▽ 25


手錠をかけられ、拷問室のようなところで裸にされた。
何を、されるのだろう。
恐怖に立ち竦んだ私など構わず、ヒドラの男はすでにすっかり治った解剖された時の痕跡を探るように私の腹部を見た。
再生クレードルとかいう私の知らない技術によって傷がなくなったことを確認し、男は隣の部屋の鍵を開けて私を押し込んだ。
部屋の中心には手術台のようなベッドがあり、その上には顔の右半分を包帯に覆われたウィンターソルジャーが横たわっていた。
男は麻酔と思われるそれを止め、手錠に繋がる鎖を持ったまま私を眠る彼の方へと押しやる。
傷が治ったことをアピールしろということなのだろう。
何も言われていないが、私の解剖された傷を見て絶望した彼の元に連れてこられたということは、そして麻酔を止めたということは、目覚めた彼がまた凶行にはしらないようにということだろう。
ぼんやりと、彼が目を開けた。
私を見て、飛び起きる。

「落ち着いて、どこも怪我していません」

彼はじっと私を見て、また私の体を点検し始めた。
いつもと違うのは武装兵もこの場にいることだが、私はそれをどうのこうの言える立場ではない。
またいつものように抱きしめられて、彼の早鐘を打つ心臓の音がだんだんと落ち着いてくるのが聞こえた。

「ウィンターソルジャー、落ち着きましたか?」

彼は答えないが、心臓の音を聞くに大分落ち着いてきたようだ。

「部屋に戻れ」

男は私の手錠に繋がる鎖を放り投げて、いつ抜いたのか銃口を下に向けたまま彼を促した。
また銃口を向けられて彼が暴走しても嫌だ、と私は大人しく指示に従うために、いまだに私を抱きしめ続ける彼の腕に触れた。

「ウィンターソルジャー、行きましょう」

彼は鎖を拾い上げると、自身の手首に巻きつけて私を抱き上げた。

「ま、待って、服を……」

そのまま部屋を出て行こうとする彼に服を着たいと縋り付けば、彼は私を下さないながらも服を拾い上げて横抱きにした私の体の上に乗せてくれた。
彼は私をどうしたいのだろう。

「レーナ」
「はい?」

彼の腕の中から見上げ、私に視線を向けぬまま独房へと戻るウィンターソルジャーに内心で肩をすくめる。
呼んでみただけ?

「何も、分からない」
「何を分かりたいんですか?」

ウィンターソルジャーは私を抱えたまま、ようやく視線を寄越した。
平時であれば、見つめられたら胸が高鳴るような美しい顔だが、残念ながらそんな穏やかな空間ではない。
虹色のひび割れを持つが故に閉じ込められ、二つの意味で体を開かれた。
最悪ではあるが、いまは彼によって、比較的その頻度も減った。
特に、誰に犯されることもなくなったのは、明確に彼に守られていると言っていいだろう。
いつかのスーツの男が言うように、虹を持つ私とウィンターソルジャーである彼の子供を作らせたいからなくなったのだ。
でも、彼は私を抱かない。
彼が発狂したことで、私を傷つけるようなことはもうない、と思いたいが、もしも他の男にまた抱かれるようなことがあるとするなら、それよりも、彼に抱かれたほうがいい。

「レーナ、お前は、誰なんだ」
「……難しい質問ですね。ラードゥガ、と言うのは答えになりませんか?」
「その名は、聞きたくない」
「私だって嫌いですけど……」
「俺は、お前が傷つくと、おかしくなる。お前が死ぬんじゃないかって、頭が、割れそうなんだ。虹を見ていると、特に、酷い」

息も絶え絶えな様子に、私は彼の手を握った。
虹が彼に悪影響を与えている?
でも、彼がいなきゃ、私はきっと酷いことをされる。
犯され、解剖され、拷問されるのだ。
私は彼の手を強く握る。
ごめんなさい。
虹が、貴方をおかしくしてる。
それでも、私は貴方を放してあげられない。
私の保身のために。
貴方がいなきゃ、私は。
酷い、酷すぎる。
この虹を憎んでいるというのに、虹に汚染される彼を、いいように利用している。

「ごめんなさい……でも、いずれ、このひび割れはこの世界全てを……それまでの辛抱です」

彼は酷い頭痛がする様子で、頭を抱えた。

「大丈夫、大丈夫ですよ」

死ぬ時は、みんな一緒。


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