▽ 27


「彼女は信用できるのか?」
「分からない……ただ、バッキーが、彼女を頼むと」

まるで囚人のように監視カメラ付きの部屋に押し込められた彼女、レーナ・ハイモトを見て、押し殺すようにため息をつく。
君は、一体何者なんだ。
バッキー、もといヒドラの車に手錠をされた状態で見つかったため、ヒドラと何らかの関係はあるのだろうが、それらしき証言は得られていない。

「強情なお嬢さんだな。S.H.I.E.L.D.お得意の尋問でもして吐かせればいいだろう」
「彼女は重要参考人であって犯罪者ではない」

長官の言葉にスタークは肩をすくめた。
犯罪者ではないが、一般人としては扱えない。
バッキーから託された以上、僕は彼女を守りたいと思っているが、彼女が一体何者で、何から守ればいいのかも分からない。

「話してきても、いいか?」
「ついでに昼食を持って行ってやれ」
「ああ」

まるで囚人のようだ。
トレーに乗せられた食事は、戦時中のものと比べればだいぶ良いが、かと言って彼女の好物が並ぶわけではない。
ただ、生かすための食事。
レーナに持っていくからと職員からトレーを受け取り、僕は両手にそれらを持って彼女の部屋へ向かった。
両手が塞がっているが、ドアのロックは監視員によって開けられるため支障はない。
シュン、と横開きのドアが開かれた。
窓の外を眺めていたレーナは少し驚いた様子で僕を振り返った。

「ごめん、手が塞がっててノックができなかったんだ。一緒にお昼を食べても良いかな?」
「……は、はい」

戸惑った様子ながらも、レーナはベッドから降りてテーブルについた。
素直だ。
レーナの前にトレーを置けば、彼女は小さく礼を言う。

「嫌いな物はないかい?」
「大丈夫です」
「そうか、よかった。何か食べたいものがあれば、今度買ってくるよ」
「大丈夫です」
「……遠慮しなくていいんだ、何が好き?」
「……ごはん、日本の、お米が食べたいです」
「日本、そうか、君は日本人なんだね。分かったよ、約束だ」

レーナはフォークを置いて、思い詰めるように視線を落とした。

「彼は……ウィンターソルジャーはどうなりましたか」
「彼の名前はバッキーというんだ。君を僕に託して、姿を消した。おそらくヒドラの施設にいるはずだ。場所を、知っているかい?」
「……場所は分かりません。土地勘がなくて、私がどこにいたのかも……」

浅く息をする彼女に、僕は胸を痛め、それ以上問うことはできなかった。
何故彼女が、ごく一般人のように見える彼女が、ヒドラに捕まっていたのか。
何故バッキーは彼女を助けて、ヒドラに戻ってしまったのか。
疑問を押し込め、僅かに震える彼女に微笑んで見せる。

「大丈夫、ここは安全だ。自由は、ないかもしれないけど、欲しいものがあれば僕が何とかする。もうしばらくここにいて欲しい」

レーナはぐっと腹の辺りを抑えた。

「レーナ、大丈夫か?お腹が痛いのか?」

彼女はハッと我に返るように手を離して首を振った。
そして、誤魔化すようにフォークを持った。
しかしそのせいで震えが顕著に見える。

「レーナ、体調が悪いなら教えて欲しい。きっと力になれる」
「大丈夫です」

彼女に隠し事があるのは明らかだ。
スタークと長官が待つミーティングルームに戻れば、スタークが「彼女は日本人で、日本米が好きか、随分大きな一歩だな」と嫌味ったらしく肩をすくめた。

「しきりにお腹の辺りを気にしていた。検査では問題なかったんだろうな?」
「ああ。怪我はしていない。多少の生理不順はあったようだが、病気もなかった」
「伝説の暗殺者の子供を孕んでいるかも?」
「スターク」
「妊娠もしていない。生理不順は環境のせいだろう」
「今までの証言から、彼女はウィンターソルジャーのお気に入りってことだろう?要するに慰安婦さ。彼女の犠牲で奴の凶暴性を抑えられるなら、ヒドラにとっても何ら特別ではない人員を生かしておくくらい安いものだったんじゃないのか」

なんて酷い言い草だ。
しかし、それを否定できるほど、僕は彼女のことも、ウィンターソルジャーとしてのバッキーのことも、知らなかった。


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