Step.104



昔は、コトハの一部だった。
でも、成長と共に私と、器と、黒い私に分かれた。
白い獅子を作って暗い森を駆けながら、私はぐっとそのたてがみを握って顔をうずめた。
いつまでもしみったれて、やるべきこともやらないで。
悲劇のヒロインぶってれば、皆が慰めてくれるとでも思ってるんだ。
傷をなめ合ってれば、誰かが何とかしてくれると思ってるんだ。
許せない。
大っ嫌いだ。
そんなんだから何も守れない。
器の私も、黒い私も皆甘ったれているんだ。
私だけが、ずっと我慢してきた。
器の私の訳わかんない信条だって優先させてきた。
お兄ちゃんと遊びたくても我慢して戦ってきた。
訓練なんかやりたくないけど、それが、皆を守るためなら仕方がないと思って頑張ってきた。
私が、私だけがずっと頑張ってきた。
私は一回も甘えたことなんてない。
ぐず、とすぐに感情的になって涙が出てくる自分も嫌いだった。
鯨が向こうで咆哮している。
やっと、自分のやるべきことをやり始めたんだ。
遅い。
きっと傷つかなくていい人まで傷ついた。
器の私が、自分を憐れんで立ち止まりさえしなければ。
悔しかったら、立たなきゃだめだ。
皆が立ち止まるところで、立ち止まっちゃだめだ。
心が弱いコトハは、それでやっと人と同じスタートラインに立てる。
学年首席だとか、筆記テスト1位だとか、そんなお勉強ばっかりできたところで、誰も守れない。
動かなきゃ、絶対に守れない。
いつまでも与えられるだけの、導かれるだけの子供じゃ、大切なものを何一つ守れないのだ。
氷の見えた戦場に飛び込んだ。

「応援に来た!!爆豪は!」
「白いコトハか!!あの仮面野郎に取られた!けど緑谷が重傷だ!カバーしてくれ!」
「分かった!」

焦凍くんに頷いて、すぐに金髪の女子高生に獅子を突進させることでけん制し、緑谷の体を回収する。
ひどい状態だ。
腕を白で覆い出血を止めると、添え木のように固定した。

「いったた……あ、久地楽さんだー!下は、えっと、コトハちゃん!トガです!よろしくね!」
「きみ可愛いけど、私の友達傷付けたから絶対に嫌」
「わあ!可愛い!?ありがとう!コトハちゃんもカァイイよ!」
「全員逃げるぞ!!」

障子の声に、トガを警戒しながらそちらを見た。
爆豪が、まだ――。

「右ポケットに入っていたこれが、常闇・爆豪だな、エンターテイナー!」
「障子くん!!」
「っし!でかした!!」

状況が分からない私だけが理解できていないが、敵の手に落ちていた常闇、爆豪の奪還に成功したらしい。
なら。
障子を守るように獅子を向かわせ、私が緑谷の盾になった。
撤退するなら、私が最後尾を務める。
男子三人が集合し、走りだした瞬間、目の前に見覚えのある黒いワープゲートが現れた。
あいつ、だ。

「ぬっ!!?」
「障子!?」
「やられた!爆豪じゃない!!」

球体が消えたかと思うと、代わりに氷の塊が出てきていた。
そういう、ことか!
あの仮面の個性で爆豪及び常闇が取られたのだろう。
ワープに飛び込み逃げようとする仮面に向かって、私が姿を崩した瞬間、どこからかレーザービームが飛んできた。
青山だ!!
訓練で幾度となく見たそれに口角を上げて、仮面の男が吐き出した二つの球体を追う。
片方を障子が掴み取り、もう片方を――。
敵が獲った。

「哀しいなあ、轟 焦凍」

私が、全員守る。
崩れた体は敵の手の中に現れた爆豪に入り込んだ。
視界がシンクロし、ぼろぼろの姿で追いかけてくる緑谷を見た。
怒鳴りだしかけた爆豪の心を抑えて、全身を白で包み込む。
大丈夫、私が、心をかけて守るから。

「来んな、デク」

収まらない減らず口が動いたけれど、大丈夫。
緑谷、そんな顔しないで。
私が付いてるから。
傷なんて、一つだってつけさせないから。
ワープゲートが、閉じた。



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