Step.101
『――ヴィラン―――複数い―――会敵し―――撤退を!!』
全身の気怠さを押して、やっと目覚めた。
「ブラド、ここ頼んだ。俺は生徒の保護に出る」
体が思うように動かない。
待って、私も行く!
ゆっくりと体を馴染ませるように返してくれる黒を無理に急かして、軋む体に心を纏った。
大丈夫、動ける。
未来予知で見えたのは酷く断片的で、しかもその一部を白が破壊してしまったために肝心の何が目的だったのかを忘れてしまった。
けれど、それでもみんなが傷ついたのはしっかりと覚えているから、私はこの場で動かないわけにはいかない。
「久地楽!待て動くな!!」
ブラド先生が私の腕を掴んで走り出しかけていた体を止めた。
「私、知ってる!みんながどこにいるのか!!」
「お前は遠隔支援ができる!!ここで個性を使うんだ!イレイザーに負担をかけるな!」
負担……?
そっ、か、私が出て行けば消太くんは必ず私を守らなければ行けなくなる。
でも。
記憶をもう一度しっかりと見つめる。
みんなが傷ついて、私が暴走を起こす未来。
暴走は絶対に避けねばならない。
何が原因だった?
消太くんが原因なら今すぐ外に出て参戦するが、今回は違った気がする。
「久地楽、非常時のため個性の無制限使用を許可する。生徒たちの安否を確認し、ここへ誘導することはできるか?」
「は、い!」
考え込んでいたせいで返事が一拍遅れたが、すぐにブラド先生の言うことが正しいと頭を冷やして体から力を抜いた。
暴走の理由は分からない。
だから消太くんに2匹付けて、そいつらが消えたら援護に向かうことにしよう。
「黒、相澤先生に2匹。白、全体に斥候。鳥をシンクロした状態で一羽上に」
『コトハ、無理しないでよ』
黒はそう言って二匹の獣を走らせた。
白もすぐに白い鼠を無数に散らす。
私と一緒に作った大きい鳥は、私と白にシンクロして、窓から大空へと飛び立っていく。
「皆、私に心を渡して。物間は私の個性コピーしないでね。普通に死ぬかもしれないから」
「ま、まあ、任せるよ」
やる気満々だったのか私に伸ばしかけていた手を引っ込めた物間に苦笑する。
昨日ぶっ倒れたばっかりだし信憑性あるよね。
「ブラド先生、私のお母さんが予知の個性だったんです。それで、不完全なんだけど、私にもその個性が受け継がれてて……」
「それで昨日、倒れたのか」
「大怪我するのが、一人……緑谷が、見た感じ、たぶん自損が大きいんだけど……あと障子が、腕を……切られたような気がします」
ブラド先生がぐっと眉根を寄せた。
イレイザーに伝えてくれと言われ、頷いてシンクロさせた鳥を飛ばす。
『コトハ、森のほうから四人誘導完了。敵に応戦してる消太くんのところに着いた』
「飯田、尾白、口田、峰田、誘導完了しました。引き続き生徒を探してきます」
「頼む」
皆が心をくれる。
私自身を抑え込む分をおろそかにはできないから、それはすごく助かった。
誘導用のネズミのほかに、戦闘用にいくつか獣を走らせて目を閉じる。
空に待機させた鳥とシンクロして、消太くんを視線だけで追いかける。
「相澤先生が緑谷と合流。命に別状はないようで―――ん!?」
「どうした?」
「相澤先生が洸汰くんを保護して戻ってきます。代わりに、緑谷が……」
『緑谷に応援を出すよ、コトハ』
うん。
怒りを孕んだ獣を使うのは本当に怖いけれど、今はこいつが一番強い。
それに、きっと皆を傷つけたりしない。
黒い、いつか見たおぞましい姿の獣を生み出して、落ちくぼんだ目をしっかりと見つめた。
「シンクロはできない。敵を、とにかく動けなくして。行け!」
獣は飯田たちと入れ違いになるように駆けだして行った。
『A組B組総員――戦闘を許可する!!』
マンダレイの脳に響くテレパスが、私たちにも届いた。
今更だ。
自分の身を守るためなら、みんなを守るためなら、私は躊躇ったりしない。
たとえそれで、後ろ指をさされようとも、法に背こうとも。
そうしないと、助けられない命があるのだから。
『敵の狙いの一つ判明!生徒の「かっちゃん」!』
「爆豪……!?」
マンダレイの声に、A組がハッと宙を見上げた。
まさか、そんな。
私の失った記憶が、そんな大事なものだったなんて。
『「かっちゃん」はなるべく戦闘を避けて!!単独では動かないこと!分かった!?「かっちゃん」!!』
思いだせ、思いだせ!!
爆豪が、どうなる!?
ぐっと頭を抑えるが、あの静電気のような激しい音はしない。
どうして!
いま来ないでどうする!
「コトハ、落ち着いて。今は場所の分かっているみんなを助けよう」
白がわざわざ姿を現して後ろから私を抱きしめて、まるで言い聞かせるように囁いた。
優しい声に、すとんと心が落ち着いて、導かれるように宙で卵を割る。
まるで、自分の体じゃないみたいだ。
「白鯨――モビーディック」
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