を掻くような小さな爪の音が聞こえ、黒い影がテントを飛び出して行った。
そしてすぐにモニターに映った。
ワカンダの王だ。
鋼鉄をも切り裂く爪で、ラードゥガの胸を貫くプロペラをいとも容易く切り裂くと、呆然とするダイバー達を押し退けてラードゥガを抱え浮上する。
テントを飛び出して引き上げられたラードゥガとブラックパンサーに近寄れば、女の傷を虹が修復していくところだった。
ラードゥガは濡れていたが、泣いているのが分かった。
「……オコエ、かけるものを」
「はい」
ティチャラは部下の女から受け取った上着をラードゥガにかけた。
震え、咳き込む彼女を痛めつけようとは、流石にしていない。
「私はワカンダの国王、ティチャラ。先王ティチャカを殺した犯人、バーンズの行く先を知っているなら教えて欲しい」
「……ワカンダ……」
ラードゥガは震えながらティチャラを見た。
「ウィンターソルジャーは、無実です……私が、殺しました」
「……それは、本当か?」
「はい……依頼主に命じられ、私が実行しました……彼は、罪を、なすりつけられただけ」
ラードゥガは震えつつも笑った。
「どうぞ、殺してください」
「なぜ、今更……」
「秘密が知られた以上、これから私は死に続けるでしょう。あなたに何度殺されてもきっとそう変わらない」
この虹が、目覚めるまで。
ラードゥガは全てを受け入れるように目を閉じた。
ティチャラが彼女に拳を振り上げ、そっと、下ろした。
そして力なく震える彼女を抱き上げる。
「陛下、陛下待ってください、彼女の身柄はこちらでお預かりします」
咄嗟に口を突いて出た。
「殺しはしない」
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