▽ 23
久しぶりに解剖された。
体の自由より先に、意識が戻る。
全身麻酔のおかげで痛みはまだないが、今後開かれた痛みが来るのだろうと思うと、まだぼんやりとした頭でも憂鬱だった。
がちゃりと錠の外れる音がして、重い扉が開く。
硝煙の匂い。
彼が帰ってきた。
起き上がろうにも、麻酔の残る体はまだ上手く動かない。
「レーナ」
彼は横たわったままの私を見下ろし、脱げ、と短く言った。
指示に従おうにも、体が動かないのだ。
彼は焦れたのか諦めたのか、私のズボンを下ろした。
ショーツまで脱がされ、いつものように観察される。
ああ、今日は腹に傷がある。
彼は、どうするのだろう。
膣まで覗かれる徹底的な確認に今更羞恥などない。
彼はただ機械的に確認しているだけだ。
私の衣服の有無に何ら関心を抱かない彼は脱がしたショーツを履かせることなく、下半身の確認を終えて上半身の確認に移るため、上の服を脱がせ、固まった。
傷を見ている。
晒された虹色のひび割れによって、彼の顔が虹の光に照らされる。
その顔が、絶望に染まる。
普段何を考えているのか分からない無表情であるというのに、今は明確に表情が表れている。
「あ、ぁ……レーナ……」
頭痛を抑えるように、彼はぐしゃりと髪の乱れなど気にせず頭を抱えた。
どうして貴方がそんな顔をするの。
この世の終わりのような。
解剖されたとは言え、ヒドラだって私という研究対象を死なせないためにきちんと縫合しているし、サイドテーブルにはご丁寧に抗生物質が入ったオレンジのピルケースまで置かれている。
貴方がそこまで狼狽えるようなことは、何もないのに。
「レーナ……レーナ……だめだ……死ぬな……」
貴方は何を見ているの。
彼は壁に持たれるように身を寄せると、シルバーに光る鋼の左手で自身の頭を壁に打ちつけた。
麻酔が効いている私でも、さすがにぎょっとする。
がん、がん、と加減もなく壁に打ちつけられる彼の頭からは、血が流れ出ている。
やめて、何をしてるの。
彼に手を伸ばそうと、声をかけようとするが、上手くいかない。
誰か、彼を止めて。
「死ぬな、死ぬな、死ぬな……」
譫言のように繰り返す彼は、自害しようとしているように見えた。
誰か、彼を助けて。
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