Step.103



「今はそんなことしてる場合じゃない」

私と全く同じ姿の白が立ちあがって無理に私の腕を引くと、眼球の分からない顔で私の顔を覗き込んだ。
よく分からないけれど、目があったような感覚がして、気圧された。
凄く、冷たい目。
私のことを、心底軽蔑しているようなそんな目に、困惑する。
白が私を、軽蔑、してる?
私が、ヴィランだから……?
ぱちん、と緩い音がして、私は白に叩かれたのだと一瞬遅れて察する。
さすがにまずいと思ったのか、私と白の間に黒が現れた。

「ま、待ってよ白、コトハだって今――」
「そんなことを、している場合じゃない」

聞き分けのない子供を叱るように、ゆっくりと言葉を区切って言った白は私の腕を放すと、黒を押しのけて胸ぐらをつかんだ。

「躊躇えば、絶対に後悔する」

それだけを吐き捨てるように言って、白は誰にもとめられず、部屋を出ていった。
あまりにも堂々としていたせいか、ブラド先生ですら止められなかった。

「えっ、ええええ!!?コトハ!アンタ白いのと仲悪いの!?」
「い、いや、分かんない」

想定外すぎて、というか、あんなに冷たい白が初めてで、返事の一つもできなかった。
白の背を見送ってしまった私たちは、やっと時間が動きだしたかのような気まずい雰囲気の中で顔を見合わせた。
でも、白の言い分も分かる。
だからこそ少し冷静になった頭で、今は私の出自の話はともかくとして皆を救わねばと思いなおしたのだ。
せっかく出した白鯨が役立たずになるところだった。
白へのシンクロは切られてしまっているためにできないが、白鯨とはか細いながらも繋がっている。
低空を飛ぶ白鯨を使い、腹のあたりから皆を回収するための触手を伸ばす。

「久地楽、大丈夫か?」
「ん、白に叱咤されて冷静になりました。後でへこみます」
「そ、そうか」

心配してくれたブラド先生に礼を言って、ぐっと目を閉じた。
白がいない以上、白鯨しか、もう使えないのだ。

「皆、白がいなくなった以上、みんなの白い心をもらって私が扱うしかなくなった。今までよりもっと心をもらうから、頑張って楽しいことを考えて」
「この状況でか……」

上鳴が困ったように苦笑して首の後ろをかいた。
黒が伺うように私を見るのにも構わず、白鯨に集中する。
既に鳥は私の支配下になくシンクロも切れているが、おそらく白が使っているのだろう。
だとすれば、鳥は白に任せて、私は今繋がっている白鯨を使って、皆を捜索するべきだろう。
私が考えうる中で最も安全な移動要塞とも言える白鯨を無駄にするわけにはいかない。
未だに気まずい空気を無視して目を閉じれば、眼下には森が広がった。
鯨が大きく吼えて、周囲の意識をこちらに向けさせる。
百ちゃんと、泡瀬を見つけた。
頭から血を流した状態の二人を見て、歯噛みする。
百ちゃんに言われてか、鯨に向かって手を振る泡瀬に触手を伸ばし、二人を鯨の中に回収した。
そうだ、いまやるべきことは。

『コトハさん、あっちにB組の皆さんがいらっしゃいますの!』
『頼む、行ってくれ!』

大丈夫、みんな助けるよ。
みんな。



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