▽ 28
白米。
輝かんばかりの白さと、箸で持っただけで分かるふんわりとした柔らかさは、日本米に他ならない。
もう2年は食べるどころか見てすらいなかったそれに、私は感動した。
日常が戻っていく。
採血や検査は、最初の一度きりで、解剖も、拷問も、危惧していたように誰かに犯されることもない。
私の、日常が。
「どう、かな?一応日本食のシェフに頼んだんだけど……」
箸をつけたまま固まっていたことに気づき、慌てて口に入れる。
懐かしい味。
からあげに、味噌汁まである。
あの日、虹が割れた日、何事もなく家に帰れていたなら、いつも通りお母さんの作る夕食を、食べていたんだ。
「おいしい、です……」
帰りたい。
家に帰りたい。
もう、ないのに。
ぽたぽたと、涙が落ちる。
「もう大丈夫だから、泣かないで」
スティーブ・ロジャースと名乗った彼は以前、ウィンターソルジャー、もといバッキーは自分の親友なのだと語った。
かつて、失ったと思っていた親友が、私と共に現れたと。
涙が止まらない。
「ご、ごめ、ごめんなさい……私、彼に、ぜんぶ押し付けた……」
虹は、私の世界のものなのに。
彼は虹を持って、私から虹を引き剥がして、ヒドラに戻って行った。
何をされるかなんて、想像に難くない。
私を逃すために、彼は虹を。
忌々しい虹を……。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
「謝らなくていい。バッキーは僕に君を託した。君をヒドラから救いたかったんだ」
「わたし、あの人に全部押し付けて、闇の中に置いてきてしまった……」
「バッキーなら大丈夫だ。僕が必ず助け出す」
「私が彼を変えてしまった!ただ命令に従うだけの機械であれば、私なんかを助けようとしなければ……ずっと楽だったのに……!!」
「そんなことない、君が助かってよかったって、バッキーもそう言うはずだ」
「貴方は、彼を知らない……」
「知ってるさ。イケメンで、女の子にモテて、強くて、とても優しい。君を僕に託したバッキーは、僕の知ってるバッキーだった」
「あの人は……」
私は口をつぐんだ。
彼は正気じゃない。
正気じゃなくなったのは、私のせいだ。
虹が彼を。
「彼は、助からない」
「……何を知ってる?」
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