▽ 22


「ラードゥガとウィンターソルジャーの子供にも興味がある。好きに孕ませろ」

なんて、嫌なことを言われたが、予想に反し彼は私に何もしてこない。
プライベートもクソもないオープンなトイレまでギリギリ伸びる程度の長さの手錠を掛けられているため自由とは言えないが、それ以上のことはない。

「レーナ」

硝煙の匂いと共に狭い独房へと帰ってくる彼は、識別名ではなく、私の名を呼ぶ。
横たわっていたベッドから降りて、服を脱いだ。
もう、慣れた。
手錠のせいで左手に服は残るが、そこ以外は身を隠すものを取り払った全裸だ。
彼はまるで麻薬を探す警官のように私の体を念入りに調べる。
傷がないか確認しているのだ。
最初こそこの行動が嫌だったが、それのおかげで解剖もされず他の職員に襲われていないのかもしれないと思えば、少しばかり気が楽になった。
私のどこにも傷がないことを確認した彼は、どこかホッとした様子で私を抱きしめた。
動きづらいが、これは終了の合図なので、彼を纏わり付かせたまま脱いだ服を着直した。
無口であると言う点を除けば、彼と同じ部屋で困ることはほとんどない。

「ウィンターソルジャー」

声をかければ、彼は私を離して目を見る。
彼が私のことを名前で呼んでくれるのだから、私も彼を識別名ではなく名前で呼びたい、と伝えたが、彼は自分の名前を知らないと答えた。
こんな独房に押し込められているのだからお察しだが、彼もヒドラの何らかの実験の被害者なのだろう。

「お怪我はありませんか」
「ない。レーナ、怪我はないか」
「ありませんよ……さっき確認したばかりでしょう」

少し呆れて言えば、彼は私の手錠を外して頷いた。
手錠で傷がつかないようにと巻かれた布を外し、その下にも傷がないことを確認して、私を抱き上げる。
ベッドに座り、私を横抱きにする彼は深く息を吐き出した。
安堵とも、疲労とも取れるそれに私は彼を仰ぎ見た。

「どうして、私にこだわるんですか」

彼は答えない。

「虹、ですか?」

捲り上げようとした私の手を掴んで抑えると、彼は私に巣食う虹を覆い隠すように服の上から抑えた。
彼の手はわずかに震えている気がした。
私とて憎んでいるけれど、それはこの虹が私の世界を割った、70億人の命を奪った記憶があるからだ。
彼は私を透かして何を見ているのだろう。

「レーナ、俺は、ひだまりの中には行かない」
「何の話ですか?日光アレルギー?」
「分からない……何も、分からない……だが、俺はお前を、もう、2度と」

殺さない、と口が動いた気がしたが、音にはならなかった。
誰かと重ねている?
失った記憶の中で殺してしまった大切な誰かを私に見ているのだろうか。
怯える様子すら見える彼の頬を撫で、迷子の子供のように不安そうに瞳孔を揺らす彼を私の方から抱きしめた。

「大丈夫ですよ、私は生きていますから」


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