▽ 03


「ファイア」

銃弾が標的の頭を捉える。
スナイプは、遠ければ遠いだけ得意だ。
もちろん限度はあるが、人の死が、遠いから。
スコープの向こうのウィンターソルジャーが拳銃で人を殺した。
近い。
彼は何も思わずに人を殺しているのだろうか。
吹雪越しに冬を冠する彼を見ながら次の弾を装填する。
この生活はいつまで続くのだろう。
逃げたい。
けれどそんな勇気もなく、ため息をついた。

「よし、撤収だ。ウィンターソルジャーを回収して……」

スポッターの胸に穴が空いた。
赤が飛び散る。
撃たれた!
咄嗟に雪の中に伏せた。
ハートショット。
膝から崩れ、止めのようにスポッターの額が撃ち抜かれる。
狙撃だ。
射角が見えた。
私の位置は見えないだろう。
逃げなければ。
体が、言うことを聞かない。
目の前に死があるのに。
震えが止まらない。
頭は冷静なのに、体が。

「い、いや、死にたくない……!」

サブマシンガンの銃声が響く。
私は耳を塞いで赤く染まる血の上に伏せ続けた。
逃げなきゃいけないのに、凍りついたように体が動かない。
虹色のひび割れを知覚する。
足音が近づいてくる。
雪を踏み締める音。
彼はこんな足音を立てない。
私の死が近づく。

「女?素人か?いやそんなわけねぇな」
「い、いや……」
「お前も散々人を殺しただろ?自業自得だ。地獄で俺の同僚に謝んな」

がちゃりと硬質な音がした。
顔を上げて、銃口を見て終えば、走馬灯のように私が殺した全ての人の顔が浮かんできた。
自業自得だ。
引き金が引かれる。
銃声が響いた。
虹が弾ける。
暗い雪山に、虹の光が。
私の額に開いた穴を、虹の光が埋める。
私は死ななかった。

「なん、で……」

拳銃を向けたままの男の背後に、音もなく彼が現れた。
サイレンサーの音がした。
躊躇いもなく頭を撃ち抜いた彼は、血溜まりの中呆けている私を見て屈んだ。
虹の残る額をなぞり、拳銃をしまう。

「レーナ」

死ななかった。
名を呼ばれた途端、忘れていた呼吸を取り戻した。
私は、死ななかった。
銃弾は確実に私の額を貫き、雪を赤く染めたのに、現実を塗り潰すように、虹が全てを覆い隠した。
私の死と共に現れた、初めての特異性に、私は絶望する。
痛みも恐怖も合った。
今はないが、確実にあった。

「い、言わないで……言わないでください……」

私の死で虹が動くと言うのなら、次にヒドラが行うことは私の殺害だ。
繰り返し、何度も死ぬことになる。

「お願い……」
「分かった」

彼はあっさりと頷き、血溜まりの中の私を拾い上げ、車へと乗せた。
そして後ろのドアすら閉めぬまま、私を暴く。
彼は自分のそれをしごいて立たせ、私の濡れていないそこへと押し込み淡々と中に精を吐いた。
そして私の腕を掴み上げると二の腕に銃を撃った。
悲鳴を上げ抵抗したが彼は意に介さず私の二の腕を掴んで血を私の至る所になすりつけた。
彼は扉を閉め、運転席に乗り込んだ。
呆然と、泣きながら身を縮めていれば、いつの間にか基地に着いていた。
車両の点検に来たヒドラの職員によって私は発見され、すぐに医務室へと運ばれた。

「派手にやられたな」


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