▽ 26
俺は、知っている。
知らないのに、なぜ。
虹を、虹を……。
「レーナ、虹を、渡せ」
「何を言って……」
自身の脇腹を晒し、レーナの虹に触れる。
俺も食まれた。
俺でもいいはずだ。
レーナを、はなせ。
虹の光に照らされる。
その時、虹の割れる音がした。
俺もレーナも大袈裟に息を呑み、そして、俺の脇腹がひび割れた。
砕かれたガラスのように硬質で曖昧な断面が虹色の光を放つ。
「そ、んな……ウィンターソルジャー……」
「レーナ、お前だけは、もう、殺さない」
なぜレーナに固執するのか、俺にもわからない。
しかし、有体な言葉で言うなら、魂がそれを望んでいた。
虹色の光を失い、徐々に塞がっていくレーナのひび割れをなぞり、彼女を抱え上げた。
任務へ向かう車に押し込めば、ぎょっとした他の隊員たちが動揺した。
「いや、ウィンターソルジャー、流石にそれはまずいのでは……」
「すぐに終わらせる」
レーナも隊員たちも訳が分からないと言った様子だが、俺はそれらを捨て置き車を走らせた。
遠ざかる基地に隊員らは俺を説得することをやめ、申し訳程度にレーナに手錠をかけた。
「あ、あの、ウィンターソルジャー」
ハイウェイで車のハンドルを助手席の男に預けて屋根に乗る。
「レーナ、ひだまりの中に行け」
何故か一度見たことがあるような、そんな気がする。
シットウェルの乗る車を止め、ハイウェイからキャプテンアメリカと呼ばれる男を打ち下ろす。
レーナを車に置き去りにし、俺は奴らと戦う。
既視感。
動きが見える。
女を、男を容易に制圧し、残るはキャプテンアメリカただ一人だ。
ナイフで奴に襲いかかり、そして、名を呼ばれる。
「バッキー……」
記憶の蓋が、外れかかっている。
バッキーは、俺の名前。
ナイフを取り落とし、頭を抱える。
貴方だけひだまりの中になんて行かせない。
一緒に、堕ちて。
「レーナ、大丈夫だ、俺は、俺はもう……ひだまりの中に行くのは、君だけだ……」
だから、俺に君を殺させるな。
俺は上手く行ったことに笑った。
虹を、彼女から引き剥がした。
今回は、俺の勝ちだ。
酷い頭痛に蹈鞴を踏み、それでも湧き上がる感情に笑う。
「スティーブ、レーナを頼む」
「バッキー……?」
ハイウェイの上を指せば、素直なスティーブはそちらを向く。
その隙に俺は音もなく逃げ出した。
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